チャイムの音と共に今日の授業が終わった。昨日は随分色々あって、侑俐さんにも迷惑掛けてしまった。今度ちゃんと謝ろう、そう考えていた時だった。
「ひおー、呼んでるよー?」
「へっ?!私?!」
急に名前を呼ばれて教室の出入口に顔を向けると、憮然とした顔で制服を着た七海さんが居た。私…いや、私達が通う『聖リコリス学園』は中等部、高等部、大学、大学院とあり、専門学科も含めるとかなりの人数の生徒がいる。
「お、同じ学校だったんだ…。」
「学部違えば会わない奴の方が多いだろ。」
「まぁ、そうなんだけど…。」
「…何でそんなに距離を取るんだよ?!」
だってアンタ私の中でまだ敵だし?とも言えずほぼ廊下を挟んで真反対に位置取っていた。それにしても一体何の用だろう、とチラリと顔を伺うと、思い出した様に携帯をいじり始めた。と、いきなりずいっと画像を突きつけられた。
「これ、どうな訳?」
「え?」
改めて画像に視線を移して、私は固まった。そこには泣きながら袖を掴む私と、私の頭を撫でる形の侑俐さんが映っていた。どう考えても明らかに昨日の私達…!
「この兄さんどう見たって普通のリーマンじゃないだろ。高校生がホスト遊びとかヤバいんじゃね?」
「侑俐さんは…!」
言おうとして言葉に詰まった。侑俐さんの事情は私が勝手に話して良い事じゃないし、何より七海さんに諸事情とか知られたくない。
「えーと、そう!お兄ちゃんみたいな…!」
「兄妹でこんな事してたらそれはそれで問題あると思うけど…。」
我ながら苦しい言い訳にあっさりツッコミが入った。誤魔化すにも写真撮られてるし…はっ!いっそ携帯を取り上げて壊せば解決!
「家のPCにデータ移してあるからな?」
「ハゲろ、チビ。」
「あぁ?!」
悪態を付きつつふと思った。そもそも七海さんは何をしに来たんだろう?もしかして写真見せて脅迫?!でも私お金とか持ってないし、単にホスト遊びを止めなさいって忠告…にしては穏やかじゃないよね?って事は例のゲーム関連とか?
「あああ!解ったしふぉん狙うつもりね?!」
「何でそうなるんだよ?!」
「最っ低~~!!あの子が純粋なのに付け込んで私を脅迫してあんな事とかこんな事とかするつもりでしょ?!変態!」
この時私は頭に血が上っていた。だから売り言葉に買い言葉と言うか、勢い余って私は変な事を口走ってしまったんだろう。
「私が王子様になってでもしふぉんに変な事させないんだから!」
呆れ顔の七海さんと私の耳に電子音が聞こえた。二人して音のした方を向くとデジカメを持った三年生が立っていた。
「グレーテルちゃん百合宣言…良きかな、良きかな。」
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