「…どうして、あんたがここにいるのよ」
僕を目にした瞬間、彼女は驚きとも不思議ともつかないような、奇妙な表情でそう言った。
一瞬迷ってから、僕は言葉を発する代わりに、マフラーの下から少しだけ微笑んでみせた。
まるで、ずっと前からそうしようと思って用意していたみたいに。
本当は、なんて言ったらいいか分からなかっただけなんだけど。
でもそんな僕の行動は、ただでさえ疑わしげな彼女を余計に不信がらせただけらしかった。
「えぇ? 何よ、その笑みは」
「別に……特に意味はないけど」
「……あんた、あたしに何か隠し事してるんじゃないでしょうね?」
「してないよ、めーちゃんに隠し事なんてできるわけないよ」
「本当?」
「ほんと、絶対ほんと」
「分かってるでしょうけど、もし嘘なんてついてたら--」
「嘘なんかついてないって! ほんとにほんと!」
「……ふん、まあいいわ」
彼女は鼻を鳴らすと--まだ納得のいってないような感じだったけど--、肩から少しずり落ちていた赤いバッグの位置を元に戻した。
僕はその様子をなんとなく見つめていたけど、はっと我に返る。
そうだ、こんなやりとりをするために、僕は彼女を迎えにきたわけじゃない。
「じゃあ、一緒に帰ろっか」
「じゃあってなによ、じゃあって」
「えーっと……一緒に、帰らない?」
「ったく、嘘臭いわね~……」
そう言いながら、ほら、行くわよ、と取られた右手がほんの少しだけ冷たさに触れる。
細くて華奢な彼女の指は、最近吹き始めた北風によって冷たく冷やされているから。
僕は意外と小さな彼女の拳を、上から包み込むように握った。
本当は、君を迎えに来たんだ。
君が相手だと、そんな言葉のひとつもまともに伝えられない。
そんな度胸の無い僕は、だんだん温まっていく右手の温もりを感じながら、ほんの少しピンク色に染まった君の頬が木枯らしの所為じゃないことを願っていた。
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