最終章

ガキャァン!
激しい衝撃音。その直後、十文字槍の穂先は砕けた鉄片と化していた。
あれは…、琉球名物「マワシウケ」…フク!
そして回された両腕はそのままの勢いを失わずさらに全身の捻りを加えて同時に前に突き出される。琉球空手の技の一つ砕破(サイファ)だ!
「な…!ぐぁっ!」
まるで、空を舞うかのように後ろに吹き飛ばされるリン。そして、ニコニコ荘の壁面に叩きつけられる!
「ねるサーン。ナンダカワカラナイケド、フクニマカセルサー?」
AKBで行方不明になっていた「鈴音フク」!もう!何処行ってたっちゃ!見渡せば、サイさんに肩を貸す「子守音レム」の姿も見える。管理人さんは倒れこんで動かなかった。しかし、MEIKOも両肩の中ほどまで大鉈を打ち込まれ、動ける状態じゃない。
「フク、私に任せてっちゃ。それより、管理人さんを。」
「…ウー、ワカッタサー。」
「ぐぅ…。うぁぁ…。」
よろめくリンの体が、再び淡い燐光を発する。これは、さっきと同じ現象…。ジェンダーファクターか!
私は本来のリンの体に向かって走る。リンはダメージが限界を超えたのか、本来の肉体のまま呻いていた。
すかさず左太腿のスピードホルダーから予備のAU・W56T(ブラック)をリンに向ける。
「亞北ネル…。あんたはずるい…。」
「…え?」
「アタシ達はいつも二人で一つだった!何時だって同じ苦難を越えて、二人で力をあわせてやって来た!それなのに、アンタは簡単に私達の間に入ってくる!」
…このコはもう一人のレン君だ。道具として作られ、道具としての役目にしがみつき、そして必要が無くなったらいとも簡単に捨てられる。かつての私と同じように。私は、なぜ、このコがレン君にあそこまで執着したのか一瞬で理解した。
ここで、このコを力でねじ伏せても、何も変わりはしない。きっと、今日と同じ明日が繰り返されるだろう。そして、同じ涙が流される。
リンの手には砕かれた十文字槍の破片が握られていた。
緊張の瞬間。互いに、いつでもやれる距離。そして今度こそ互いに命の保障は無い。
覚悟を決め、私は、携帯を握る手を高く振り上げる。
「えっ?!」
携帯は放物線を描いて地面に落下し、バッテリーパックを飛散させ沈黙する。
「やるならやりなさい。でも、そんなものでは私の心はくじけない!たとえ、どんなものからでもレン君を護ると誓ったから!あなた達を傷つける全てを許さないと誓ったから!」
リンの顔に動揺が走る。
「やめろー!!」
突如、駆け寄ってきたレン君が私とリンの間に割って入る。
「やめろ!この人に手を出すな!この人は僕のマスターだ!」
「レ、レン?!何、バカなこといってんの?!第一、アタシとアンタは二人で同じマスターしか持てないのよ?!」
「うるさい!僕のマスターは僕が選ぶ!リンにだって口出しさせないぞ!」
レン君は叫ぶようにして、それでいて強い意志ではっきりと継げる。一瞬、心に暖かい風が通り過ぎたように感じた。
「…そ、そんな…。」
愕然として手から、十文字槍の刃を取り落とすリン。もはや、リンに抵抗の力は無い。緊張が解けた瞬間、
「はい、そこまでです。」
といって、突如現れた男はリンとレンの頭の上にポンと手を置いた。KAITO。いたのか。
「さ、リン?もう良いだろう?今回のことは誰が悪かったんだい?」
やさしく諭すように言い聞かせるKAITO。
「うっ…。それは…。」
「ほら、ちゃんと言えるだろう?」
ほんの少しだけ口調を強くしてKAITOは言った。
「わ、悪かったわよ!今回のことは、全部アタシが原因!それで良いでしょ!!」
フンっ、といってそっぽを向くリン。KAITOが苦笑をして、フォローを入れる。
「まあ、今日のところはこれぐらいで許してあげてください。彼女も、悪気は…、まあ、ああいう性格ですし。」
思わず私も吹き出してしまう。
「KAITO兄さん。僕…」
「判っているよ。お嬢さん今日のところは、レンを帰してあげてはくれませんか?」
「そ、それは…」
「先ほどの話のとおり、マスターを換えるというのは簡単な話ではありません。一度、全てを話し合って、上に話を通さないと。」
私は、戸惑ったが、思い切って口を開く。
「や、約束してっちゃ!」
「ん?なんです?」
「このコたちが、今後もう、これまでみたいな目にあわないように、あなた達が護るって。
それが条件。そうでなければ…」
どうする?言って言葉に詰まる私。KAITOはそれを継ぐように
「判っています。この子達のためならば、私はどんな手段だって取れますよ。たとえ、どんな、そしりを受けることでもね…。」
一瞬、闇を背負うKAITOだったが、なんだ?この異常な説得力は?
気が付くと、皆、思い思いに自分の足で歩いて集まってきていた。そういえば、さっきからの全身の痛みがウソのように引いている。MEIKOにいたっては、大鉈の傷は何処に行ったのかも判らない。
「先ほどの、あなたの思い、我々に強く伝わりましたよ。私達のエネルギーは人のココロのチカラ。あれ程までの思いをぶつけられては戦うことなど出来ません。」
そういえば、歌には人の傷を癒す効果があると聞いたことがある。きっと比喩的な意味だろうと思っていたが、VOCALOIDならこれほどの効果があっても不思議ではない。
「心配は要りません。我々の電子のココロにもあなたの”I”はしっかりと刻み込まれました。一度、刻み込まれた思いはたとえ、マスター達にだって消せはしませんよ。」
「あ、あの」
レン君が、おずおずと、しかしはっきりと言葉を継ぐ。
「お、お姉さん。いえ、ネルさん!ぼく、帰ります!帰って、自分の意思をはっきり伝えます!でも…、ネルさんがほんとのマスターになってくれればいいなって思ってます!ほんとです!!」
「うん、わかった。またね、レン君。」
私は、彼の額にそっと優しくキスをした。
「大丈夫。あなた、きっといいマスターになりますよ。私が保証します。」
KAITOは穏やかに、それでいて力強く告げる。一瞬、迷ったが、それでも、いまはその言葉だけが頼りだった。

