機械。



それはまさしく、人間の技術の結晶であり、人間が極めた科学のある種の形態だ。


油や電気を喰らうことで、知能の代わりに力を捨てた非力な人間に不可能なことを可能にしてきた。


発達した機械は武器としてある種の変貌を遂げる。―――――そう、普通の動物にはまず不可能な、『鋼鉄の超遠距離攻撃』―――――銃撃と砲撃である。





その二つを己が身に宿し、全身を兵器へと変化させることができる少女―――――『機獣憑き』リン・ミラウンド。










その機械に対する昆虫は―――――まさに自然が作り出したロボットである。



人間のような高等生物ならばいざ知らず、下等生物であるにもかかわらずその高い機能はまさに精密機械。


最先端の機械工学でも、時速70㎞で飛ぶ蜻蛉《トンボ》を、100℃の毒ガスをその場で合成して噴射する2cmの芥虫《ゴミムシ》を、足で踏んでも潰れることのない象虫《ゾウムシ》を、時速6㎞で走る蜚?《ゴキブリ》を再現することは叶わないのだ。





その昆虫の力を身に宿し、己が身を昆虫の物へと変化させることができる少女―――――『蠱獣憑き』初音未来。





機械と昆虫―――――作りし“者”は違えども、どちらもまさしく『戦闘』における一つの完成形――――――――――。










先に動いたのは未来だった。


『ヤン……バルッ……アームッ!!!』


空気を切り裂いて、ヤンバルテナガコガネの前脚がリンに襲い掛かる。

地面すれすれに低く構えながら走りだしそれを躱すと、右腕のグレネードランチャーを構えながら急ブレーキをかけた。


(反動ダメージの大きくないぎりぎりの距離まで近づいて―――――FIRE!!)


轟音を響かせて、先ほどの部隊の銃弾とは比較にならないほどの破壊力の弾の雨がミクの体に撃ち込まれ爆発する。

爆音、爆炎、土煙。地面が砕け散った。


その煙を裂いて―――――漆黒の鎧を纏ったカマキリの鎌がリンの首めがけ鋭く襲い掛かった!!


『うっ!!?』


ギリギリで首の周りに金属の壁を作って防ぐリン。元々切り裂くための武器ではないカマキリの鎌。どれほど破壊力が高かろうと、『それ』ごと破壊するには余りにも距離が遠すぎた。


――――――――――だが彼女にとって―――――その鎌はあくまで陽動のための一撃だった。


『青いわ―――――小娘が』

『えっ!!?』


未来は既に煙に紛れて――――――――――リンの下に潜り込んでいた。

地面に手を付き、体を折り曲げ、全身に力をため込んだ上で―――――両足を『ノミバッタ』の後肢に変えた。

膝にため込まれた力。それは敵を天空までかちあげる―――――“バネ”の力だ。


『ホッピング・キックっ!!』


《ゴォンッ!!》


全身の捻りを解放した強烈な蹴りが、リンを下から撃ち抜いた。普通の人間なら胴体が消し飛びそうな蹴りだ。

金属の鎧を生成できるリンにとってはそれほどまでのダメージを受けることはなかったが、軽い彼女の体は天空高く弾き飛ばされた。

咄嗟に体勢を立て直し迎撃準備を整えるリン。


『―――――――――――――――遅い』


だが未来はそれよりも速かった―――――すでに天空高く跳んでいた彼女は、オニヤンマの翅を広げて姿勢制御を行い、再び両足に力をため込んでいた。


『なっ……!?』

『教えてあげる。私、タイマンの方が得意なのよね』


解放された『飛蝗』の蹴りが、リンの背中を打ち砕いた!

打撃ダメージは鉄板で抑え込んだものの、猛スピードで地面へと叩き落された。このまま無抵抗に落下すれば―――――命はない!


『ぐ……ぬああああああっ!!』


咄嗟にそう判断したリンは、空中で体を反転し―――――予想外の行動に出た。


『なっ!?』


リンのマントが―――――突然銀色に輝き、左右二つに割れた。そして同時に、マントの下から四方向に青白いジェットが噴き出した!!


―――――ジェットエンジンと制御翼!!


強力なジェットがリンの体を地上激突寸前で止め、逆に上空へと急上昇させる。

再び未来と同じ高度にまで上昇したリンは、静かに未来を見据えた。


(……腰と、太腿にジェットエンジンを生成して飛行……考えたものね……だけどそれ以上に!)

『あんた……そのマントはいったい……!?』

『長い間身に着けてたら、いつの間にか私の体と結合しちゃったみたいでね……今ではこの通り、マントも服も……そしてこのリボンも金属化できるっ!!!』


ブン、と頭を振るリン。真っ白なリボンが瞬く間に銀色に変化し、極薄の刃となってミクに襲い掛かった。

腕の黒い鎧でそれをいなし、ヤンバルテナガコガネの前脚を生成してリンの胸元に打ち込む。

ジェット全開で躱したリンの両腕のグレネードランチャーが、狙いを未来の頭に定めて火を噴いた。

硬い鎧で身を固めた未来に次々と着弾するグレネード。強靭な黒い鎧には大したダメージは入らないものの、連続的に起きる爆発は未来の脳を激しく揺らす。

ふらついた未来に向かって、それでも休まずグレネードを撃ち込み続けるリン。


(相手には大きなダメージを与えられない……! ならば、連続的な攻撃で少しずつでも体力を削っていくしかない!)


