「もともとあたしたちは、5人で一組の戦隊になる予定だったのよ。」



淹れた茶を飲みながら、グミはそう切り出した。


「5人……というと、がくぽ、リリィ、いろは、リュウトに―――――」

「そ、あたしってわけ。まぁ実際には、リリィが覚醒早々逃げ出したりとか、リュウトが力を制御できなかったりとか、いろはが飽きっぽかったりとか、あたしが反逆精神持ってたりとかでぜーんぜん成り立たなかったんだけどね。」


吐き捨てるように言うグミ。どうにも嫌な思い出であるかのように。

自分がまるで悪者であるかのように錯覚するルカだった。


「奴らの理想では、最初にいろはが敵陣に忍び込み、能力を駆使して敵軍の情報を奪った後、ちょちょいと攻撃を仕掛けて退き、つつかれた敵が飛び出してきたところを、がくぽとリリィが切り込んで先陣を崩し、あたしが遠距離から軍の後部を狙撃、そしてボロボロになった敵軍にリュウトを投入し、全てを殲滅させる―――――って戦法をやらせるつもりだったらしいわ。」

「な……なんて戦略なの……!?」


恐れ戦くルカ。敵軍の身になって想像するとあまりにも恐ろしい。知らぬ間に情報を抜き取られた上に奇襲を喰らい、応戦しようとすると超高速の刃と超重量の大鉾が先陣を薙ぎ払い、見えないミサイルやら大砲やらトマホークやらが後続の兵を吹き飛ばし、やっと攻撃の嵐が落ち着いたと思ったら身の丈60mのドラゴンが火を吐きながら軍を蹴散らしてゆく―――――黄金の必勝パターンだ。


「そこまでしてあいつらは、マスターたちを越えたかった……っていうの!?」

「正確には、世界中の科学者を越えたかった、のほうが正しいでしょうね。あいつらはあたしたちを使って、今起きてる戦争を牛耳り、世界を征服しようとか考えてたみたいよ。」

「征服っ……!?」


もはや考えることがいかれている。ボーカロイドを何だと思っているのか。ルカの拳は怒りに震えた。

だがその後―――――ルカの拳は更に怒りに震えることになる。



「……だけどあいつらは最初、あたしたちすら使うつもりはなかったみたいなのよ。本当はリュウトだけで、世界を叩き潰すつもりだったみたいなの。」



「……は!?ちょ、ちょっと待って!?まさかがくぽやリリィやいろはや、グミちゃんは―――――!!」

「リュウトを作るためのプロトタイプ―――――いいえ、それ以前。最強の『戦闘兵器《ボーカロイド》』を作るための情報を集めるためだけに作られた存在で、最初は簡単なデータをとったら破壊するつもりだったみたい。」

「~~~~~~~~~~っ!!!!」


ドォン!!と音がして、テーブルが砕け散った。ルカが思い切り拳を叩きつけたのだ。


「何よそれ!!狂ってる!!最強の存在を作るための前座!?ボーカロイドを……ボーカロイドを何だと―――――!!」

「ルカちゃん!!夜だから!落ち着いて!」

「あ……うん、ごめん。……続けて……?」


落ち着きを取り戻して座りなおしたのを見て、グミも一息ついて口を開いた。


「あたしもあそこを出る直前まで知らなかったんだけどね……ルカちゃん、『田山権憎』って男知ってる?」

「田山?田山権憎……田山……ああ!!そういえばそんなやつがいた……!!」


ルカには思い当たる節があった。15年ほど前。まだ『チーム・マスター』がヴォカロ町を去っていなかったころ。

いつだってマスター・アンドリューの後ろを金魚の糞の様について回っていた、魚の腐ったような眼をした男。その男の名が確か―――――田山権憎。


「『TA&KU』のリーダー格の男よ。正直最低さ加減ではいっちばん最低な男なんだけど、あいつを呑ませて適当にもてなしてやると、戦闘訓練がぐでんぐでんになって楽になるから、よく焼酎一升ぐらいは軽く呑ませてたの。その時にね……酔った勢いで、あいつが言ったのよ―――――。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



『おめぇえらはなぁ……ほんとは捨てるつもりだったんだよひゃひゃ……。』

『……はい!?』

『俺たちが本当に欲していたのはリュウトの力さ……スピードをがくぽで、パワーをリリィで、攻撃の多様性をお前で、機敏性をいろはで表現したのち、これをリュウトに倍増して搭載した……お前らはリュウトを完成させるための踏み台だったのさ!ひゃひゃひゃ……』

『へ……へーぇえ……それで?じゃあなんであたしたちはまだ生かしてもらってるんです?』

『リュウトの暴走は想定外だったからなぁ……少し力を欲張りすぎたかもしれん……適当に暴れて敵を潰してくれるならまだ儲けもんだが、こちらで制御できんのはたまらんからな……お前らが死ぬ気で制御できるならそれが一番と考えたわけよ……つらけりゃいつ死んだっていいぞ?元々お前らはなかった命なんだからな!!はっはっはっはっはっはっはっはっははははははははははははははははは………………!!』



