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ざわつく空港で搭乗手続きを済ませ、芽結と長椅子に座った。
「はぁー、結構面倒臭いんだな。」
「海外だと特に長いよね。1時間位あるけどどうする?本でも買おうか?」
「だな、寝るにしても限度があるし…じゃあさっきの本屋行くか。」
「あ、私ちょっとお手洗い…先に行ってて。」
芽結が少し恥らいながら歩いて行...コトダマシ-最終話.MissionComplete-
安酉鵺
静かな廊下を少し足早に歩いていた。すっかり顔見知りになった医師や看護師さんが時折話し掛けてくれる。ドアの前で一度呼吸を整えてノックする。
「あれ…?」
返事は無かった。鍵も掛かっていなくてドアは簡単に開いた。
「流船…?」
空っぽのベッドにほんの一瞬恐怖を覚えたけど、サイドテーブルのメモにホッとして...コトダマシ-109.多分、凄く嬉しくて-
安酉鵺
映画のワンシーンの様に解除されて行く文字化け、相打つ様に次々と壊れて行く銃、目まぐるしいデータと報告、歓声なのか悲鳴なのかすら、もう解らなくなっていた。
「後3つか…。」
「やはり蕕音流船でしょうか?彼の場合原版との一致もありますし…。」
「…言霊は『認識』が重要である反面『無知』『感情』も大きく影...コトダマシ-108.全てを終わらせる声-
安酉鵺
一体どの位時間が経ったのかもう解らなかった。ただひたすらに集中して守っていた。イベントのステージを、はしゃぐ観客を、通り過ぎるだけの人を、文字化けと戦う皆を、大好きなあの人を…。
「本部!こちらイコです!武器が…!」
「『Cancer』と『Scorpio』も破壊!残り7です!」
「思ったより早いな…...コトダマシ-107.聖螺-
安酉鵺
鈴々がぽつりとつぶやいた。
「これって物凄い口喧嘩だよね。」
「そりゃ、まぁ…だけどスケールでか過ぎじゃね?」
「あはは、確かに…でもさ、ちょっとだけ楽しそうじゃない?戦隊ごっことかさ。」
ふざけたマスクしてるってのに、鈴々が笑ってるのが解った。その笑顔に安心すると共に、俺の中でずっと引っかかってい...コトダマシ-106.頑張れレッド-
安酉鵺
コンサートイベントの効果か辺りは興奮した観客の熱気に溢れていた。ステージ裏の本部に集合が掛かり、ヤクル、聖螺を除く適合者が集まっていた。忙しない空気の中、特撮の悪役よろしくな衣装の純が姿を見せた。
「…お待たせしました…。」
「うっわ、暑苦しいな~前見えてるの?それ。」
「特撮ってこんなもんじゃね?...コトダマシ-105.…良いのかな…?-
安酉鵺
目の前にいた芽結を文字通り掻っ攫われた気分だった。鳥の様な速さでビルの屋上へ上ったミドリさんをひたすら追った。何なんだ?まさかまた暴走しておかしな事に?いや、それ以前に何で芽結を連れてく必要があるんだ?焦り一杯で屋上へのドアを開け放った。
「アミダで決めてどうすんだよ?!馬鹿じゃないのか?!」
「だ...コトダマシ-104.笑うとろくな事が無い-
安酉鵺
「さぁ、皆ー!ハーミットファイブにエールだよぉ!」
「合図したら一緒に!」
ステージから二人の声と歓声が響いている。あの人達って何も知らないからあんなにはしゃげるんだろうなぁ…まぁ『もう直ぐ此処は戦場になります』なんて言ったら大混乱になるだけなんだろうけど。
「ふぅ…ねぇ後残ってるの誰?ファイブ役は...コトダマシ-103.AI-
安酉鵺
ステージに華やかな照明が灯り音楽と歓声が流れ始めた。それを確認すると銀髪の男はこちらに向き直った。
「悪いね、純君。気絶した人間って重いでしょ?流船君は小柄だけど鍛えてるみたいだし。」
「解ってんならさっさとしろよ…。」
いきなりの電話と流船を連れて来い、と言う指示。無視しようとも思ったけど、電話で...コトダマシ-102.領分-
安酉鵺
かっこ良く登場なんてガラじゃないんだよね。ほら、僕まだ子供だし?だけど適合者になって、変な呪いみたいなの掛けられて、怖がって逃げ続けて、僕の後ろに沢山の涙が積もってた。僕のせいじゃないって言うのは簡単で楽だったけど、それでもどっかで思っちゃったんだ…。
「ねぇ、僕も役に立てるかな?」
何が出来るのか...コトダマシ-101.大丈夫かな…?-
安酉鵺
「…状況は?」
「反応があったのは彼だけです。現在水影ゼロの移動が確認出来ましたがおそらく
暴走中ですね…。」
押し潰されそうな不安を振り払う様に唇を噛み締めた。怖がって震えてる場合じゃない、幾徒が何の為に保険まで用意したのか…私がしっかりしないと全部無駄になる…!
