「少佐。所長と接触した。だがこいつも死んだぞ!!」
 『うーむ、一体どういうことなんだか・・・・・・。』
 「何故だ・・・・・・どうしてなんだ!!!」
 俺には、この現象が理解できない。
 だが、無線越しにいくら少佐に訴えても、目の前で息絶え、今や亡骸となって俺の足元に転がっている所長、春日了司の死について分かるわけがなかった。
 俺は少し間を置き、気分を落ち着かせた。
 「少佐・・・・・・所長からテロリストの目的に関わる重要な情報を手に入れた。」
 『おお、何だ。伝えてくれ。』
 「人質は所長と先の三人以外は全て殺害され、湖に棄てられた。」
 『何だって・・・・・・すまん。続けてくれ。』
 「先程シックスが連れ出してくれた人質の中に、小さな少女がいるんだ。その少女は外部の者ではなくてここで開発されたゲノム人間らしい。」
 『ふむ。』
 「その彼女の体内には特殊なナノマシンが注入されていて、体内のどこかに機密情報を記していったらしく、テロリスト達はその情報を解析するために彼女の身柄を拘束していたようだ。網走博士と一緒に囚われていた。」
 『なるほど。でも、何故やつらはそんな情報がほしいんだ?』
 「所長もそこまでは知らなかった。それにまだやつらの目的は明かされていない。だが、所長の話によればテロリスト達はここに長居せず、必要な作業を終えたと同時に何処かへ移動するらしい。」
 『移動?ではどこへ行くというんだ。』
 「所長もそこまでは・・・・・・ただ、鈴木流史は自由になるため、と言っていた。それに彼は、死ぬ直前に俺のことを相続者とも言っていた。どちらともよく意味が分からなかったが・・・・・・。」
 「・・・・・・。」
 俺と少佐の間に、沈黙の空気が漂い始めてた。
 よくよく考えると、この事件には謎が多すぎる。
 謎の組織に、謎の目的。そして謎の場所。
 陸軍の情報網を持ってしても分からない謎を、俺達三人だけで考えたところでまるで意味はない。
 今は与えられた任務を果たすほうが先決であり、明確なのだ。
 『今は考えていても仕方がない。こうなれば残った二人だけでも施設から脱出させよう。今シックスが総合実験連で手に入れた敵のヘリ、ブラックホークの発進準備を進めている。そこから一番近くヘリポートがある通信連へ行くといい。デル。通信連へ行くんだ。』
 「分かった。」
 『少佐。デル。ちょっと待って。』
 無線にヤミの声が割り込んだ。
 「何だ。」
 『今、こちらの映像には通信連、総合実験連と技術研究連を繋ぐ連絡通路とが爆破されたのが映ったよ。』
 「何だって!」
 何故こんな聞きたくない情報ばかり舞い込んでくるのだろうか。  
 『大きな声を出さないで。』 
 『本当だ・・・・・・連絡通路が炎上している。恐らくテロリストが爆破したのだろう。先の倉庫連の爆発と同様に。』
 「くそッ・・・・・・他に通路はないのか?」
 『この二つの通路が爆破されてしまっては・・・。』
 『いえ、少佐。まだ手段は残されてる。』
 「どこだ?」 
 『デルさん。そこから更に下へ降りる方法を探すの。』
 「ここから、更に下だと?」 
 確かこの技術研究連は、地上一階、地下一階、地下二階の三つのフロアで構成されている。ここより下のフロアは存在しないはずだが。
 『そう。こちらのレーダーで施設をスキャンしてみたところ、どうもそこより下の空間に施設の外へ抜ける長い通路を確認できた。恐らく下水道かもしれない。そこを通って一度施設の外に出て、通信連を目指すといいよ。』
 「なるほど・・・・・・。」
 『ここは彼女の提案を使わせてもらうとしよう。デル、そこから更に下へ続く通路か階段を見つけるんだ。』
 「分かった。」
 俺は無線を切り、所長室を後にした。
 通路に出ると、一度レーダーに目を通した。
 この施設の構造を改めて確認してみると、確かにここより下に何らかの通路が見える。
 恐らく、このフロアから入れる場所のはずだ。
 ヤミは下水道と言っていたから、この場合はマンホールを探せばいいのだろうか。
 しかしそんなものがどこに・・・・・・。
 いや、やはり考えるのは後だ。
 俺はレーダーを頼りに、このフロアの探索を始めた。
 
 
 「ボス。連絡通路の爆破、完了しました。」
 『よくやった。後はデルが現れるのを待つだけだ。』
 「はい。ウィング、スーツ共に最終チェックが完了しています。」
 『うむ。いいか。決してやつらを逃すな。一人残らず捕らえよ。出発準備も整えておけ。』
 「はい。承知しました・・・・・・。」
 「・・・・・・いいんですか?」
 「何がだ。」
 「彼女を使うことですよ。」
 「ふん・・・・・今更何を言っている。彼女は我々と共に自由の身となる。しかしそれまでは俺の道具だ。」
 「ふーん。僕にはちょっと良心が痛みますね。彼女、可愛いですから。それに・・・・・・。」
 「それに?」
 「僕には聞こえるんです。彼女の声が。悲痛な声が、ね。」
 「そうか・・・・・・そうかもしれんな。何せ、良い仲だったんだろう?彼とは。」
 「ええ。そりゃもう。」
 「しかし、相方は死に、残された彼女は意識を支配されるとはな。悲運なもんだ。」
 「いいえ、彼氏のほうはまだ生きておられますよ。」
 「何だと?」
 「聞いてなかったんですか。この施設内にいるじゃないですか。」
 「まさか・・・・・・あの男か?!」
 
  
 もうこれと判断するしかない。
 地下二階を探索しまわり、俺は食堂の奥にボイラー室を見つけていた。
 そして、そこで偶然見つけたのが、この床に取り付けられた扉である。
 そう。これが下水道に続く梯子か何かかもしれない。
 取っ手を持ち上げ横にスライドさせた。
 扉の先から、重苦しい空気が感じ取れた。
 ・・・・・・ビンゴ。
 扉を開け放つと、そこには暗闇に包まれた穴と、そこに向かって伸びている、錆びた鉄の梯子が現れた。
 俺はその穴の先を覗き込み、フラッシュライトで下を照らした。 
 白いコンクリートがライトの光を反射した。
 それを確認すると、俺は梯子を掴み、ゆっくりと下へ降り始めた。
 梯子を降りていくにつれ、ボイラー室の灯りが遠ざかり、俺は暗闇に飲み込まれるかのような感覚を覚えた。
 足がコンクリートに触れると幾らか安心したが、周囲を見渡してから、俺は全身に悪寒を感じていた。
 暗い。 
 暗すぎる。
 ここにはまともに電気も通っていないのか、全く持って光がない。
 音もなければ、光もない。無の空間だ。
 フラッシュライトで周囲を照らすと、水が流れてる様子はなく、狭い一本道の通路のようだが、ここを進めば下水道にたどり着けるだろう。
 レーダーを確認しても、ここから外に通じる道があることが見て取れた。
 この先をひたすら進めばいいと言うことか。
 俺はフラッシュライトで足元を照らしながら、無の空間、下水道の中を歩き出した。
 彼方からは、微かに水の流れる音が無の空間を響き渡り、俺の耳に触れた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

SUCCESSORs OF JIHAD 第二十九話「下水道」

このあと、ジャングル
次のボス戦まであと少し。

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投稿日:2009/07/08 00:31:07

文字数:2,935文字

カテゴリ:小説

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