『ブレード1、離陸を許可する。』
午前8時、射出滑走路から4機のF-15改が飛び立った。
これで水面基地から俺達を含めすべての飛行隊が空へ上がったということだ。これより各部隊はそれぞれ決められた空域で警戒任務に就く。空母「雪峰」の艦載機と共に。
◆◇◆◇◆◇
午前8時半、B-05エリア上空。俺達は予定の空域へと到達した。
「ゴッドアイへ、こちらソード1。管轄エリアに到着した。これより警戒任務を開始する。」
『ソード1、そちらに雪峰の艦載機が接近中だ。共同で警戒任務を実施せよ。』
「ソード1了解。」
しばらくするとレーダーに4機の機影が現れた。首をレーダーの機影の方へ回すと4機の戦闘機が近づいてくるのが分かった。
『こちら雪峰所属、第一飛行隊、ロンチ隊です。これより共同で警戒任務を実施します。よろしくお願いします。』
きびきびとした若い女性の声だった。
4機のF-18ホーネットが俺達の編隊の横に並んだ。
「こちらは水面基地所属第302戦術戦闘飛行隊、ソード隊だ。こちらこそよろしく頼む。」
たとえ空でもこのような挨拶は欠かせない。パイロット同士の礼儀とでも言うべきか。麻田達、ロンチ隊の他のパイロットも順々に自己紹介をしていった。
『君達が例の強化人間?噂は聞いてるよ。いやぁ君達みたいなエリートと飛べるなんて光栄だよ。む、そこの機体、まさかアンドロイドなのかい?噂では聞いていたが、本当に翼で飛行しているとは驚いたな。』
『失礼ですよ大尉。あ、私のコールサインはファランクスです。』
『私はロンチ隊隊長、コールサインはランチャー。そこのアンドロイド君、君の名は?』
『わたしは雑音ミク。ソード5。」
『おや、軍用には珍しい声帯音声か。これはまた麗しい美声だね。よろしく。』
『ああ。』
『ところで、ファランクスにちょっと質問いいか?』
と、麻田が突然言い出した。
『なんですか。』
『あんた、綺羅か?』
『えっ・・・・・・確かに自分は麻田綺羅ですが、ご存知なんですか?』
『ご存知もなにも、俺だよ、俺! 武哉だよ。声で分かったぜ。海軍なんかに入ったと思いきや、まさか艦載戦闘機パイロットになってたなんてなぁ。』
『麻田、もしかして・・・・・。』
気野が興味深そうに訊いた。
『ああ、俺の妹だ。』
『へぇーっ。武哉の妹さんなの?』
『・・・・・・6年ぶりですね。兄さん。』
『だな。』
『ほう。綺羅三等空曹に兄がいるとは知らなかったな。しかもかの有名な強化人間とは。』
『はじめて聞いた。麻田空曹に兄がいるなんて。』
『しかも強化人間かぁ。すごいな。』
俺も正直驚いた。麻田から妹がいるという話なんて聞いたことがなかった。しかも兄妹そろって戦闘機乗りとは。
『まぁ、お喋りはその辺にしよう。これから我々は水面基地指定のBエリアからC-05エリアにかけてのCAPを実施する。アンノウン(不明機)を発見しだい、領空侵犯措置をとる。AWACSからの連絡にも注意するように。』
『了解。』
ランチャーが隊長らしく場をまとめた。
だが、俺達には分かっている。そんなことは無意味だということを。
やつらは問答無用で襲ってくる。警告にももちろん聞く耳を持たない。そのことをまだあの4人は知らない。
それにもし戦闘になれば、果たして彼らは撃てるのだろうか。実戦経験のない彼らに。俺達でさえまだ2回しか実戦はしていない。ただし、俺達が彼らと違うのは圧倒的な機体の性能と異常なほどの技量とG耐性があることだ。
俺はなぜか、彼らを死なせたくはないと思った。
それにしても、麻田の妹か・・・・・・。少し興味がわいた。
三時間後、敵と遭遇することも無く無事に警戒任務の午前の部は終了した。
『こちらゴットアイ。ソード隊、アロー隊、警戒任務を中断せよ。』
「了解。給油はどこで行う?」
『雪峰で行え。B-55エリアの海域だ。』
「了解した。」
『ウチの艦のクルーたちが是非一度君達に会いたいそうなんだ。特に、雑音ミク君。私も後でお顔を拝見させてもらいたいよ。』
ランチャーが得意げに言った。確かに、俺も麻田綺羅の顔を拝んでおきたいと思っていた。
艦隊の停泊しているエリアに近づくと次第に無線の声が多くなっていった。
そして眼下の海に空母の連合艦隊が見えてきた。
『あれが、私達の空母、雪峰!』
『でけぇ空母だな。』
『ほんとだ・・・・・・あれが空母っていうのか。』
幾つもの護衛艦、イージス艦などに囲まれたそれは、確かに異様な大きさだった。フリーヴィアなどが所有するミニッツ級空母の倍はあるだろう。