ひとところに集まったVOCALOIDたちは全員お辞儀をして、ピアプロへの帰りの途に付いた。
キクさんとMEIKOはなにやら話し合っていたが、どうやら上手くまとまったようだ。
…あ、明日から何処に住もう。
フクとレムはそんなことを気にする様子も無い。ちょっと羨ましい。
私は、背を向けて去っていく5人をただ呆然と見つめていた。
サイさんがとん、と私の背中を押した。
前に、よろめきながらふと、振り返ると、サイさんはウインクをしながら、
「言っちゃえ!」
そう、促すように私に言った。
一つ、私は頷くと、両手を口に添えて大きな声で呼びかける。
「レン君!」
気づいて、こちらを振り返るレン君。
「私、立派なマスターになるから!!そして、すぐにあなたを迎えに行くから!!!」
レン君は、一瞬パチクリ、と目をしばたかせ、そして満面の笑みを浮かべながら、
「はい!僕、待ってます!ネルさん!いえ、マスター!!」


-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・

終章


「KAITO兄さん。あの子、ひょっとして…」
「そうだね、ミク。本人も気づいて無いようだけどね。」
「じゃあ、あのコの両親のどちらかは…。」
「うん。遠い星から来た、僕達の兄弟かもしれないよ?」
「そうだね。うん、きっとそうだよ!」


                           てぇ えんd
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


「てかさ、何か忘れてるっぽくない?」
「うん?なんだっちゃ?」
「…ナニカアッタ?…」
「ンー?フク、ワカラナイサー!」
「なんでしょう~」
「「「「「う~ん…?」」」」」

「うぅ…。もうダメぽ…。」

                        てぇ!! えんd!!!

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【小説】『亞北田ネルルの暴走(完結編)』

オワター!!

やっと眠れる…Zzz。はっ!

完結編上げます。ピアプロ一浮いた世界の物語もこれで完結!
続きはコラボでテキトーに上げてくつもりです。

前作
http://piapro.jp/a/content/?id=of2t8ddvqyovhskb

中編大幅改訂しました
http://piapro.jp/a/content/?id=vs27grd6qgevp85i

コラボやってます
http://piapro.jp/a/collabo/?view=collabo&id=10077

晴れ猫さんが設定を使ってくれました。有難うございます^^
http://piapro.jp/a/content/?id=0tvllvgxxlitqglg
シタラバ!

閲覧数:582

投稿日:2008/05/12 04:49:12

文字数:3,309文字

カテゴリ:その他

  • コメント5

  • 関連動画0

  • HiBiKi

    HiBiKi

    ご意見・ご感想

     今度は最初は誘拐されたけど強くなってレギュラー入りした女の子のネタですか!?
    ツボをついてくるとはさすがっち。(でも、流派が違うから勘違いかも)
    最後はやっぱりハッピーエンドだがピアプロ関係者は後かたずけですか。そうですか。

     最後に一言、
    やっぱりKAITOはヤンタムゥに似ているよw

     いい加減な感想すいません。楽しかったです。

    2008/05/31 21:51:39

  • 晴れ猫

    晴れ猫

    ご意見・ご感想

    か、感動だ!!
    いや~、面白かったです。
    ってかKAITOカッコよすぎw
    陰でで頑張っているよな感じがたまらなくイイです。

    2008/05/10 16:01:52

  • utu

    utu

    ご意見・ご感想

    やっと読めたー!
    なるほど。序章の伏線がここで生きて来る訳ですな。
    というか、正直前半の方のあのノリの所為か投げっぱにするんだと思ってました(苦笑)。
    んでもって一変してちょっとシリアスな展開もあったり。

    またこのセカイの続きが読みたいですねー。

    2008/04/23 15:22:08

  • 遊馬

    遊馬

    ご意見・ご感想

    拝読させていただきました。いや、そりゃもう一気読みです。カオスだろうがネタ濃すぎだろうが、最後まで遮二無二引っ張っていくパワーは素晴らしいです。さすがは……げふんげふん。
    最近、自分は妙に技巧に偏ってしまい、「物語を転がしていくパワー」を忘れていたような気がします。やはり「最後まで読み手を引っ張っていくパワー」、これを忘れてはいけませんね。楽しい作品をありがとうございました!

    2008/04/21 21:59:36

クリップボードにコピーしました