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 竹垣の間に、檜の柱で瓦葺の門が立っている。竹垣に堅牢な瓦葺とはとも思ったが、目を凝らすと竹垣の裏側に、腰の高さほどの竹垣がめぐらしてあって、斜めに立てかけた竹の支柱が表の竹垣を支えている。つと目をやると、横に広がった竹垣は微かに内側へ傾いている。門にかかる料亭の名は、『竹櫓』。見れば三尺少しの竹垣の上に、妙な窓が穿ってある。銃でも備えていれば、さぞ攻め甲斐のある『櫓』となろう。主人の気骨を感じさせる構えである。

 「結月、先に帰っていろ。明日は早いから、休んでいて構わん」
 「では、猫村閣下に宜しくお伝えください」
 「猫村だけではないな。私の副官として着任したのだから、明日は気を引き締めて参れ。今日はゆっくり休むがいい」
 「はっ」

 第1機動攻響旅団司令の神威がくぽは、結月ゆかりが乗り込んだ公用車を見送って、料亭『竹櫓』の門を開けた。

 「あ、主人はいるか」

 屋敷に入って開口一番、がくぽはぶっきらぼうに呼ばわった。武人なのでというか、戦ばかりで礼儀を知らないし、自分が中将にまで成り上がるとは思ってなかったから、実はこんな料亭に呼ばれてもありがた迷惑でしかない。

 「はいはい。巡音様の」

 出て着た女将が、開口一番に言い当てた。このスムーズな応対、一流であればあるほどそうなのだが、それを知った所でがくぽにとっては恥を思い知らされるだけでしかない。真っ当な料亭だと、呪文のような向上を述べられていつの間にか座敷に連れ去られているのだ。

 「ああ。少し早くつきすぎたかも知れんが、茶を所望したい」
 「かしこまりました。別の座敷にて茶を立てさせますので、こちらへ」
 「……ああ。熱いのを頼む」

 最悪だと思った。あのクリフトニアで10%の経済を支配する巡音財閥の会長の長女の娘という、巡音ルカの招待だという事を忘れていつも通りのハッタリを利かせたところが茶を勧められるという始末である。本当の所を言うと、もう今すぐ帰りたかった。

 「巡音殿はいつ来られるのかな」
 「はい。お着きになりましたらお呼び致しますので、ご心配なさらず」
 「よしなに」

 定刻の20分前。この位の時間なら、普通は座敷に通されるものだ。

 「お茶菓子は、甘い物以外にも煎餅や漬物などありますが、如何ご所望ですか?」
 「そうだな。食前だから漬物をもらおうか」
 「畏まりました。塩の加減は如何ですか?」
 「利いてる方がいいな」
 「では、利いてる物をお出し致します」
 「なんなら塩でいいぞ?」
 「はあ、塩のようなのもございますので」

 この女将、できる。一瞬だけだが、自分が場違いであるという気分を忘れてしまったし、忘れてしまった。

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機動攻響兵「VOCALOID」 第4章#6

塩みたいな漬物wwwwありえんのかwwwwwww

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投稿日:2013/02/12 23:17:09

文字数:1,144文字

カテゴリ:小説

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