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休憩時間。仕事を一段落したデルは大きなあくびをして椅子に深くもたれかかった。
デルのする仕事は主にパソコンを使うもので、一日中デルはパソコンの前に座ってカタカタとキーボードを叩いている。一日も座っていたら肩がこるんじゃないかと思われがちだが、それがもう慣れてしまっているデルにとっては、別に大したことではなかった。
デルはふとパソコンのすぐ横に置いてある新聞に目をやった。見てみると、どうやら今日の新聞らしい。
それを右手で取ると、何気なく天気予報の欄を見た。
「今日は曇りか……。」
そう呟きながら、デルは窓の方に目を向けた。灰色の雲がどんよりと漂い、それが日光を遮断していた。そのせいで外は朝から暗いし、まるでデルの心の天気まで雲で満たされてしまいそうだった。
「どうしたんです?なんか元気ないですね、デルさん。」
そう言って声をかけてきた人物は、巡音ルカだった。
両手にはお盆を持っていて、その上に熱いお茶の入った湯のみが、白い湯気を立てていた。
「あぁ?別に元気がないことはないけどな。」
「嘘ばっかり。ハクさんの事が始終気になって仕方ないんでしょう?」
「べ、別にそんなことねえよ。ただ、このところ容体が悪化してるみたいだから……。」
ルカはお盆のお茶をデルの机に静かに置くと、隣の机にお盆を置き、誰も座っていない椅子に腰かけた。
「やっぱり気になるんじゃないですか。まぁ、貴方達は昔から似た者同士ですからね。」
「そんな事ねえよ。俺もあいつも、中学で出会った時から全く正反対の性格さ。」
「そうでしたっけ?でも『好きな映画やテレビやゲームのジャンル、デルと全く一緒なんだ♪』ってハクさんは自慢げに言ってましたよ。」
「な、何!?いつ!?」
「一週間くらい前です。電話で話し会っただけですけどね。」
「あいつ……、なんでそれを……。」
デルは恥ずかしげに湯のみのお茶をすすった。
そんなデルを、ルカは口元を押さえ、「別にそんな事隠す必要もないじゃないですか。」とクスリと笑って言った。
そして一つ咳払いをすると、
「……あー、それと、ハクさんこうも言ってましたよ。『私、デルの事すっごく好きなんだ。いつも私のそばにいてくれる唯一の人だから』って」
「なっ……ゴホッゴホッ!!」
ルカのその言葉を聞いた瞬間、デルは思わず啜っていたお茶を噴き出してしまった。
しかも、咽て上手く言葉が出ない。
「あーあー、せっかくのご自慢のパソコンがお茶でダメになってしまいますよ~?」
「ゲホっゲホっ……。お、お前のせいだろ……!」
慌てて側にあったタオルで濡れたPCを拭きながらデルは言った。
「それより、ハクはそんな事本当に言ってたのか……?」
聞かれるとルカは二ヤニヤとした顔で、言った。
「言ってましたよ~?でもその後、『この事はデルには絶対に言わないでくださいね』って念を押して注意されましたけど。」
「いや、じゃあ言っちゃ駄目だろ!!」
デルはルカの頭を軽くパシッと叩いて突っ込んだ。だがルカは、何がおかしいのかクスクスと笑い続けている。そんなルカを、デルは見下すようにして言った。
「ハクも馬鹿だよ……。ルカも昔から約束を守るような女じゃないって分かってるはずなのに……。」
「あ~、ちょっと何か今デルさんの口から、さりげに失礼な言葉が聞こえたような?」
「別に?空耳だろ。」
デルはそう吐き捨て、拭き終わったタオルを机に杜撰に置いた。
『プルルルルルル――……』
突然、机に置いてある電話が鳴った。見た目的にかなり古めかしい電話なので、どこからコールしているかは分からない。
「電話ですよ。デルさん。」
「言われなくても分かってるよ……。」
全く、休憩時間だというのに変なピンクの女にはからかわれて、その次には電話か。俺はどこまで精神を働かせればいいんだ。
自分を哀れみながら、デルは面倒くさそうに電話の受話器を取った。
「はい、咲音有限会社ですが……。」
「もしもし、こちら始音病院の者ですけれども、本音デルさんはいらっしゃいますか?!」
始音病院といえば、ハクが入院している病院だ。
「俺がデルですけど……。まさか、カイト先生?」
「あ、デルさんですか!?大変です!ハクさんが倒れました!!」
「……え!?」
「大至急病院へ来てください!詳しい事はそちらで!!」
カイトはそれだけ簡潔に言うと、プツンと電話を切った。
途端、自体をようやく飲み込んだデルの顔は徐々に青くなっていった。
「どうしたんですかデルさん?そんな青い顔をして――……。」
「悪い!ちょっと病院行ってくる!!部長にはお前から言っておいてくれ!!」
「えっ……。えっ?」
状況が飲み込めず戸惑うルカをよそ目に、デルはコート掛けに掛けてあるコートをはぎ取ると、全速力でハクの病院へと駆けて行った。
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