「・・・あ、来た」
「ごめんなさい! 遅くなっちゃって・・・」
ただ今の時刻は、午後3時20分。めぐっぽいどは、カイトに謝る。
「そんな謝ることじゃないよ、めぐっぽいどちゃん。僕も、何話そうか、考えてたところだから」
「そうですか・・・」
めぐっぽいどは、カイトの隣に座る。
「・・・僕のマスター、どう思う?」
「えっ?」
「僕のマスターって、結構やる時はやるって感じで・・・それ以外は、僕に甘えてばっかりで、時々、僕がマスターなんじゃないかって思う時があって・・・でも、」
カイトは一息おいて、
「・・・幸せなんです、とても」
「・・・」
めぐっぽいどは何も言えなくなって、鞄から人参スティックを取り出すと、かじり始めた。
「・・・」
カイトがそれに気づいて、めぐっぽいどを見つめる。
「いいマスターなんですね」
それに気づかずに、呟くめぐっぽいど。表情が和やかだ。
「私、マスターいないから」
「・・・え」
「捨てられたんです、マスターに」
「・・・」
「でも、寂しくはないんですよ。不思議と。だって、この町にいると、そういうのがなくて」
和やかな表情のまま、めぐっぽいどは言う。
「・・・そっか」
カイトは頷いて、
「・・・僕にも、人参スティックくれる?」
「そ、そのぉ・・・」
めぐっぽいどは顔を赤くして、鞄からカップアイスを取り出して、カイトに差し出す。表面には、『人参アイス』の文字。
「これ・・・」
目を丸くするカイトに、
「・・・このアイス、私、大好きなんです。でも、売ってるお店少なくて・・・。あちこち走り回ってようやく買ったら、もうこんな時間!って、慌てて走ったんですけど間に合わなくて・・・」
めぐっぽいどは事情を話す。
「だから、遅れてきたんだ」
納得して笑いかけるカイト。
「でも、大好きなアイスなら、僕なんかが食べちゃだめだよ」
「・・・いいんです、食べて下さい」
「声と動作が合ってないよ、めぐっぽいどちゃん」
ぐぐぐとアイスを持っている手が辛そうに震えているめぐっぽいどに、カイトは言う。
「本音を言えば、今すぐ私が食べちゃいたいんですけど、・・・カイトさんは人参食べれないって聞いたから・・・」
「ん? それ、誰に聞いたの?」
「がくっぽいどくん」
「・・・ああ、あれね。あれが言うことは、全てうそだから」
「・・・じゃあ、人参食べれるんですか?」
「うん。食べれるし、マスターが好きだから僕も好き。ただ、大好物っていうのじゃないけどね」
「へー。・・・ちょっと気になることがあるんですけど」
心の中で『カイトがきらいでござる』と言っていたあれを思い出しながら、めぐっぽいどは聞いてみた。
「ずばり、カイトさんとあれって、仲がわるいんですか?」
「そうだね。あれ、きらいだよ」
にっこり笑顔で言うカイト。
「どこがだめなんですか?」
「あれはね、ああ見えて女たらしなんだよ」
「えっ!?」
「昼は普通だけど、夜の顔があるんだ。・・・どんなのかは言えないけどね」
「えー・・・」
突然の話に、唖然とするめぐっぽいど。
「それに、雑食だから」
「雑食・・・?」
「つまり、何でもタイプってことだよ」
「何でもタイプ・・・」
「だから、めぐっぽいどちゃんも気を付けてね」
「あ、はい・・・」
とりあえず頷くめぐっぽいど。
「もし、」
カイトはそこで一呼吸おいて、
「あれが何かしてきたりしたら、僕が絶対、守るから」
「えっ・・・」
「だから大丈夫・・・って、あれ? 顔赤いけど・・・?」
「・・・い、いえ、私は大丈夫・・・」
「全然大丈夫そうじゃないけど」
「どうしました」
後ろから微笑ましく見守っていた制服でエプロン姿のルカがやってくる。
「あ、ルカちゃん」
「ごめんね、じゃましちゃって。でも、なんか普通の顔真っ赤じゃなかったから・・・はい体温計」
「え・・・私、そんなに熱あったっけ・・・?」
「そういうのが色っぽい・・・じゃなかった、熱っぽいから・・・」
そうして、体温計が示した温度は、
「よ、40℃!?? たこルカが綺麗に茹で上がる温度じゃない!」
「え、たこルカ」
びっくりして叫ぶルカに、カイトは首をひねる。
「・・・あ、私そんなに・・・。・・・じゃあ、私、帰りますね・・・」
そう言って、人参アイスをテーブルに置きっぱなしのまま、ふらふらと歩くめぐっぽいど。
「あ、待って。送ってくよ」
カイトは、テーブルに残されたアイスを手に取り、めぐっぽいどと並んで歩いていくカイト。
2人が店内から出ていくまでルカは見守っていた。
・・・と、そんな背後で。
「・・・フラグ立ちましたな、ミクさん」
「来ましたねーw リンさん」
「こ・れ・は、かなーりとろーりいい感じでした。・・・って、どこまで送るんでしょうか?」
「それはもちろん家です!」
「わーい! 家といえば、何が起こっても全くおかしくなーい!!」
「むしろ、当たり前ー♪」
「これでマスターを占領できますな!」
「早速、マスターに報告しましょう!!」
「あの、2人とも」
勝手に盛り上がるリンとミクに、ルカは声をかける。
「あ、これおつりいらないから!」
お勘定と共に、お金を渡すリン。ルカは一目見て、
「・・・本当におつりいらないですよ」
そう言って、1人残されたルカは、ため息をついたのだった。
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