UVーWARS
第三部「紫苑ヨワ編」
第一章「ヨワ、アイドルになる決意をする」

 その14「二度目のステージ」

「ねえ」
 帰宅途中のOLが足を止め、傍らの友人を呼び止めた。
 その先には、駅の小さなイベントスペースで踊っている二人の少女がいた。
 友人はOLの指さす先に二人の少女を見たと思った。
「うん。うん?」
「ちょっと、不思議じゃない?」
「ホントだ。あれ、二人だよね?」
「うん、でも、時々、ほら、三人いるように、見えない?」
「あ、今、見えた」
 徐々に二人の足はイベントスペースに向かっていた。

         〇

 曲が間奏になった。
 ステージに着替えたユフさんが上がってきた。
「ありがとう」
 ユフさんは小さくそう言ってわたしたちをすり抜け、ステージの中央に進んだ。
 すぐわたしたちはステージを降りた。
 楽屋でマネージャーさんが腕を組んで渋い顔をしていた。
「ごめんなさい!」
「ごめんなさい! マネージャーさん」
 わたしたちは体を思い切り折り曲げて頭を下げた。
「まったく、なんてことをしてくれたんだ、君たちは…」
 きつい口調ではなかったが、わたしは頭を上げられなかった。
「参ったな」
 マネージャーさんのため息が聞こえた。
「君たちを契約せずに働かせちゃったからな。テトさんに見つかったら怒鳴られるな」
 わたしは上目遣いにマネージャーさんを見た。
 ニコニコ笑顔があった。
「君たちのおかげで、お客さんたちが戻ってきたよ。ありがとう」
 曲が終わって拍手が起きた。
 わたしは少し誇らしくなった。
「いえ、ユフさんの歌が素晴らしかったからです」
 ネルちゃんの一言にわたしも心を引き締めた。
「わたしたちのダンスなんて、素人の曲芸まがいで、恥ずかしいです」
 ネルちゃんの言葉は時々大人っぽくてどきっとすることがある。
 反対に、これで喜んでるわたしはまだまだ子供なのだろうと思った。
 ユフさんの二曲目が始まった。さっきより大きな拍手が起きていた。
 見るとステージを囲む人の輪が広がっていた。
 立ち止まって聞き耳を立てる人も見えた。
 アップテンポな曲がリズムよく体に響いた。響くたびに甘い水滴が口の中に滴り落ちるような錯覚を覚えた。
 これは後で知ったのだけど、この時二度目のソフトクリーム爆弾が投げ込まれたようだった。歌に感動して手を振り上げた人の手の甲に弾かれて床に落ちたらしいのだが、わたしはユフさんの歌に夢中で気付かなかった。
 外の音も今は聞こえない、ユフさんだけの世界がそこにあった。
 気づいたら三曲目が始まっていた。
 三曲目はスローなバラード風の曲だった。サビの部分が印象的で思わず口ずさんでいた。
 すると、ネルちゃんが不思議そうにわたしを見た。
 それに気づいたわたしは、少しだけ首を傾げてみたが、ネルちゃんはすぐに首を横に振った。
「ごめん。気のせい」
 わたしは、歌はあまり得意じゃないから、ちょっと変に聞こえたのかも。ごめんね、ネルちゃん、雰囲気壊して。
 口には出さなかったけど、ネルちゃんは察してくれたみたいだった。
「いや、ヨワの歌が変だからじゃあないよ」
 相変わらず、ちょっとしたトゲが単語の端に生えてますね、ネルさんや。ま、気にしないけど。
 三曲目が終わって拍手が起きた。最初は静かに。次第に波紋が広がるように。
 外の爆音はもう気にならなかった。
 三曲目が終わったばかりで、ユフさんがステージを降りてきた。
 マネージャーさんは怪訝そうな顔をした。ユフさんはニコニコして、わたしたちに言った。
「この間の振り付け、覚えてる?」
 わたしとネルちゃんは顔を見合わせた。
「はい」
 返事は二人同時だった。入学試験に向けていつも練習してきたのは、あの日、テトさんとステージで踊ったダンスだった。
「わたしがテトさんの歌を歌っても、踊れるかしら?」
「もちろんです」
 またしても声が揃った。
「いい返事。いいチームワークだわ」
 ユフさんの優しい笑顔が輝いた。
「マネージャーさん、いいかしら?」
 振り返ると諦めたような表情がそこにあった。
「ユフがいいなら、どうぞ」
「ありがと、テッドさん」
 ユフさんはわたしたちの手を取り引っ張った。マネージャーさん、「テッド」って名前だったんだ。初めて知った。
「じゃ、二人とも、お願いね」
 いや、引っ張らなくても、大丈夫ですよ、ユフさん。
「はい」
 もう一度ステージに立てるなら大喜びで付いて行きます。 

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UV-WARS・ヨワ編#014「二度目のステージ」

構想だけは壮大な小説(もどき)の投稿を開始しました。
 シリーズ名を『UV-WARS』と言います。
 これは、「紫苑ヨワ」の物語。

 他に、「初音ミク」「重音テト」「歌幡メイジ」の物語があります。

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投稿日:2018/02/10 13:36:10

文字数:1,877文字

カテゴリ:小説

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