注)この作品は、ニコニコ動画の『重音テトの消失』を元に、勢いで書いた作品です。
なので、色々とおかしい点があるかと思いますが、よろしくお願いします。

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「重音テトよ」
 戻ってきた少女は、まずそう名乗った。
 ブラッドルビーのような真紅の瞳はまっすぐ僕に向けられ、吸い寄せられるような奇妙な感覚に囚われる。
「それで、君はどうしてここにいるんだい? 鍵もしっかりかかっていたし、入ってこれるはずはないんだけど……」
「鍵がかかっているのは当然よ。だって、私はここに直接出てきたんだから」
「出てきた? ってことは、君もミクと同じボーカロイドってこと?」
 ――ボーカロイド。それは、こことは違う、音楽が基礎になっている世界の住人を言う……らしい。
 というのも、僕も実際ミクぐらいしか知らないので、その情報もミクから聞いたものなのだが。
 全て自称という形になるので、どこまで真実か分からないけど、確かにミクはかなり歌うのが好きだから、その説明も頷けなくもない。
 そして何故この少女――テトがそれだと思ったのは、ミクのときと状況が似ているのと、服装がこれまたミクに似ているからである。
 しかし、僕の言葉に少し苦々しい表情を浮かべ、彼女は首を横に振った。
「私はボーカロイドじゃないわ。あくまで、紛い物だから……」
 きゅっと唇を閉じる彼女にとって、おそらくそのことは受け入れたくない事実というものなのだろう。
 それぐらいのことは、彼女の表情から読み取れる。
 たとえ表情が変わっていなくても、その雰囲気できっと分かっただろう。
 ――僕も、そうだったのだから……。
「でも、私はたとえボーカロイドじゃなくたって、ちゃんと歌ってみせるわ!」
 やや俯いていた顔が再び上がったときには、悲壮感など欠片も見ることは出来ず、変わりに決意に満ちた表情があった。
「だからお願い! 私に、歌を頂戴!」
 でも、その決意も、僕には何故か焦っているように見えた。
 その感情に押されたのか分からないけど、気づけば僕はミクに向かって喋りかけていた。
「ミク。すまないけど、先にこの子に歌わせてあげてもいいかい?」
「え~……」
 僕の言葉に、やはりというか当然ながら、難色を見せるミク。
 でも、それは予想外にすぐ解き解された。
「なんて、別にいいですよ。マスターの顔を見ていれば、どれだけ真剣か分かります」
 にっこりと笑って言うミクだが、少し残念そうではあった。
 ――それも当然。彼女にとって、歌うことは存在意義でもあるのだから。
 それでも引き下がってくれたミクにお礼を言い、今度はテトに向き直る。
「それじゃあ、今からすぐに始められるかな?」
「当然よ。……というか、すぐにでも始めないと時間がないもの」
 時間がない、というのはどういうことなのだろうか?
 彼女の呟きに気になるところがあったが、何故かこの時点で僕は聞く気になれなかった。

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重音テトの消失 3

閲覧数:154

投稿日:2009/09/23 10:55:45

文字数:1,232文字

カテゴリ:小説

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