目を覚ました8月14日のベッドの上で、少年は「また駄目だったよ」と力なく呟いた。

少年は終わらない夏の日を延々と繰り返す。夏の日は必ず少女を殺した。終わらない夏の少女が目の前で死んでいく日々が延々と続く。
少年はいつからこうなったのか、不思議と思いだせなかった。気付いたらこの日々を過ごしていた。夏以前の記憶はある。だが気付けば、夏が終わらない。
彼はどうにかして少女を助けたかった。以前トラックにはねられていたから歩行者天国を歩いていたら通り魔に殺された。以前鉄柱が降ってきたから町に出ず自分の部屋で過ごそうとすればガス漏れで少女だけ死んだ。どうやっても少女を少年は助けれなかった。必ず少女は死ぬ。
これが全部夢であればいいのにと思ってベッドに入ると目がさめれば14日だ。14日の惨劇が終ったと思うと今度は15日の惨劇だ。16日はやってこない。15日の惨劇の次は14日の惨劇だ。

彼は限界だった。

目の前で延々とかけがえのない存在を運命とやらに殺されるのだ。限界だった。時折少女は薄く笑いながら死んでいく。それが現実か幻覚かもわからないくらいに彼は追い詰められていた。彼は限界だった。
とある14日、何回目か何十回目か何百回目かの14日に、目の前の以前どこかで見たような交差点にどこかで見たようなトラックが突っ込んできた。少年はいつもの通り交差点に吸い込まれていく少女を乱暴に押しのけ、代わりに自身が飛び込んだ。
運命よさようならざまあみろ。
少年は穏やかな笑みを浮かべて白黒の横断歩道の上に赤い花を散らして逝く。少女の驚愕した顔に、やっと終わったよと呟いて。

少年の意識は赤から黒へと沈んでいく。ひたすら闇の中に沈んでいく。沈んでいった先の先に、光が見えた。
ああ、天国に来たのかな。少年は考える。
光に体が飲み込まれた。
眩しいくらいの光に、彼が洗い流される。
何かが洗い流される。
忘れてはいけない何かが。
忘れたい何かが。

…………………………

そしてまた夏は始まった。フォーマットされた彼はまたベッドの上で目を覚ます。
少年は寝ぼけ眼で時計を探す。時計の針は、15日、午前10時過ぎくらいを指していた。

彼は考える。そうだ、今日はあの子と会うんだった。
午後12時半くらいに、晴れ渡って眩しい日差しの中、公園で。

…………………………

(目を覚ました8月14日のベッドの上で、少女は猫を抱きしめる。
「また駄目だったよ」と一人涙を流して。)

…………………………

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カゲロウデイズ】「また駄目だったよ」【自己解釈小説】


自己解釈じゃなくてまんまな気がしますが…
(少年と少女のいる世界自体が実は0と1の世界で、少年と少女は誰かにずっと殺され続けている、だったらいいなーとか思ってます。だから毎回フォーマットです。少年が死ぬのを阻止しようとした何人もの少女が一回こっきりで延々と死んで行って、それを阻止しようとした少年も少女から見てそういう存在っていうループの仕方かなぁ)
本家様:http://www.nicovideo.jp/watch/sm15751190

閲覧数:482

投稿日:2012/01/27 05:12:11

文字数:1,047文字

カテゴリ:小説

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