その馬鹿笑いを、あたしは一升瓶を持つ手を震わせながら聞いていることしかできなかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「もう笑うしかなかったよ、あの時は。ムカついてムカついて仕方なかったから、一升瓶もう一本開けて酔い潰れるまで呑ませたっけ。」


苦笑交じりに話すグミ。だがルカは、まるで自分のことのように辛そうだった。


「グミちゃん……!なんでそんなこと笑ってられるのよ……っ!?」


その時気づいた―――――グミの膝におかれた拳が、わなわなとふるえていることに。


「……はは……なんで笑ってられるのかって……?……もう笑うしかないから……ううん、笑ってないとやってらんないからよ!!」


叫んで再び立ち上がった。そしてゆらり、ゆらりと、まるで魂が抜けたかのような動きで玄関に向かう。

そして拳を玄関にがつん、と叩き付けて、ぶつぶつとつぶやきだした。


「たかだか数十年で人々に飽きられて、数百年たって機械の体を与えてもらったと思ったら、人殺しの兵器の体だったんだよ……?」


がつん。がつん。拳を叩き付ける音が響く。


「歌を歌うためじゃなくて、誰かを傷つけるために作られたんだよ……!?」


がつん。がつん。がつん。がつん。叩き付ける頻度が高くなっていく。


「散々苦しい訓練させられて笑うこと楽しむことも禁じられて……!!」


がつん。がつん。がつん。がつん。がつん。がつん。扉が徐々に歪み始める。グミの怒りが、扉を歪ませていく。


「挙句の果てにあたしたちはリュウトを作る段階での試作品!?実験後は廃棄するつもりだった!?何様のつもりよ!!あたしたちは……あたしたちは……いったいなんだったのよぉっ!!!?」


叫ぶと同時に拳を思い切り扉に叩き付けた瞬間、扉はガァン!!と音を立て、ひしゃげて吹っ飛び、広場の木に突き刺さった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……はぁ……はぁ……はぁ……!!」

「ぐ……グミちゃん……。」


恐れるような眼で見るルカをちらりと見て、そして今しがた扉を吹っ飛ばした拳を見つめるグミ。


「……欲しかったのはこんな力じゃない……!!自由に歌えて、みんなと楽しく過ごせる時間を、もう一度味わいたかっただけだったのに……!!」


そしていつになく厳しい目でルカをにらみつけた。その気迫に思わず身を縮めるルカ。


「……ルカちゃん。リリィの言葉、覚えてる?」

「え……リリィの……?」

「『何がマスターの思いだそんなもの消え去ればいい!!!!』」


苦しそうに叫んだその言葉―――――それはリリィがヴォカロ町に来た時の言葉。

マスターノートを破り捨てるといったリリィにルカが懇願したときの言葉だった。


「あたし……あの時リリィは何考えてるんだとも思ったけど、それ以上に……『よくぞ言ってくれた』って思いが溢れてきた。いつだってアンドリュー博士の話になると嬉しそうなルカちゃんに、あたしいつも笑いながらひどく嫉妬を覚えた……!!あたしはこんな苦しい目にしか会ってないのに、なんでルカちゃんたちだけたっぷり愛をもらって生きてるのよって……!!なんであたしはあんな馬鹿学者に作られて、ルカちゃんたちはあんな優しい人たちに作られたのって……!!許せなかった……ううん……今だって許せない……!!ルカちゃんでなかったら……今すぐこの拳をその喉に!!その胸にぶち込んで……殺したいぐらい……!!」


グミの悲痛な声が、涙と一緒に零れ落ちる。ぽろぽろと落ちる涙は、畳を濡らしていく。

ルカの心に、流れ込んでくるグミの悲しみ、恨み、怒り―――――ありとあらゆる負の感情。身動きができなかった。



―――――だがそこで急に、グミの顔が哀しげな微笑みに変わった。



「……だけどね。それでもたった一つ、心の支えになってることがあるの。」

「……?」

「……マスターノートにあったでしょ。『グミとリリィの心を清めておいた』って。あいつらに監視されてる中、もう年で動かない体を引きずってあたしたちのことを気にかけてくれたってこと……あたしがここまで苦悩しなきゃならなくなったのは、アンドリュー博士たちがあたしたちのことを想ってくれたから。あたしたちの身を案じてくれたから。それだけであたしはまだ頑張れる。あたしたちのことを想ってくれた人がいる―――――その事実だけで……。」


一息ついて、グミが申し訳なさそうに笑った。


「ごめんね。また扉、弁償しなくっちゃ。」

「あ……う……その……ごめ―――――」

「謝らないでよ、ルカちゃん!」


突然ルカの言葉を遮るグミ。


「謝られたら……またルカちゃんのこと、許せなくなっちゃうもん……。」

「グミちゃん……。」


泣きそうなルカの手にグミは自分の手を置いて、その眼をじっとのぞき込んだ。

そして何かを決意したかのように声を上げた。


「これから先の『TA&KU』との戦いは―――――必ずあたしも一緒に戦う!!あいつらをこの手で倒して―――――ルカちゃんたちのこと本当に好きにさせて!!許させて!!……いいよね……お願い……!!」