『ランチャーより雪峰コントロールへ。警戒任務を終了し、これより給油を行う。水面基地のソード隊の面々をお連れしている。着艦許可を求める。』
『コントロール了解。風速問題なし。ランディングコース01から順にアプローチせよ。着艦を許可する。』
ランチャーと綺羅、いやファランクスが旋回し、アプローチの準備を開始した。残りの二機は俺達を空母のランウェイコースへと誘導していった。
『どうぞこちらへ。空母から着陸許可が降りるまで待機してください。』
「了解した。」
『はやく下りてみてぇな。あの空母。』
「なんだ。久しぶりに妹さんの顔が見たくなったのか?」
『冷やかすなよ隊長。』
まぁ、正直俺も見たいんだが。
ランチャーとファランクスは同時に空母へ着艦し、俺達にも順番が回ってきた。
「ソード1、着艦する。」
俺達の機体には艦載機のように着艦フックが装備されていないが、着艦と同時に逆噴射装置を発動させて停止した。
俺がコックピットから上がると、機体の周りを空母のクルー達が取り囲んでいた。勿論この機体が珍しいのだろう。するとその中の一人が俺の前に進み出た。
「ようこそ雪峰へ。給油と整備には約30分間必要とします。」
「分かった。ありがとう。」
俺は機体から降りるとデッキを見渡した。やはりかなり広い。着艦用滑走路も2機同時に着艦できる広さを持っていた。それにステルス性、高速化を考慮したと思われる、イージス艦とも似た外見。日本防衛海軍はいつの間にこんなものを建造していたのだろうか。
俺の目線のすぐ前ではさらに大勢のクルーでにぎわっていた。そこにはミクと、フライトスーツを着た背の高い気品のある男性が向かい合っていた。
「改めてはじめまして。私の名は矢野和摩。大尉だよ。先ほどは一緒に飛んでくれてありがとう。」
「あ・・・ああ。」
「皆君の顔が見てみたいんだ。その、バイザーを取ってくれないかな。」
ミクはゆっくり顔を覆っているバイザーを取り外した。
「おおお・・・・・・!」
ミクの素顔を見た矢野大尉とクルー達が歓声を上げた。
「とても、綺麗だね・・・・・・。」
「綺麗? わたしが?」
「ああ。その黒い翼と言い、艶やかな髪といい、まるで美しい人間のようだよ。おや、君は・・・。」
矢野大尉が俺の存在に気付いた。
「君だね。ソード隊の隊長は。先ほどはどうも。」
大尉の差し出した武骨ながら綺麗な手を俺は握り返した。
「君の名は?」
「自分は、春瀬秀と言います。階級は中尉です。」
「そうか。いい名だね。」
大尉はニコッと微笑んだ。なんというか、子供のようにまぶしい笑顔だ。
「先の任務ではご協力感謝します。」
「いやいや、礼を言うのはこっちの方さ。世界最強と謳われる君達と翼を並べて飛べた上に、あんな素敵な彼女に出会うことができたのだから。」
「そう・・・ですか。」
「午後もよろしくたのむよ。」
「はい。」
そのあと大尉と別れると、デッキの片隅で海を眺めながら話している一組の男女を見つけた。一人は麻田で、その隣が、多分麻田綺羅だろう。茶色味がある癖毛で、どこか 凛とした顔つきだ。麻田とどこか似ている気もする。
何を話しているかは聞こえないが、その表情は2人ともにこやかなものだった。とり あえず今は2人だけにしておいてやろう。
給油が完了するまでまだだいぶ時間がある。俺はデッキの外側を歩きながら雄大に広がっている海を眺めていた。今の季節では相変わらず、今日も天気がいいものだ。ただ澄んだブルーの空には雲ひとつ無く、暖かい潮風は長時間のフライトを終えた体に心地よく、海はただ静かに波打つばかりだ。風景だけなら状況に反して平和的だ。だが、
「・・・・・・!」
平和的であったはずの海に俺は突然目を凝らし始めた。海中にただならぬ「何か」の気配を感じ取ったからだ。
「何か」の気配は物凄いスピードでこちらへ接近してくる。
そして、その気配は俺の真下で止まった。
「何か」が来る・・・・・・。
そう思った次の瞬間、気配のする海面が巨大な水柱を上げた。
「うわっ!」
俺は腕で顔を覆うと後ろへ大きく飛び退いた。
水柱の中から、黒く、巨大な物体が飛び出し、俺の目の前に着地した。振動でデッキが揺らぐ。
「なんだあれは!」
「敵だーーーッ!!」
俺の目の前にある、黒く巨大な物体、それは・・・・・・。
「戦闘用アンドロイド! しかも水中潜航型だと?!」
興国か? いや、違う!
コメント0
関連動画0
ご意見・ご感想