失いきってしまえたらよかったのに。頭の裏側の端のすぐ隅のほうに突き刺さっている、ソリッドな絶望感がどうにも足を背を急かしてたまらない。解釈の歪められた空を飛ぶ、烏が落ちる、天を滑る、その優雅なさまを念う。
失いたくなかった。手放したくなかった。忘れたくなかった。自由も。記憶も。命も。どれも過去形だ。得るものがなければよかった。そうであれば失うものだってなかったはずだ。そう思えたらどんなにいいだろう。
思えなかった。俺は得てしまった。捨てられなかった。 目の前に落ちてきてしまった星はこの手の中に収まって、それがどうにも暖かくていけなかった。いっそそれが空へと還ってしまう前に、力尽くで、ひと思いに、拳を、握ってしまえたらどんなに。それができなかったからこんなに自責が首を絞めるのに!
失った。手を離れた。声が遠ざかる。烏の死骸を他の烏が啄む。風が泣いている。
俺は目をそらした。海から。空から。レンズから。
目をそらした。
見るべきものを見ることができなかったこの目は、今は烏の死骸を見ている。
【黄金の吸い殻】
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