「クリスマスだから、クリスマスだから!私は告白するっ!」
夕方の住宅街に響き渡らないように、部屋の中だけに聞こえる程度の大きさで、私は高らかに宣言した。
「わざわざ私の家にそれを言いに来たの?」
私がせっかく勇気を出した言葉に、友人は白い目を向ける。
「だ、だから。告白方法を一緒に考えてください」
呆れ顔の友人を見て、私はペコリと腰を曲げて頭を目一杯下げた。
「はー、今度こそは本当に頑張れるの?」
溜息を吐きながらも、相談に乗ってくれる友人は本当に優しいと思う。
「う、うん。今度こそは頑張る」
腕を胸の前で曲げて、“頑張る”というアピールをしながら答えた。
「じゃあ前に考えたのを改変しましょ」
そう提案する友人は、無駄のない動きで紙とペンを用意してスラスラと作戦を書いていく。
私が最初に友人に相談したのは去年のクリスマスだった。その時も今と同じように友人の部屋で相談したと思う。
その時の反応は今と全然違い、とても驚いていたのを今でも鮮明に思い出せる。
その頃からイベントがあるごとに友人に相談していたら、今ではもう溜息を吐かれるほどになってしまっていた。

 「あんたも懲りないわね」
紙にペンを走らせながら、友人はこちらを見ずに話しかけてきた。
「いいじゃない、別にフラれた訳でもないんだし」
そう、私は別にフラれてはいない、告白する直前になると逃げてしまう癖が出てしまうだけで・・・・・・。
「はい、出来上がり。もうこれでいいんじゃない?気持ちが伝われば」
友人は作戦が書かれた紙を見せてくれた。
私はその紙に目を向けて、書かれている文字を熟読する。
「ねー、校舎裏に呼び出して“付き合ってください”と告白するって、去年も同じ事しなかったっけ?」
「あんたが行動しなかったから、没になっちゃったじゃない」
「そ、それは・・・・・・」
「まずは行動しないとどうにもならないでしょ?今度こそ頑張りなさいよ」
友人は私の両肩に手をポンと乗せて、励ましてくれる。
「う、うん。今度こそ三度目の正直って感じで頑張るよ!」
私は小さくガッツポーズをしながら答えた。
「去年のクリスマス、初詣、バレンタインデー、節分、春休み、ひな祭り、ゴールデンウィーク、夏休み、体育祭、文化祭・・・・・・」
友人は俯きながら、何かブツブツ言っている。きっと私の告白が、今度こそ成功する呪文を唱えてくれている、私はそう考えることにした。

◇ ◇ ◇

 とうとうこの日が来てしまった。
クリスマス当日には学校は冬休みに入ってしまうから、今日は終業式で今年最後の登校日。
今は終業式も滞りなく終わり、帰りのホームルームの真っ最中だけれど、先生の話は私の耳を右から左に抜けていく。
隣の席に座る友人は何度もこっちを向いて、目で“ホームルーム終わったらすぐに話しかけろ“という無言のプレッシャーをかけてくる。
教室のソワソワした雰囲気も、もうすぐその時が来ると私に教えてきた。今すぐにでも走って逃げ出したいが、去年の私と今の私は違う。というところを見せつけないと、そろそろ本気で友人に愛想尽かされそうだ。

