「さて、ここでクイズです」

頼りない小舟を漕ぐ船頭が言った。
この光景に似合わないクイズというワード。
僕は景色に夢中になっていたので、びっくりする。
「あなたは、なぜここにいるのでしょうか?」
変な質問だと思った。
「そりゃ、死んだからでしょ」
「そうですが、ここは此岸と彼岸の間。つまり、あなたはまだ本当の意味で死んでいない」
そうなのか。
「で、ここで質問。あなたは生と死の狭間にあって、何を考えていますか?」
「……それは」
「後悔でしょう。航海だけに」
「なにそれ、腹立つ」
「はは。でもあたりでしょう」
「この航海がいつまでも終わらないのは、あなたがまだ迷っているからです」
「自ら死を選んだことに?」
「そう。あなたは決心の元、死を選んだ。と思っていた。けれどそれは決心ではなく、出来心からだった。あなたにはまだ本当はやりたいことがある」
船頭はいたく真剣な顔をした。
「あなたのような、我儘で傲慢なガキンチョはさっさと此岸に戻るべきです。私も暇ではない。本当に彼岸に渡るべき人間を導かないといけないのです」
「……」
「言ってたら腹が立ってきました。私の一存で戻ってもらいます。あなたはさっさと戻って、人生の苦しみと幸せを謳歌してください」
船頭はそう言うと、漕いでいたオールを持ち上げて僕の前に差し出し、胸に当てる。その瞬間、僕の意識は遠のいた。

気がつくと、白い天井。声が聞こえたので横を向くと、彼女が泣いていた。ぼんやりとする頭で、なんとなく生きててよかった、なんて思った。

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彼岸の夕景を臨みながら

ショートショートです。なにかの参考になれば。

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投稿日:2023/11/21 14:29:14

文字数:650文字

カテゴリ:小説

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