episode2-0
一方…信介はというと、人を斬ってしまった以来…1週間過ぎた今も悩み苦しんでいた…と言うより自責の念に苦しめられていたと言う方が正解かも知れない。「…最近あんな調子で、外を眺めてはため息をつく事が多いと思わない…?何があったんだろう…?最後の大会も近いのに…。」「練習には顔を出してはいるが…どうにも真剣に練習出来ない様子で…。一体何があったのか、見当も付かないしなぁ~。」濃巳と剣道部部長の丹羽一馬が心配している所へ、1人の男子生徒が飛び込んで来る。「今、職員玄関に…尾谷にそっくりな甲斐南の生徒が現れたみたいだぞ!」昨日の事が頭に浮かんで…ピンと来た濃巳が走り出す。『間違い無く沖田君だ!…でも、なんで突然に来たんだろう…?これはもう~事件になるわね…。』「信介にそっくりって…あれっ?及川さ~ん!なんでいきなり走り出すのかな~っ!」一馬が後を追いかける。『俺にそっくりな奴って…?まぁ、暇つぶしに見にいってやるか。』悩んでたはずの信介が重い腰を上げる事となる…。
一方で…信崇と半兵衛は濃巳が忘れたキーホルダーを届けに、輝響高校に来ていた。「私は念の為、一応の学校の承諾を頂いて参りますので、しばらくお待ち下さい。」「分かったよ。」半兵衛が立ち去ると…俄(にわ)かに信崇の周りが騒々しくなってゆく。「あの人、剣道部の3年に似てない?」「あのめっちゃ強い人?あぁぁ~っ!そっくり!」などといった噂が飛び交うまでに及んでいた。そこに濃巳が現れる…。「沖田君!…どうしてここにいるの?」「…いや、深い理由は無いんだが、この人込みを何とかしてくれると有り難いのだが…。」「はい、はい!みんな~部活に戻りなさ~い!お客様の迷惑になるぞ~!はいはい!戻った、戻った!」「お父さん…あっ、及川先生!」そこに現れたのは…及川哲宣(おいかわてつのぶ)…社会科教師で剣道部監督兼顧問を任されている人物。濃巳の父親で…尾谷道長の一番弟子でもある。隣に半兵衛の姿もあった。「…ご迷惑をお掛けしました。増田先生にそこの廊下でバッタリお会いして…。こんな事ならもっと早く駆け付ければ良かったですね。」「…半兵衛が先生って、何?」と信崇の問い掛けを遮るように半兵衛が話し出す。「…先生と呼ぶのは止めて下さいませんか。もう昔の話ですので…お恥ずかしい限りでございます。」と半兵衛が照れくさそうに下を向く。「それで…どのような用件でお越しになられたのですか…?」及川先生が信崇と半兵衛に問い掛ける。「…濃巳さんに、これを届けに来ただけですよ。」信崇がキーホルダーを差し出す…。「あぁぁ~っ!どこにあったんですか!…これはじっちゃんの形見なんです。昨日から見つからなくて…どこかに落としちゃったのかも、と思ってたんです。…良かった。」キーホルダーを胸に抱(かか)えて座り込んでしまう姿を見て…余程の大切な物だと周りの人たちが知らしめる事となった。「そんなに大切な物だったとは…持って来た甲斐があったよ。他の所に落とさなくて良かったね。」濃巳の手を取り立たせようとした時…信介が現れた。信介と信崇が初めて顔を合わせる。…周りの人々が、あっけに取られた時間が静かに流れる…。それほど…2人の顔が写し鏡ように、似ていたからであった。『なんなんだ、こいつは!気味悪いくらいに俺に似てるじゃねぇか!』固まったまま動けない信介の胸中である。『こんな事があるのか…?まるでクローンじゃないか!こんなに似てる事があるのか…。信じられない…。』…信崇の胸中も穏やかではなかった…。様子を見ていた濃巳が慌てて話し出す。「あ、あの…こちらは沖田信崇君と言って…昨日、バスを乗り間違えた時に助けて頂いた訳で…家の近くまで送って頂いた恩人です。」照れくさそうに話す濃巳。「俺は輝響高校3年の尾谷信介だ。濃巳のバカが世話になったみたいだな…。こいつとは幼馴染で、その形見のじいさんにも随分世話になったから…俺からも礼を言わせてくれ。ありがとな…。そして、よろしくな…。」信介が手を差し出す。「いやいや、君からお礼を言われるとは思わなかったよ。それほど濃巳さんと親しいだね…。改めて、私は甲斐南高校3年の沖田信崇と申します。よろしくお願いします。」と握手を交わす2人。「柔らかい綺麗な手をしてますね。」信崇がそう言うと…慌てて手を引っ込める信介。「い、いきなり…な、何を言い出すんだ!気色悪いなぁ~…。俺はこう見ても剣道をやってるからなっ!」『間違い無い!あの手の感触は…柔らかく竹刀を握っている手で、手首が柔軟に使える強者(つわもの)と確信した。』信崇の眼の色が変わる…。「…奇遇ですね。私も剣道をやっていますよ。まぁでも、つい最近…剣道部に入ったばかりですけれども…。」信介の眼も変わった…。『こいつが例の甘利塾から来たと言う新入部員の1人なのか…?』「それじゃぁ~…今度の大会で対戦するかもな。」と信介が問い掛けると「そうなる事を楽しみにしてますよ。今日はこれで失礼致します。」振り向きざまに、口元が微笑んだ信崇の横顔を、含み笑い顔の半兵衛の姿が伺える午後のひと時であった…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

歴史を変える、平和への戦い

閲覧数:8

投稿日:2024/03/17 17:29:05

文字数:2,121文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました