ここに愛に飢えた獣が一匹、
今日も孤独に生きている。
幸せそうな周りを見ながら、
「巫山戯るな」と震える声で一言呟く。
また一つ、許せないものが増えた。
思い出のある公園のベンチに腰を下ろし、
「何をやっても思い通りにいかない」
等と言いたげな表情をし、
アルコールを無理矢理胃に流し込む。
脳裏に映し出される光景を一つ一つ追いながら、自分自身に言い訳をする。
あの頃に戻りたいという思いは、
正直まだ残っている。
自身の半生を悔いると同時に、
瞳から数滴の涙が溢れ落ちた。
少しずつ呼吸が乱れ、
両手が震えているのを感じる。
薄っぺらい綺麗事に振り回されてきた過去。
多くのものを捨て、多くのものを失った過去。
愛しい人から裏切られた日から、
俺の人生は孤立していた頃に戻った。
なんて妄想をするのはこれで百回目くらいだ。
本当は、愛する人も親しい友人もいない。
叶うはずもないと知りながら、
僅かな希望を胸に生きてきたが、
結局、現状は何一つ変わらなかった。
女も抱けない、マトモな職にも就けない、
顔も性格もクソ以下、人間関係もぐちゃぐちゃ、
異性からはキモがられてばかり…。
ありもしない来世に思いを馳せ、
子供の時みたいに空想の世界に浸っている。
毎晩不安に押しつぶされながら、
布団に潜り、大人気ない声を上げて泣く大人。
こんな人生に何の意味がある?
このまま生きて、何の意味がある?
こんな俺に、一体どんな価値があるんだ?
「いつまで逃げる気だ?」
頭の中のアイツが五月蝿く吠える。
いつまでも逃げてやるよと俺は返す。
お前らのせいで、俺の人生は滅茶苦茶だ。
そう、いつもみたいに不正解ばかり引いてきた己の選択とそれを許さなかった出自を恨みながら、廃人と同じ虚ろな目で周囲を睨みつける。
「さて、今日は何処へ行こうか?」
空き缶をゴミ箱に投げ入れ、公園を後にする。
このまま老いていくくらいなら、
いっその事、首を括った方がいいのかもしれない。
そう考えながら向かった先は、
今まで来たこともなかった深い森の中。
生い茂る草木を掻き分け、
目に見えない力に誘われるように、
目的地も分からないまま只管に突き進む。
俺は立ち止まり、ゆっくりと顔を上げる。
視線の先には、樹木に括り付けられた大量の首吊り死体があった。
俺は狂ったように笑った。
全ての死体が、俺の顔だったからだ。
俺はその場で膝をついた。
否定されてきた日々を思い返しながら、
バカにされてきた日々を懐かしみながら、
失敗して恥を晒した日々を慈しみながら、
償えなかった罪を悔やみながら、
このまま嫌われ者として死にゆく己を想像しながら、日が暮れるまで笑い続けた。
嬉しかった。
嬉しくて、嬉しくて、また笑った。
あぁ、報われたかったな。

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夏休み(盲目)

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投稿日:2023/09/15 22:49:28

文字数:1,158文字

カテゴリ:小説

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