キーンコーンカーンコーン

 学校のチャイムがホームルームの終わりを告げる。
学校中に聞こえるチャイムは相当大きな音のはずなのに、私の鼓動はそのチャイムより大きな音に思えた。
クラスメイトがガヤガヤと席を立ち、教室を後にするなか、私の足がガクガクと震えていることを知ってか知らずか、友人はアイコンタクトというよりは鋭い視線で私を睨んできていた。
震える足に心の中で喝を入れ、机に両手をついてなんとか立ち上がれた。
その弱腰のまま、なんとか彼の机まで辿り着けた。幸いまだ帰り支度をしているようで、教科書を鞄に入れている最中だった。
もうこのまま心臓が張り裂けてしまうのではないかと心配になるほど鼓動の早い私が、流暢な会話が出来るはずもなく、必然的に口ごもってしまう。
「あ、あああ、あの・・・・・・」
我ながら蚊の鳴くような声だったと思う。
「ど、どうしたの?顔が真っ青だけど大丈夫?」
嗚呼、いつもは教室の雑音と一緒に遠くから聞くことしか出来なかった声が、今は私だけに向けられている。ただそれだけで幸せになれた。
「だ、だ大丈夫だから!」
声が上ずってしまい、変に大きな声が出てしまった。
おそらく教室には少なからず人が残っているはずなのに、こちらに視線が飛んできている感じはなく、ただ一つを除いては他に感じられなかった。
「あ、う、うん。大丈夫ならいいんだけどね」
「あの、その、その」
周りの雑音は耳に入ってこないのに、なぜか後ろからの視線だけは背中に突き刺さるのは分かってしまう。
「やっぱり保健室に行こうか。心配だから僕も付いて行くよ」
私が用件を告げる前に、保健室に連れて行かれることになってしまった。
予想外の事態に私は後ろを向き、アイコンタクトで友人に助けを求めたけれど、そこにはグッと親指を立てる友人が突っ立っているだけだった。
正直その行動には苛立ってしまったけど、ほんの少しだけ鼓動が遅くなった気がした。
「さ、行こうか」
彼は私の前に手を差し出してきた。その行動は私の手を引いて連れて行ってくれるという事なのだろうと頭では分かっているけれど、体が動かなかった。
私が無言で俯いたままでいると、「あ、ごめん」と申し訳なさそうに彼は手を引いてしまった。
大チャンスを逃してしまった私は、気が付くと咄嗟に引かれた手を両手で掴みかかっていた。
そこで私の視界は暗転した。

◇ ◇ ◇

 気が付くとそこは見知らぬ白い天井だった。
ここが自分の部屋ではないと気付くと、突然に気を失う前の記憶が走馬灯のように頭を巡り、私はぐいっと上半身を勢いよく起こした。
周りを見回すと左には白いカーテン、右には丸椅子に座る彼が居た。
突然の対面に私の鼓動はまた急加速し、首は誰かに押さえつけられているように動かすことが出来なかった。
「あ、気付いてよかった」
彼は安堵の表情を見せてくれたけれど、私は驚いた表情のまま顔を戻すことができなかった。
そんな私を見て彼はまた心配の表情で、私に話しかけてくれる。
「まだ顔色があんまり良くないよ?先生呼んでくるから待ってて」
彼は椅子から立ち上がり、白いカーテンの向こうに消えようとしたのを見て、またも咄嗟に手が出てしまった。
「ど、どうしたの?」
咄嗟に出た手は、彼の制服の袖口を掴んでいた。
私は真っ赤な顔が彼に見えないように、黒い長めの前髪を垂らすように俯きながら、また蚊の鳴くような声だけれど、言えた。

「ずっと前から好き、です。私と、付き合ってくれませんか?」

俯いた顔を少しだけ上げて、垂れた前髪の隙間から彼の顔を伺うと、口角は少し釣り上がり、少しだけ赤面しているようにも見えた。
そんな事を考えている私は意外に冷静だなと、無駄に自己分析をしている間に彼の唇は動き始めていた。



終わり

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

クリスマスだから!

できれば感想等をいただけるとありがたいです。

閲覧数:92

投稿日:2012/12/22 02:47:24

文字数:2,872文字

カテゴリ:小説

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  • kanpyo

    kanpyo

    その他

    投稿、ありがとうございました。

    感想、早く書かねばと思いながらも今日までかかった事を
    ご容赦下さい。

    ショートショートという分類になるのでしょうが
    なかなか読み応えがありました。
    文体、リズム、分かりやすさなど
    かなり、「慣れてる」なと。
    シンプルな会話で物語りは進みますが
    難解な所一切無しで、それなのに主人公の恋心をうまく
    表現しているなと感心しました。

    この物語の告白の答えをどう捉えられるかは
    読み手の推理に任せるとして、コミカルな主人公の
    キャラと、律儀でお茶目な友人ががとても魅力的に見えました。

    長編も、是非読んでみたいですね。

    次回作、楽しみにしてます。

    でわでわ。

    2013/02/12 21:18:28

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