「リンダ、リンダ~」
ギターを抱えた、リンちゃんが、マイクに向かってシャウトする。
横にいる、リードギターのサナギちゃんが、弦を弾いてのけぞる。
ギュウーンンン...
ベースとドラムがつくる低音のうねりが、ホールに渦を巻いてとどろいている。
「うわ~。あいつ、けっこう激しい曲やるんだなあ」
ホールの客席で、音に合わせて身をゆすっていたレンくんは、ブルッと身震いした。
音楽と絵画のアート・フェスティバル「イースト・トーキョー」の最終日。
雑貨店の地下のホール「マルクト」で、リンちゃんのバンドがライブをやっている。
ホールは、お客さんでいっぱい。みんな席を立って、大ノリの様子だ。
●ホールの後ろの影は...
曲と曲の合間に、リンちゃんがメンバー紹介をしているとき。
「うん?あそこにいるのは...」
レンくんが、ふと後ろを見ると、見慣れた顔の人影があった。
ホールの隅には、彼がこの間話をした、トニオさんがいた。
彼は、この店のオーナーだ。
その横に、さっき舞台で演奏をしたバンドの、ボーカルの男の子がいた。
2人で何か、熱心にしゃべっている。
レンくんが少し目を移すと、2人の女の人が立っていた。
「あれ、テトさんと、モモさんじゃないか」
彼女たちは、心なしか目立たぬような感じで、寄り添っている。
「さーあ、次の曲行くよう!踊ってね、みんな!曲は“ドタ靴脱げるもん”」
リンちゃんのキンキン声が、ホールに響いて、曲のイントロが大音量で始まった。
●テトさんに悪魔を?
熱狂して飛び跳ね、拳をふる周りの観客。
レンくんは曲をしばらく聞いていたが、そっと背をかがめると、さりげなく、ホールの後ろに歩いていった。
そして目立たぬように、トニオさんの近くによって、聞き耳を立てた。
トニオさんの横にいる男の子は、手に小さな人形を持っている。
「...じゃ、この人形の作者の、テトさんに、コンタクトを取ろうと言うの?」
「うん。悪魔のタイプのドールを、ぜひ、作ってもらって、商品化したいんだ」
「なるほど。それをお店で売ろうというわけか」
“悪魔タイプのドールを、テトさんに頼む?”
2人の話を盗み聞きしたレンくんは、ふっと頭の中で思い浮かべた。
“これまで、あったかくてやさしいドールばかり作ってきたテトさんに、悪魔を...?”
●面白いじゃない...
ふと気づいてレンくんは、少し横に目をやった。
そこには、トニオさんたちに隠れるようにして立っている、テトさんとモモさんがいる。
レンくんは人の陰に隠れて、彼女たちの様子を伺った。
すると...
やはり、聞き耳を立てていたテトさんが、ニヤリと笑ってつぶやいた。
「面白いじゃない。悪魔。いっちょ、作ってやろうかしら」
その顔は、これまで見たことのない、大人の女性の表情のテトさんだった。
ステージでは、リンちゃんが、声を張り上げて歌い続けている。
「♪悪逆非道の王国の...」(。-_-)ノ
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