「制御プログラムを強制起動、イ...コトダマシ-100.超ギリギリ-
安酉鵺
戦隊物のコスプレなんて初めてしたけど意外としっくりくる物だった。衣装自体は少し派手目な普段着みたいな物だし顔もヒーローっぽいゴーグルで隠れてて見えない。これならちょっとは無茶な事やっても大丈夫!
「…死亡フラグ…?」
…話は少し前に遡る。うんざりする様な打ち合わせを重ねた後、いよいよイベントの本番を...コトダマシ-99.ふぁーいと♪-
安酉鵺
それから私達は何やら判らない内に色んな打ち合わせに終われる日が続いた。いきなり特撮やるなんて言われて何したら良いのか判らなかったけど、言魂の力でアクションヒーローみたいな動きが出来る様になるから問題は無いみたい。何度目かの打ち合わせで流石に疲れた私は休憩室のソファに深く座った。灰色の天井をただぼんや...
コトダマシ-98.がっしゃーんごろごろ-
安酉鵺
数分の沈黙を破ったのは意外な人だった。
「純はもう苦しまないで良いの?」
「…と言うと?」
「純はずっと辛そうだった…黒い羽が生えて…傷付けるの止められなくて…ずっとずっと
苦しんで…あたしが痛いのを代わってあげたら今度は純あたしの心配ばっかりして…!」
「コアちゃん…。」
「貴方が何企んでるかと...コトダマシ-97.諦めが肝心-
安酉鵺
時々思う…金持ちのやる事は気に喰わないって。ましてやそれが半端じゃないスケールだったりしたらいっそ笑える。と言うか笑う。
「ははははは。」
「どうしたの?ゼロ、水玉のキノコでも食べた?」
「帰る。」
「駄目よ、呼び出されてるし車で迎えに来てくれたんだから。」
レイは何故落ち着いてるんだろう?この度胸...コトダマシ-96.水玉のキノコ-
安酉鵺
「もう少し人数が多いと思ってたんだけどなぁ…。」
長い金色の髪をなびかせて彼女は少し苦笑した。忘れていたけど同じ年なんだっけ?興味無い上に立ち居振る舞いがもう年上みたいな感覚がしてる。
「あんなバレバレのメール見破らない方が馬鹿だと思ったけど?」
昨日の夜、銀髪男からメールが届いていた。
『適合者の...コトダマシ-95.敵を騙すには味方から-
安酉鵺
うず高く積み上がったモニターや機材の山を崩さない様に奥へと進むと、電気が来ているのか明るくなっている所があった。幾徒がスイッチを入れると辺りのモニターやPCが次々と起動し始めファンの回る音が耳に届いた。
「うわ…っぷ!ほこりが…?!」
「下手に動くなって、崩れたらヤバいだろ。」
舞い上がったほこりを...コトダマシ-94.不敵な笑み-
安酉鵺
朝早くから幾徒に電話で叩き起こされ、若干眠い頭で集合場所に立っていた。まだ辺りは薄暗く人もまばらだ。
「一体何~?ヤクルちゃんまだ眠いんだけど…。」
「私も何が何だか…当の幾徒さんは?」
欠伸交じりに話しているし、皆事情は特に聞かされていないらしい、と、聞き慣れた声が耳に飛び込んで来た。
「蕕音流船...コトダマシ-93.あんまんで殺人-
安酉鵺
電話を切ってから一呼吸置いて、それからまたソファに座った。
「電話誰から?」
「幾徒様です。全く困った人ですね…随分と懐かしい物を掘り返してしまって…。」
「あははは、血は争えないって事じゃない?」
やれやれと言った顔でメモを手に取るとサラサラと何かを書き始めた。
「…凄く今更な質問して良い?」
「...コトダマシ-92.秘密基地-
安酉鵺
今日は何だか凄く疲れたけど、久し振りに気分も頭もスッキリしていた。ウチの料理もお腹一杯食べたし。緊張していたのか倒れちゃったけど、きっと今頃芽結ちゃんも流船君が帰って来て大喜びしてるんだろうな…。頼流さんや皆も凄く喜んでたし、勿論私も嬉しかった。軽い足取りで自販機へ向かっていると、何処からか話し声が...