問題はリンの方の体力だ。リンが作り出す兵器の弾は、獣憑き特有の高い再生能力を応用し、超高速の細胞分裂によって生み出している。

だがあくまで『獣憑き』―――――ベースは人間だ。あまりにも激しい細胞分裂は著しく体力を消耗する。


案の定―――――撃ちはじめて5分。突然リンの両腕のグレネードランチャーが黒煙を噴き出して弾を吐き出すのをやめた。オーバーヒートだ。しばらくはクールタイムが必要だ。


『はぁっ……はぁっ……はぁっ……』


息の上がっているリンに対し、未来は全身に煤をかぶっただけで目立った外傷は殆どなかった。

ただし撃ち続けた5分の、『爆発の衝撃』は大きい―――――下手に耐えきったおかげで全方向に揺らされた彼女の脳は、正常な判断力と、身体を制御するほどの力を持っていなかった。


『グ……ギ……ガアアァァアァアアア!!!』


狂ったような叫び声をあげると同時に、頭部に巨大なカブトムシの角が生成される。

続いてオニヤンマの翅が高速で動き始めた。

彼女としては、そのままオニヤンマの翅による超加速で、角をリンの胴体にぶち込むつもりだったのだろう。


―――――だが。

突然オニヤンマの翅が動きを止め、未来の体の中に収納されていく。

それだけではない。長い前肢も強靭なバネ脚もカブトムシの角も、普通の人間の物へと戻っていく。全身を包む黒い鎧すらも退化しだした。

揺らされたダメージで機能が低下していた脳―――――意識を保つのが精いっぱいで、幾種もの昆虫の力を制御することに気を回してはいられなかったのだ。


『う……あ……!?』


突然のことに戸惑っている未来。そこに向かって―――――――――――



『でぇええぇええぇええええええりゃああああ!!!!』

『ぐっ!!?』



リンの右腕に生成された巨大なアームストロングカノンの砲身が、ハンマーのように振り下ろされた!!

ゴヅン、と重い音がして、未来の体が地上に叩き付けられる。

一方クールタイム中のためにジェットを点火できないリンも、大砲の重量に振り回されて地上へと落下した。

2人とも未だ動かない体を叩き、何とか立ち上がろうとする。

そして互いに相手を睨みつける。



(こいつ……兵器の力に頼り切った小娘かと思えば、兵器の特性を生かすだけでなく、自らの金属変化を服にまで生かし飛行すらも軽々と行う……あのテトさんが見込んだだけあって、かなりの強さね……!!)


(19億人大虐殺をやるだけのことはある……いくつもの昆虫の力をあれほどまでに自由に操る事ができるなんて……しかもどの能力も全てそれが最も輝くであろう瞬間に使っている……ここまで昆虫に寄り添った戦い方ができるだなんて……!!)



お互い感じていた。こいつは強い。気を抜けばやられると。





だがそれだからこそ、負けられないと――――――――――――――――――――!!










その頃。山を跨いだ小さな草原では。



『っく……ったくよぉ……やってくれるじゃねーか……』


体中を氷漬けにされ、身動きが取れずにいるレンと。


『あ……あんたこそほんっと……とんでもないもの浴びせてくれるじゃない……』


全身水浸しで膝をついている流歌が。





そのまともに戦えるのか怪しい状態で、なお相手を力強く睨みつけていた。





話は――――――――――レンが未来から流歌を遠ざけた、10分ほど前にさかのぼる。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

四獣物語~獣憑戦争編③~

まずは昆虫と大砲の機能勝負!
こんにちはTurndogです。

大砲も技術の結晶だと思いますが、昆虫は自然が作り出した機能美だと思うんですよ。
その小さな体に作りこまれた超機能は目を見張るものがあります。
人間と違って小難しい知能は必要ない、本能はコンピュータみたいなものだから簡単に似たようなものが作れると思うでしょ?
現代の技術でも作れないんですよ、トンボもゴキブリも!
どう!? 昆虫凄いでしょ!?(きらきら)
(以下延々続く昆虫談義)

勿論リンちゃんとて負けてはおりません。
自然の怒りの体現者が服を巻き込まないだろうという理由ですっぽんぽんにされた流歌ちゃんとは違い、人間の作り出した科学の結晶をその身に宿すリンちゃんなら服を自らの体に融合させてしまえるんじゃないかっていう発想です。
因みに未来は服が破れたら適当な人間から引っぺがす派(中身の人間は一応殺る←)。

閲覧数:128

投稿日:2014/05/07 20:29:31

文字数:3,677文字

カテゴリ:小説

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