わたしはその話を聞いて、まず一言目に思ったことは、『幻想話が暴走したんじゃないか』と思ったことだ。
 彼女が死んでしまったことにあるだろう。
 何度彼女が死んでしまったなんて、受け入れることは出来ない。
 したくないのかも、しれない。体がそれを拒否しているのかもしれない。
 数え切れないほど繰り返した伴侶の――彼女の会話の温度は簡単に思い出せてしまう。
 数年前に、妻を亡くして以来、彼女――アヤノだけが私の支えだった。
 だから――私は“人類学上やってはいけないこと”をしてしまったのだ。




「……これが人体組織の変貌……」

 私でも何を考えていたのか、はっきりとは解らない。アヤノが死んでから、ずっと計算をし続けてきた。周りからは気が狂ったとも言われるほどに、だ。そして私自身の体も変化してしまったようで――

「この目……まるで怪物じゃないか……」

 その異変は、眠くなってしまったので顔でも洗おうと洗面所に向かい鏡を見たときに気づいた。目が――赤くなっていたのだ。それも、純色。ただ、その目が赤いのは下半分のみで、残りの上半分はもとの黒いままであった。どういうことだ。これはいったい。……だが、感じることはひとつだけある。
 考えが、想像が、湧き出てくる。これはなんだ。力……なのか。カミサマとでもいるのだろうか。そんなものがいて、私に最後のチャンスでも与えてくれたのだろうか。……きっとそうに違いない。このチャンスを……無駄にするわけにはいかなかった。




 ……あの冴えた目で、私はどれほどの研究をしていたのだろうか。それはどう口で表現すればいいのか、わからないほどだった。数年余しか研究していない。にもかかわらず私の研究は人類進歩での数世紀分にも及んだらしい。わたしはそこである点に着目した。

『この世界のどこかに、終わらない世界があるらしい』

 それが真実かどうかは解らない。しかしそこを研究している施設なら、何らかの情報はつかめるはずだった。私は出向いて――ある研究を目にした。
 『カゲロウ計画』と呼ばれるそれは人工的に街を作り上げ――彼らはそれを『箱庭』と呼んでいた――そこに実験を住まわせる。カゲロウとは、ループ装置の役目を持っており、箱庭の人間からは黒猫に見える。私も見せてもらったが、なんとも可愛らしい。しかし、その擬態を解くと黒猫は人間へと変化する。なんとも不気味だ。
 私は計画の一部を見せてもらうこととし、八月十五日のループを行なっている『第一実験』を見学させてもらった。これは不老不死による精神ダメージの差異についての研究らしい。ただ、終わらない世界のエネルギーを受けているために、被験者がそのエネルギーに感化されることがあるらしい。
 なんでも、終わらない世界はひとりのメデューサが作り上げたものだと聞く。メデューサが不老不死を科学的に再現した――箱庭がこの場所だと、科学者から告げられた。
 次に、『第二実験』を見学した。第二実験は第一実験の別視点で行われる。黒猫――以後、カゲロウを呼ぶにこの名前を使うこととする――には欠陥品があるのだという。その欠陥品をもったいないから、実験の被験者にしてしまおうという流れだ。ちなみにどう違うのかと言えば、擬態ができないことだという。また、その欠陥品が猫に触れてループを解消されないよう、猫が嫌いにプログラミングされてあるんだとか。
 この実験、用意周到なのだが、一体どこから資金が出ているのだろうか? そんなことを科学者に尋ねたことがある。科学者はただ呟いた。『これは人間のエゴによるものだ。スポンサーなどいくらでもいる』と。
 科学者の言うことには、このカゲロウ計画は第一段階で、後にある終末に備えるため、二つのテーマを決めているんだという。



 『不老不死』
 『終末時における避難経路の確保』



 その二つ……とスポンサー側にはパフォーマンスしているらしく、科学者側はそれ以上の理論を引き出せる三つ目の価値を見出しているらしい。
 それは、人体実験の合法化。これによりスポンサーの賞賛、不老不死または終末(この際大災害でも構わない)のときに死者が少なければ、間違いなくこの計画は賞賛されるに違いない。そして、科学者は声高に叫ぶことができるのだ。『人体実験の合法化を!』と。





「……それがカゲロウ計画の全て、か」

 私は全てを話し終わり、キドという人間の方を向いた。キドは何も言わなかった。怒っていることには間違いなかった。

「つまりこの“能力”も終わらない世界によるもの……と言うわけだ」
「そういうことになる」
「これを戻す方法は?」
「終わらない世界を完全に破壊せねばならないだろう。CPUに相当する部分に薊というメデューサが住んでいる。彼女が終わらない世界を造りあげた張本人。……つまりは、彼女を殺せば全てが終わるだろうな」
「……よし分かった。そこまで案内しろ」

 案内、しなくてはならないのだろうな。
 これがわたしのしたことの罰というのなら、喜んで受けよう。少なくとも今のままなら、アヤノに顔を向けることは――出来ない。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

カゲロウプロジェクト 30話【二次創作】

「目が冴える話」

いよいよ最終章です。


――



この小説は以下の曲を原作としています。


カゲロウプロジェクト……http://www.nicovideo.jp/mylist/30497131

原作:じん(自然の敵P)様

『人造エネミー』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm13628080 
『メカクシコード』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm14595248
『カゲロウデイズ』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm15751190
『ヘッドフォンアクター』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm16429826
『想像フォレスト』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm16846374
『コノハの世界事情』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm17397763 
『エネの電脳紀行』
『透明アンサー』
『群青レイン』
『キミノメヲ』
『夜咄ディゼイブ』
『デッドアンドシーク』
『シニガミレコード』
『如月アテンション』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm17930619
『チルドレンレコード』:http://www.nicovideo.jp/watch/sm18406343
ほか


 まだ出ていない曲は、二次創作で執筆しております。
 また、まだ出ていない時期に執筆したものがあり、それらは改めて書いております。

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閲覧数:395

投稿日:2012/09/11 21:59:04

文字数:2,135文字

カテゴリ:小説

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