コトダマシ-91.あいこ-
安酉鵺
すっかり暗くなった外に無機質なネオンやライトが点った。何も変わらない景色が酷く懐かしい。あの白い世界から放り出されて、色んな記憶が洪水みたいに押し寄せて、気が付いた時には時計台の前に立っていた。足の向くまま、記憶を頼りに【Wieland】へ向かった。建物こそ変わっていたけどスタッフや、皆は同じだった...
コトダマシ-90.泣き虫のクセに-
安酉鵺
私を含めその場に居る全員がモニターを見守っていた。時折映る小さな流船を見る度、心臓が跳ねる。いつの間にかぎゅっと握り締めてた手にふっと誰かの手が触れた。
「大丈夫…。」
「レイさん?」
「あの二人なら大丈夫、そうでしょう?きっと…もうすぐ流船君に会えるわ…ね?」
「…はい…。」
『兄ぃ…!ねぇ待って...コトダマシ-89.おかえり…。-
安酉鵺
ナイフを持ったまま力無くへたり込んだ碧砂を皆が呆然と見ていた。インカムから聞こえる二人の声に冷静さが窺えてホッとする反面、何処かで二人の姿が自分と重なった。
『お前のせいだ!お前が…こんな物を作ったから!この悪魔!』
『733,598名…それが貴方が死なせた人の数。』
『何でお前は生きてるんだよ…真...コトダマシ-88.何よりも、誰よりも-
安酉鵺
直ぐそこに元気に走っている小さな流船の姿があった。思わず伸びそうになった手を、叫びそうになった声を、走りそうになった脚をやっとの思いで押し留めてインカムで指示を仰いだ。
『良いか?くれぐれもお前は動くなよ?』
「…解ってる…。」
気が狂いそうだった。目の前で真っ赤に染まって動かなくなった流船が頭にこ...コトダマシ-87.待ってるから-
安酉鵺
インカムから聞こえる声にクスクスと笑いが起きていた。顔を真っ赤にして俯く聖螺ちゃんにクロアさんが笑いながら話し掛けた。
「お前ちっちゃい頃から変わってないんだな…。」
「そ…それは…その…!こ、子供だったんです!大好きな番組の王子様で…だ、誰だってそう言うの
あるじゃないですか?!サンタさん信じて...コトダマシ-86.瞼に置かれた手-
安酉鵺
足元が一瞬無くなる様な感覚の後、爪先が地面をトンと捉えた。
「座標確認中、そちらに異常は?」
「大丈夫だ。」
インカムから少しノイズ交じりの声が聞こえた。これが10年後と繋がっているなんて正直未だに実感が沸かない。頼流は幾つか確認を終えるとスタスタと歩き出した。歩くと言うよりは小走りに近い。
「ちょ...コトダマシ-85.三つ子の魂百まで-
安酉鵺
数日後、流船を除く適合者が呼び集められた。事情を聞かされた皆はやっぱり素直に喜べず、警戒心も解けないみたいだった。私や頼流さんの方をチラチラと見ては話しあぐねているのがよく判る。
「芽結ちゃん…大丈夫なの?あの人…。」
「…ええ…。」
本当は判らなかった。嘘を吐いた。頼流さんみたいに今直ぐに引っ叩い...コトダマシ-84.信じて待ってる-
安酉鵺
首に掛かった手に今にも力を込めそうな自分が居た。項垂れたまま、先輩は擦れる声で言った。
「仇だと…思ったんだ…。」
「仇?」
「姉さんを殺したのは…闇月家だと…。」
「だから幾徒を殺そうとしたのか?」
「俺と幾徒の銃を合わせれば…10年前に飛べる…姉さんを救える…救える筈だったんだ…。」
ふとさっき...コトダマシ-83.投げた言葉-
安酉鵺
目の前で芽結が泣きそうな顔をしていた。頼流がミドリさんに詰め寄っていた。手を伸ばしても触れられない、叫んでも振り向いて貰えない、そんな空虚な隣でずっと皆を見ていた。
「そうなんだ…ミドリさんが…。」
「意外と冷静だね、もっと怒ったり悲しんだりするかと思ったけど。」
自分を消した人間が目の前に居る。だ...コトダマシ-82.空虚な隣-
安酉鵺
鬱音コアが回復してから数日後、私と頼流さんの二人は幾徒さんに呼び出されてとある病院に来ていた。
「ここに何の用ですか?」
「…お前等に会って欲しい人が居る。」
少し伏せて複雑そうな表情でそう言うと、幾徒さんは廊下をツカツカと歩き出した。この病院、何だろう?私の知っている病院とは少し雰囲気が違う。怪我...コトダマシ-81.優しげな空気に満ちて-
