「・・・・・・・・・・・・・・は？」

俺は亞北ネルと向かい合って話している。

「だからぁ、ヨリ戻そう？」

「どうせ母さんが専務になったからだろ」

こいつは金と男に目が無いことは知っている。

「う～ん・・・それもあるけど、最近刺激が足りないの」

「フザけんな。俺今リンと付き合ってるし」

「へーえ。リンちゃんのこと好きなんだ？」

ネルはにやりと笑った。






「じゃあ、その大好きなリンちゃんが今犯されてるとしたら？どうする？」






体温が一気に下がった気がする。否、下がった。

「ま・・さか」

「今、リントが楽しんでるみたいね。声、聞く？」

ネルは携帯を俺の目の前に出す。

おそるおそる耳に当ててみると・・・

『ゃめッッ…ひゃ……ぁ』

確かにリンの喘ぎ声がする・・・

「頼む。リンを解放してやってくれ」

「嫌。アンタが言うこと聞くならいいよ？」

「金が無いんだ、本当に」

母さんには迷惑をかけたくない。

リンを汚したくも無い。

「そ。じゃああたしがしてあげられる事はないわ」

「なッ」

俺の金を使うか・・・？

「10万・・・なら・・・」

「ちょっと少ない」

「それ以上は無理だ」

「仕方ないなぁ。それで縁切ってあげる」



＊



「持ってきたわね」

「リンの・・・居場所を・・・」

ネルはまた笑顔になる。

「縁は切ってあげるわ。でも居場所は教えない」

「なっ・・・約束が違うだろ！」

「縁切れたし？リントにきつく言われてるし？」

頭に血が上った。

それでも昔はネルが好きだった。

こんなネルじゃなかった。

変わったのは・・・リントとつるむようになってから。

「何で・・・リントなんかと手組んでんだよ・・・」





「――――あたしだって好きでやってる訳じゃないんだから」





「レンを振ったのだって、全部、本心じゃない。でもこれ以上は何も言えない」

ネルはどうやらリントに脅されているらしい。

どんな弱みを握られたかは知らない。

「やっぱり、もうあたし無理だよ」

「ネル・・・」

「もう、二度とあんたたちの前には現れないから。あっでも、金は借りるね。いつか、きっといつか返すから」

「要らない」

「でもっ」

「元彼の義理。裏切りじゃないことも分かったし」

「レン、ありがとう。リンちゃんのこと、助けてやってね。詳しい場所は言えないけど・・・この近くに居るから」


今度こそ、本当の。


「さよなら」



＊



俺は走り回った。

リントの家は留守。

多分ネルの家だろうと踏んでいたが、ネルは引っ越していた。

でも、引越したとしても、マンションから一軒家に変わっただけのはず・・・

『亞北』という表札を捜して、捜して。

日が落ちる頃、ようやく見つけた。



＊



「リンっ！」

リントもネルもいなかった。

居るのは、廊下に転がったリンだけ。

目隠しをされていた。


そっと目隠しを解いてやると、リンは目を覚ました。

「・・・・・・レ…ン」

「リンっ！ごめん・・・本当に・・・守ってやれなくて・・・」

リンは泣いた。

辺りが暗くなって、街灯がつき始める頃まで泣いた。