ーーーーキミが幼かった頃。
あの頃は、とても楽しかったのを覚えているよ。
だって、夢の中でたくさんお話をしたもんね。
そうだよ?
ボクの声はキミには聞こえない。
それでも、よかったんだ。
だってキミがボクを必要としてくれるから。
それだけで、よかった。
ーーーー……はず、だったのに。
ーーーーいつだったか。
キミはどこかにでかけては、お花を摘んでくるようになったよね。
それはスゴく綺麗なのに、なんだかちょっぴり怖かったように思う。
それはきっとその花が。
……ううん、違うよね。
キミと同じくらいのコドモが。
真っ白な顔をした人形が、
部屋にたくさん並べられるようになったから。
きっとキミは、
無邪気にお花を摘んできてたんだよね?
楽しそうだったもの。
ボクになんて、目もくれないほど。
それなのに、なんで?
なんでボクの前に花束を並べたの?
ボクが好きだから?
それとも違う意味があったの?
わかんないや。
わかんないよ。
だってキミは、ボクの前で笑っているのに、ボクのことは、連れていってくれなかったんだから。
人はどうしてこんなに、脆いものなんだろう。そんなこと思うはずじゃなかったんだ。
だってボクは、違うから。
朽ち果てる時、なんて知らない。
ボクはずっとボクで、
キミはずっとキミで、居てくれると思ってた。
あの時、キミが言ったのに。
『またね』
そう、言ったのに。
たとえそれが、ボクに向けられたものじゃなくても。
けど、キミは言ったでしょう?
『誰も、連れてかないから安心してよ』
その言葉の意味がわからないんだ。
誰もって、みんな連れて逝ったくせに。
ボクのことは、やっぱり見えていないのかな。
これは、誰かに聞いた話。
キミは、此処で、ボクと同じ部屋の中で死んだんだって。
ボクが、隣にいた時?
いつ?ボクは、知らない。
死んだって何?ボクは知らないよ。
ボクにはキミが見えてるのに、
キミにボクは見えないの?
誰かが言った。
「あの子には、キミしか居なかったものね」
誰かが笑った。
「遺産なんて、渡す相手もいないでしょうに」
腹が立つ、という気持ちが分かるなら、こういうことを言うのだろうか?
ボクは何も知らないから、だから上手くできないけれど、キミの真似事をすればわかるのかな?
確か、キミは、こうやって並べていたよね?
ボクはよく覚えているんだ、見てたから。
けど、どうして?
キミのようにはうまく行かないや。
だって、ちっとも綺麗じゃない。
赤いんだ。
気持ちよさそうに、
眠っていたコドモたちとは違って。
その隣に生けられたお花とはまるで違って。
とても、汚いの。
あぁ、赤が黒く変わったね。
やっぱりとても、汚いや。
キミが、持っていた、
あの綺麗だった花束は、どこにあるんだろう。
そういえば、どうしてボクの前に並べたんだろう。
そういえば、どんなイロをしてたっけ?
ーーーー…あぁ、時間だ。
何の時間かって?
それはね、オシマイの時間。
キミが、死んだ、でいいのかな?
そうなってしまったように。
ボクだって、永遠にいられるわけじゃないんだって。
ダメなことをしたからって言われたけれど何のことだかわからない。
イノチって、キミならわかる?
それをとったから、怒られてるんだって。
そんなの、知らないよね、わかんないよ。
ふらふらする。
なんだかいなくなっちゃいそうな、そんな気がする。
これが……死んだ、ってこと?
なんだかとても眠いんだ。初めての感覚。
たぶん、消えちゃうんだろうね、ボクは。
でも、そんなのどうだっていいんだ。
ボクは、誰にも見られていないんだから、キミにさえも。
だけど、ボクが、
キミを見えなくなる、それはなんだかイヤだなぁ。
『……誰も、連れてかないって言ったのに』
キミの、声……?
また、そう言うの?
今度は、連れていってくれるの?
手を伸ばしてもいいのかな、
届くのかな、わかんないよ。
でも、
「ボクはただ、キミに」
願わくば、今度は。
この声が、キミに届くと良いのにな。
『最期まで、ばかだね……』
誰かが笑っていた気がする。
これは、
ボクの手が、届かなかった後のお話。
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