夜中、リンは妙な音に目を覚ました。と、いっても、飛び起きたわけではなくて、ふっと意識が戻ったような雰囲気なのだが、それでも感覚は不思議としっかりとしていた。雨のにおいがした。まだどこかの窓を開けているのだろう。夜の十二時程度までならルカとメイコが毎日宴会をやっているはずである。そう考えてもう一度眠ろうとしたが、ふと、思い出した。そうだ、あめのにおいがするんだから、まだ雨が降っているんだ。そんな中で、いくらよっていたとしてもうかつに窓を開けようとしたら、どちらかがとめるに違いない。と、すると、どこかの窓を閉め忘れたのだろうか? いや、戸締りはしっかりとルカが二回も確認しているはずなのだ。二回も確認したら、閉め忘れには気づくだろう。まして、この雨の中で、音やにおいに気づかないほど酔うとも思えない。
 流石に、頭の足りないリンでもなにかあったのでは、と不安になってきて、ベッドから出て武器の代わりにバット(何故リンの部屋にあるのかは不明)を握り締めた。そして、とりあえずレンの部屋に行く。一人で行くのは心細いのだ。
 こんこん、とノックすると、すぐにレンは出てきた。
「――…。俺、撲殺されんの?」
 リンが握り締めたバットを見て、レンは開口一番、そういった。
「そんな分けないでしょ!」
 そして、状況を説明する。
「えー…。一人で行けばいいだろ。俺、眠いんだけど」
「知らない! 兎に角来てよ、使い魔でしょ!」
「理不尽…。しかたねぇな、まったく」
 とか何とか良いながら、レンは部屋から出てくると、不安そうにしているリンの手をぎゅっと握り、
「さっさと行ってさっさと寝る!」
 といって、歩き出した。手を握られると、リンも安心したのだろう、表情が柔らかくなった。それでもひねった足首は痛いので、壁に手をついてよたよたと歩く。
「大丈夫か?」
 心配そうにレンが顔を覗き込み、肩を貸してやる。
「ありがと、レン」
 肩に捉まって歩くと、少し歩きやすくなった。
においと音を頼りにしていくと、二人はひとつの部屋の前にたどり着いた。どうやら、ミキが泊まっている部屋らしいが、どうしてまた、そんな部屋からあめのにおいがするのだろう? 二人は顔を見合わせた。
 少々君が悪かったが、このままではなんだか気になって眠れない。勇気を出してレンが何度かノックする。…返事はない。
 もう一度、ノック。今度も返事はない。
「寝てるのかな?」
「いや、窓開けたままはねないだろ」
「忘れて寝ちゃったんじゃない?」
「気づくって」
 二人が言い合っていると、ガチャ、と音がして、ドアが開いた。
「あの…なんですか?」
 恐る恐る、といった風でミキは言った。
「あの、窓、開いてませんか? 雨のにおいが気になっちゃって」
「あ、窓…。本当だ、あいてる。ごめんなさい、あけたまま忘れてたみたいです」
「じゃ、閉めといてくださいね、風邪ひいちゃうかもだし」
 にこっと微笑んで言うと、ミキは何度か頭を下げて、ドアの向こうに戻っていった。
 ドアの向こうから、窓の鍵を閉めているガチャガチャと言う音がして,もう一度ひょこっとミキが顔を出す。
「ちゃんと閉めましたんで」
「あ、じゃ、夜遅く、すみませんでした」
「いえ、こちらこそすみませんでした。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
 会釈をして、二人はミキの部屋を離れた。

「ったく、睡眠時間減った!」
 自分たちの部屋の前につくと、レンは大きなあくびをしながらリンに文句を言った。
「ごめん、だってなんか気になっちゃって!」
 両手を合わせて、リンが誤ると、レンは聞く耳も持たずに、
「うるせ、もう起こすなよ!」
「うーん、多分! お休み!」
「お休み」
 二人はそういって、それぞれの部屋に戻っていった。
 部屋に戻ってベッドに倒れこむなり、二人はすぐに寝入ってしまったのだった。
 そして、その次の日、二人が寝不足で学校に遅刻しそうになったことは、言うまでもないだろう…。

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鏡の悪魔Ⅴ 12

こんばんは、リオンです。
とある夜の出来事。
なんだかんだ言いながらリンが心配だから結局ついていくレンとか、大好物でした。
何でリンちゃんの部屋にバットがあるのとか気にしたら負けだと思いました。

閲覧数:241

投稿日:2010/07/15 00:05:38

文字数:1,658文字

カテゴリ:小説

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