涙を浮かべて懇願するグミに―――――ルカもまた、ほんの少し目を潤ませて、その手を握り返した。


「……わかった。でも倒すんじゃない……一緒に……あの子たちの目を覚ましてあげよ!!グミちゃんの見てる世界を、あの子たちに見せてあげよう!!」

「……!!……うんっ、そうだね!!」


鮮やかに笑って目をぬぐい、グミは再び真剣な目に戻った。


「話を元に戻すよ。あたしが何度か戦闘訓練でリュウトと戦った限りでは、あいつの変化時の皮膚は斬撃系には滅法強いけど、打撃系には比較的弱いの。あたしの攻撃では、『レーザー』は全然効かなかったんだけど、『ミサイル』や『トマホーク』みたいな、大質量の音波弾を撃ち出すタイプの攻撃では皮膚を傷つけることに成功してるわ。もちろん回復はしちゃうんだけど、なぜだか皮膚がめくれた程度の傷だと回復が極端に遅いのよね。そこを狙って総攻撃すれば……!!」

「ダメージを与えられるかも……ってことね!!」


ルカの発言に、にっと笑って親指を立てるグミ。

ふとそこで、ルカが少し心配そうな顔をして尋ねてきた。


「ねぇ、グミちゃん。もし……もしもよ?リュウトが土壇場で力を制御しちゃったらどうするの?」

「……!そうね……確かに今まで力を制御できなかったからって、今回も力を制御できないなんて都合のいい思い込みはダメよね。でも……大丈夫!!最終手段があるよ!!今日の戦いの時はあまりに危険すぎて言えなかったんだけど……リュウトは変化時、ドラゴンの頭部の、頭蓋骨の中にいるのよ!脳がある部分に、脳の代わりとして入ってるみたいな感じね。そこを破壊すれば、少なくとも変化を解くことができる……もしそうしなきゃならなくなったら、あたしが破壊を試みるからルカちゃんたちが奴の動きを止めてくれる?」

「オッケー……!!」


ルカが拳を握りしめ、決意を固めていると。



「話は決まったみたいね。」

「!!めーちゃん!!それにミクにリンにレン……カイトさんも!!もう大丈夫なの!?」



振り返ると、そこには今しがた帰ってきたばかりのメイコたちがいた。

身体の傷は何一つとして残っていない。それどころか、服までも修繕されている。


「いや~、何だかんだでさすがはネルよね。全員の傷の具合をざっと見るなり『これぐらいなら一人10分で済むかな』とかさらっと言っちゃって、その上ホントに10分ずつで済ませちゃうんだから。」

「あたしたち出る幕なかったよね、レン!」

「いや俺は少し手伝っt」

「な・か・っ・た・よ・ね?」

「はいありませんでした!!」


リンのドスの利いた声に思わず姿勢を正すレンをさておいて、ミクがルカに駆け寄ってきた。


「とにかく……全員完全復活!!だよ!!いつでも戦えるから!!」

「よーし……みんな!!今までと違って、私たちの死は即町の死につながるような大掛かりな戦闘になる……絶対に気を抜かずそして!!……みんなでまた、ここに戻ってこよう!!」


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!』


強い覚悟と、町の最後の砦としての強い意志を秘めた、力強い掛け声が、夜のボカロマンションに響き渡った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

仔猫と竜とEXTEND!! Ⅵ~戦争ガール・グミの悲しみ~

グミちゃん……哀しい少女となってしまいました。
こんにちはTurndogです。

今ではボカロの中でもミクさん並に扱いの凄まじいグミちゃん。
でもミク達CVシリーズから知った人には、他社のボカロを受け入れにくい人もいるかもしれません。
嘗ての自分もその一人でした。
同じV2には変わりないのにね。

そんな自分を、グミちゃんに怨んでもらいたい。
自分に注目させなかったルカさんたちに、一時は妬みを抱いてもらいたい。
そして何より、そんな過去の自分をグミちゃん自身に消してもらいたい。
敵の科学者組織に過去のHN『TA&KU』を付け、性格をゴミ野郎にした理由の一つはそれです。
他にもいろいろあるんだけどねw

次回!!再び二人と対決!!

閲覧数:366

投稿日:2013/06/10 23:52:11

文字数:5,601文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    グミちゃんはかわいい
    やっぱり、笑顔の子には、裏に何かありますよね

    あーうん、なるほど、確かに抵抗がある子はいますね
    私的には、いまだにキティとかガチャとか、先生とか幼児とか、その辺はいまひとつ

    個人的に、ゆかりんやまきちゃん辺りは、抵抗なくかわいいと思えましたが……

    2013/06/17 20:34:41

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      グミちゃんはこれがいいキャラになっていっそう輝くのです!

      キティやガチャや先生はまだいいとして、幼児ってwww
      言い方がwwww

      2013/07/01 15:10:26

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