最初のショックを乗り越えてしまえば、意外と冷静でいられた。
ずっと忘れていて、夢を見て初めて思い出した事といい、この事といい、我ながら薄情だと思う。
ただ、頭の奥の方でぼんやりと、これで僕は本当に、独りになってしまったんだと、他人事のように考えていた。




~箱庭にて~
二章




手紙には、僕の父が死んだという事実が、淡々とした短い文で書かれていた。
死因は書かれていない。
軍が僕に気を使ってくれたのか、あるいは軍に都合の悪い事があったのか。
僕としてはどちらでもいいが、詳しい事を細かく書かれるよりは、この方が少しだけ、気が楽だ。
父がどうやって死んだか…知ったからといって、僕には何もできないし、知ってもあまり気分の良い事じゃない。


「おにーちゃん…大丈夫?」


考え込んでいるのを、具合が悪いと思ったのか、未来と鈴が心配そうに見上げてくる。
錬は知らん振りして芽衣子と遊んでいるが、時折ちらちらとこちらを見ていた。
彼らなりに、気遣ってくれているのだろうか。


「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう」


にこ、と笑ってみせると、2人は安心したのか、顔を見合わせて笑った。
笑顔を作るのは得意だ。
封鎖された街で生きるしかなくて、1歩外に出れば殺される…。
そんな息苦しい生活を送る子供たちを、何より自分を落ち着けるために、笑顔を作るコツなんて自然に身に付いてしまう。
そんな自分が、僕はあまり好きじゃなかった。


「あっ、そうだ!あのね、私考えてた事があるの!」

「へぇ、知りたいな。教えてくれる?」

「いいよ~。えーっとね」


未来はくすくす笑いながら、僕に飛び付いた。


「私ね、おっきくなったらおにーちゃんのお嫁さんになる!」


離れたところで、芽衣子がぴくりと反応したのが見えた。
その事と、未来の純粋さが可愛くて、思わず、声を上げて笑った。


「あはははは!未来がお嫁さんかぁ。それは楽しみだな」

「うん!奥様はおねーちゃんだから、私はお嫁さんなの!」


…それ、ちょっと違うんじゃないか?
そう思わなくもなかったが、相手は6才だ。
声に出すほど、僕は無神経じゃない。


「っていうか、おねーちゃんが奥様、なんだ」

「だっておにーちゃんとおねーちゃん、仲良しなんだもん」


いやいや、仲良しなんだもん、と言われましても。
反応に困っていると、それまで何を我慢していたのか、ブルブル震えていた鈴が声を上げた。


「ずるいよ!未来ばっかりお嫁さんで!」

「いいじゃん、お嫁さんにくらいなったって!」

「むー…!いいもん!錬のお嫁さんになるからいいもん!」


鈴ちゃん、本人がすぐそこにいるんだけど、それはいいのかい?
こっそり錬を見やると、彼は完全にこちらを無視して、古いボールを蹴っていた。
君…将来カッコよくなると思うよ。いや、本当。


「…ありがとう、未来、鈴」


気が付いたら、2人にまた礼を言っていた。


「おにーちゃん、ちょっと元気出たよ。ここに来ればみんないるから…だから、寂しくない」


何がどうなって寂しくないのか、いまいち解らないのか、未来と鈴はそろって首を傾げる。
でも構わない。僕がどういう事か解ってるから、それでいい。


「寂しかったの?」

「寂しくなるかな、って思ってただけ」


確かに、父は父だ。
忘れてはいたけど、確かに僕にとって、大切な人だった。
でも未来も鈴も、錬も芽衣子もお母さんも、みんな僕の親で、姉弟で、家族だ。
独りにはなったけど、まだ僕は1人ぼっちではない。


「変なのー」


首を傾げたままそう言って、2人はお母さんのところに走っていった。
おにーちゃんが変になったとか、そういう内容の言葉が切々に聞こえてくるが、気にしない事にした。


「…あれ?」


わきに置いていた封書を取り上げて、違和感を覚える。
紙が入っているにしては、少し…重い、ような。


「何だろう…」


もう一度、封書を上下ひっくり返すと、何か小さな物が、二枚の紙と一緒に床に落ちて、音を立てた。
拾ってみると、金属でできた、粗末な鍵。
紙は、1枚はさっき僕が読んだ、軍からの知らせだ。
もう1枚には、まったく違う筆跡で、1枚目よりさらに短く、簡潔な文があった。


『荷物を引き取れ  息子へ』

「荷物?」


思わず呟いてから、はっと思い当たる。


「ごめんお母さん。今日はちょっと…帰らせてもらっていいかな」


半ば無意識に早足でお母さんのもとに向かい、遠慮がちに問いかけてみる。
その言葉をどう捉えたのか、お母さんは優しい顔で、すぐ頷いてくれた。


「えー、帰っちゃうの?」

「遅かったのにー」


明らかにがっかりしている未来と鈴に苦笑して、いつもみたいに頭を撫でてやる。


「ごめんね、明日はもっと遊んであげるから」

「本当?」

「うん、約束する」

「絶対だよー!」


踵を返した僕の後ろから、2人がそう叫ぶのが聞こえた。
芽衣子に挨拶するのもそこそこに、僕は帰り道を走り出す。
あの小さな鍵…。
家の中、たった1つだけ、鍵がかかっていて開けられなかった扉がある。
あの扉の鍵かもしれない。
そう思うと、緊張と期待で、ドキドキした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【勝手に解釈】箱庭にて 二章

前回言い忘れてたので、言わせて下さい。
未来ちゃんたちロリショタですみません!
だってこの方が書きやすかったから…orz
…はい、言い訳しちゃダメですね、ごめんなさい。

幼稚園児って、絶対誰かは婚約しますよね。
私はしました。したのは覚えてますが誰とかは覚えてません(ぇ

ところで、4才児って…喋ります、よね…?(((゜ω゜;)))



原曲はこちらです。
「オールドラジオ」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm3349197


[追記]
誤字を発見しましたので、修正しました。

閲覧数:179

投稿日:2009/05/12 12:44:40

文字数:2,189文字

カテゴリ:小説

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