列を成していたメイドカフェは何とか落ち着き
机を並べて作ったカウンターの裏でカイトは洗い物を片付け
ガクポはメイド達のオーダーを淡々とこなしていた。

「ようやく一息つけそうでござるな!」
ガクポが額に汗を浮かべながらも笑顔で言った。

「……、いや、ひどく忙しかったよ……」
隣で洗物をカゴに入れながらカイトはぐったりした表情である。

それでもまだ教室にはお客さんが数組残っているが
働きっぱなしだったこのクラスの主役であるリンとレンは
流石にかわいそうなのでこっそりと、ひと気の無い教室で休ませている。

しかし、このメイドカフェで一番働いてるのは
担当のクラスの生徒達ではなく―――

「いらっしゃい☆ませ~~!」
ニコニコとテキパキ動く部外者であるメイコであった。

「メイコ、随分と楽しそうに働いてるな」
「生徒会は、イベントの管理が忙しいのでこういう現場での仕事が
楽しくてしょうがないのでござろう」

生徒会は裏方仕事。イベントの管理などをしていると
準備や後片付けに追われ、こういう実務が出来ないのである。
今回は非常事態なのでたまたまイベントに参加できる理由も出来たが
普段通りなら、まずこういう機会は無かったであろう。
楽しそうに働くメイコ見るとなんとなくカイトは胸が締め付けられる
ような思いがする。

「生徒会もやりがいあるだろうけど……、こんなに楽しそうに
してるんなら、こういう事をもっとさせてあげたかったな……」
濡れたグラスを白いサラシで拭きながらカイトは呟いた。

ガクポはその隣で拵えたばかりの暖かいカフェラテにキャラメルシロップを
飴細工のようにたらすと、最後に何か一つまみ白い粉を撒いた。

「ん?今、何を撒いたの?」
カイトはガクポにたずねた。

「ああ、これは、塩でござる。塩をほんの少し入れると香りと甘さが
引き立つのでござるよ」
「へ~、美味そうだね!あとで試してみたいな」
「休憩の時にでも作って差し上げるでござる……」そう言いかけて
ガクポはカイトに尋ねた。

「―――ところでカイト殿、会長の事……、どう思ってるのでござるか?」
「どうって……、ん~~……、積極的で、頭が良くて……」
「いえ、そうではなくて……、恋愛的な意味でござる」

「ぶっ!」

カイトは拭いていたグラスを落しそうになる。
明らかに動揺してるカイトに気づかないフリをしつつ
ガクポは塩キャラメルマキアートを近くにいたメイドに渡した。

クラスの中はお客さんとスタッフ達の会話と雑音で溢れていた。
動揺しているカイトとは正反対に平然とした顔で話を続けるガクポ。

「―――、拙者の情報によると、すでにメイコ殿を想ってる輩がいるとの事。
あれだけの器量と、さっぱりした性格でござる。
隠れファンも結構いるのも頷ける話。さて、生徒会もこの文化祭で
一通りのイベントが終わり、引退するわけでござるが……、このタイミング。
恋の告白には、絶好なのでは?と、計画を試みる男共が
きっと、いるはずでござろうな……」

「えぇ!だって、あのメイコだぞ!、あんな……」

気が強くて、強引で、計算高くて、野心家で……
だけど、誰よりも気が利いて、困ってる人を助けてあげて
優しくて、明るくて、本当は泣き虫で……。

カイトは心の中で続く言葉が、どんどん出てきて
その言葉が、何よりも自分の気持ちであり
何も言い出せなくなってしまった。

そして、笑顔で振り向くいつものメイコの顔が
たまらなく愛おしい事に気づく。

「ふん……」
つまらなさそうな表情を浮かべてガクポはカイトの手元に
塩キャラメルマキアートの入ったコーヒーカップを置いた。

「カイト殿、休憩でござる。コレを飲んでくだされ」
「え?、ああ……、どうも……」
はっとしてカイトはカップを手に取り、暖かいマキアートを
ズズっとすする。

「ぐえ~っ!しょっぱい!」
「おっと、塩を入れすぎたでござるか?」
余り悪びれた様子を見せずガクポは謝った。

「うわぁあ~っ、ちょっと!作り直してよ!ガクポ君!」
塩辛さがまだ口に残ってるようでカイトは口から舌を出す。

「ふん……、イヤでござる。自分で作りなされ。
それでなくても、敵に塩を送り過ぎたでござる……」
ぼそぼそとガクポが呟くと
「え?何て言ったの今?」
カイトは言うのだが、ガクポは黙り込んで
「はい、どうぞ。これは普通に飲めるでござるよ」
と、新しく作った塩キャラメルマキアートを差し出す。