安酉鵺
【Wieland】の廊下を歩いていても判る。自分に向けられる視線と疑念に満ちた声。当然だって自分でも思う。少し前まで化け物で敵だった人間を直ぐに受け入れられる奴なんて居ない。
「おい…。」
「……………………。」
「ちょっと来い。」
刺す様な視線から怒りと敵意がビリビリ伝わって来る。彼は確かそうあの...コトダマシ-80.見逃して下さい!-
安酉鵺
インカムが復帰したのと、聖螺ちゃんとクロア君が戻るのと、暴れていた文字化けの撃破報告はほぼ同時だった。
「痛ってぇ!レイ…わざとやってないか?」
幸い骨や神経に異常は無いらしいけど、全身切り傷や痣だらけで戻って来られたら無事だったなんて思えない。少なくとも私はそう思う。
「痛みを感じるのは健康な証拠...コトダマシ-79.手-
安酉鵺
目の前が夜かと思う程真っ暗になった。喧しい音も、人の悲鳴も聞こえてるけど頭に入らなかった。
「先輩…?」
私はまだ信じていた。目の前に居る化け物が先輩だって信じたかった。ミスばかりだった私の練習に付き合ってくれた、落ち込んだ時は励ましてくれた、強くて、かっこ良くて、でも一杯努力してる先輩だって…。
...コトダマシ-78.君の役目で、君の権利-
安酉鵺
「まーったく!おつかい係じゃないっての…!」
お弁当忘れるとかうっかり過ぎだと思うんだよね…たまたま創立記念日で休みだからって忘れ物を届けに来させられた。何て言うか冴えないなぁ…。
「ヤクル?!」
「えっ?!えっ?!な、何?!誰?!」
真っ赤な髪のお兄さん?何で僕の名前知って…まさか…ストーカー?!...コトダマシ-77.僕は逃げ出した-
安酉鵺
インカムからの音声が途切れて数分…いや、数時間?幾徒は難しい顔で目の前のPCを見ながら素早くキーを叩いている。
「まだ復旧出来ないのか?二人は大丈夫なのか?」
「黙ってろ!生体反応は今の所異常は無い!」
「向こうの様子が判らないわね…大丈夫かしら…?」
「聖螺ちゃん…クロア…。」
出力側に異常は無い...コトダマシ-76.この手にもう一度-
安酉鵺
私達は悲鳴の聞こえた方へと走った。文字化けが出たんだろうか?だとしたら例の先輩が危ない?!直ぐに行かなくちゃ間に合わなくなっちゃう!
「先輩!大丈夫ですか?!血が…!」
「平気よ、少し切っただけだもの…。」
部室らしきコンクリートの建物に走った私達が見たのは、青ざめているイコちゃんと手の平を怪我した...コトダマシ-75.真っ黒に-
安酉鵺
話していても埒が明かないと言う事で本当に俺達はアミダをする事になった。当たり、いや、外れを引いたのは俺と『お姫様』の聖螺だった。
「聖螺、本当に大丈夫か?他ばかりじゃなくて自分も防御するんだぞ?
あぁ、それから…。」
「大丈夫です。私ちゃんと使いこなせる様に特訓しましたから。」
「そんなに心配なら...コトダマシ-74.仕向けられた-
安酉鵺
自分の頭の中に誰かが『脚本』打ち込んでた。そんな馬鹿みたいな話を聞かされた時は正直鈴々ですら熱あるのかな?って疑った。だけど言魂が解けてそれが本当だった事に驚いて、気持ち悪かった。例えるなら…。
「餃子の皮に刺身と生クリーム塗りたくった物食わされた気分。」
「…おえっ!」
「気持ち悪っ…!」
「例え...コトダマシ-73.世界の命運を賭けたアミダ-
安酉鵺
ゼロさんと鈴々さんが無事に戻って来た。正確に言うと降って来た。
「何でいっつも俺が潰されんだよ…。」
「痛たたたたた…。」
「王…ゼロさん!」
疲れているであろう聖螺ちゃんや、レイさんは二人に駆け寄って無事を喜んでいる。私は何処か遠い意識でそれをぼんやりと見ていた。どうしてだろう?脚が動かない。笑顔...コトダマシ-72.時間の先に-
安酉鵺
足元がぐにゃりと沈む様な感覚の後、私達は今度は駅前に居た。
「あ…れ?ここ、ウチのお店の近くだ。そんなに離れてないね。」
「そうだな、見覚えがありまくりと言うか…。」
安心交じりに辺りを見ていると、いきなり耳元で大きな声が聞こえた。
「二人とも大変だ!すぐ大通りのスクランブルまで走れ!」
「わっ?!...コトダマシ-71.絶対に許さないよ-
安酉鵺