「冷める前に、召し上がれ。と、言ったのでござるよ」
ガクポは、カイトにぺろりと舌を出して皮肉一杯に言うのであった。



「おい、一杯飲んでってもいいかい?」
キヨテル先生が小さな女の子と手を繋いでやってきた。

「あ、キヨテル先生。どうぞどうぞ」
メイコがキヨテルを席まで案内する。

「え~~、先生のお子さん?ですか」
席に着くとメイコは机の上に置いていたメニューを女の子に渡した。

「違う。そもそも俺は独身だ。この子は俺の姪っ子だよ。アイスコーヒーと、
ユキちゃんは何にする?」

小さい女の子はメニューからもじもじしながら
アイスカフェラテを指差す。

「はい、アイスコーヒーとアイスカフェラテですね」
「おい、メイコ。このコの相手を少ししてやってくれないか?
ほれ、ユキちゃん、挨拶しなさい」

「あ、あの……はじめまして、ユキです……」
「あははっ。何照れてんだコイツ。実はこのユキちゃんは
お前のファンなんだってさ」

ユキは顔を赤くしてポカポカとキヨテルの腕を叩く。

話を聞くと、キヨテルの姪っ子であるユキは
小学生で高学年。現在、児童会の会長。
豪腕生徒会会長であるメイコの噂は小学校まで届き
そんなメイコにユキは憧れており、叔父である
キヨテルに一目見たいとお願いして
メイコに会いに来たのであった。

「あはは!そんな大したものじゃないよ私。
でもすごいね!児童会の会長なんて、すごいじゃん」

「あ、ありがとうございます!」
ユキは顔が真っ赤になっていた。

「こいつ、この学園に入学して生徒会に入るのが夢なんだってさ」
キヨテルはユキの頭を優しく撫でる。

「え~!本当!なんか嬉しいよね、そういうの」
「あ、あの、今日、メイコさんに会えてすっごく嬉しいです!」
ユキは照れながらもメイコに言うと、メイコも照れたらしく顔を赤くする。
「うひゃ!なんか照れちゃうね!ありがとう、ユキちゃん」

「メイコに構ってもらってよかったな。ユキちゃん」
いつも厳しい目つきのキヨテルだが、ユキを見つめるときは目尻が下がる。
「……うん」
恥ずかしがりながらもユキはどこか嬉しそうに頷いた。

「わーお、先生だわん!」
休憩していたレンとリンが教室に入ってきた。

「お、なんだい?レン君も今日は随分と、か、可愛いね……」
メイド姿のレンを見て唾を飲み込むキヨテル。

「わお!結構気に入ってるわん!あ、カイト先輩!こっち来るわん」

「お、可愛い女の子がいるね!先生の姪っ子さんだって?」
カイトは愛の側に寄って、頭を撫でると
ユキは顔をまたもや赤らめて下を向いた。

「こら、カイト、気安く女の子の頭を触るんじゃない」
メイコが頬を膨らませ注意する。

「あれ、カイト君は確か……違うブースじゃなかっけ?」
キヨテルは後ほど一人でカイトのブースに行こうと考えていたのだ。

「ええ、良くご存知で。〈タイムマシン発表会〉で―――」
カイトが全てを言う前にレンが大声で言葉を重ねる。

「そうだわん!カイト先輩はすごいんだわん!
なんたって、ハード・ロリータなんだわん!」

「ハード……」
「ロリータ……」

教室の誰かが呟やき、この空間が一瞬凍りつく。
ユキはすーっと何気なくキヨテルの後に移動する。

「え、いや、あれ?ちょ、ちょっと待って……、お、俺は」

「カイト殿……、拙者……、残念でござる……」
ガクポは震える拳を握り、うつむいた。

「カイト先輩、あんた最低だ……」
リンは明らかに軽蔑の視線をカイトに向ける。

「そ……、うそだろ……?そっち系なのか?カイト君……」
キヨテルは辛うじて笑顔を保っていたが、頬に汗が一筋流れる。

「うぐぅ!、ご、ゴメンみんな……。わ、私が、責任持って
直すから!カイトを直すから……」
メイコに至っては涙を流しながら何故かみんなに謝っていた。

「わお?」
レンはこの状況が分かってないようで純真無垢な目で皆を見まわす。

「い、いや!ちょっと!待ってくれ、これは誤解だ!俺がハードロリーターって
何なんだよ!おい、レン君!」

「わお?ハートがロリーターだっけわん?」

「ちがぁーーーうっつうの!ハートがロリーター!あれ?
ハートが、ロータリーだって……」
幾ら言い訳をしても慌てるカイトは益々事態を悪い方向に持ってゆく。

「うわ~~~んっ!カイトは変態だった~~!」
ついにメイコは人目をはばからず盛大に泣き出した。

この誤解を解く為にカイトは一から全部、解説する事になるのだが
この説明が言い訳の様にも聞こえ、皆が納得するのに多少の時間が掛かる。

必死の弁解で何とか誤解は解けたが、メイコは半べその表情で
「カイトのバカ!」と罵られる様子を

ガクポはクスっと笑ってみていた。

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青い草 9話⑥

カイトにロリ疑惑?
カイトの災難編です。

閲覧数:166

投稿日:2012/08/11 16:00:28

文字数:3,844文字

カテゴリ:小説

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