――――――――――#2
「結局、鏡音は何が言いたいのだ?『初音ミクのように悪の全てを滅ぼす』のが望みか?」
神威の言葉に座が沈黙する。神威は顰め面で面々を見回す。
「氷山が『鏡音レンのリリックコードは危険だ』と言っていたが、実際はどうなんだ弱音准将」
亞北ネルが嘴を挟む。
「氷山に聞けばよかっただろ。あいつよく知ってるのに、なんで今ハクに聞くんだよ?」
「あいつの話は訳がわからん!精神が干渉する領域は精神の働く領域の間に干渉を伝える半物理的な緩衝領域がある、などと何回も繰り返して話が変わる!」
「おー、それは覚えたんだな」
「つまり、精神と物理現象の間に仲立ちがあって、それが歌だという事だろう?何故そんな簡単なことを難しく言うんだろうな、氷山の奴は何を考えているのか」
「氷山にしては親切な言い方をしよんな」
「そうだな。半物理的ってフレーズは頑張った方だな」
「どういう意味だ。私は物分りが悪いと言うことか?」
神威の言葉に座が沈黙する。神威は戸惑い気味に面々を見回す。
「なあハク先生、お前が氷山と会話してたら、どう返す?」
「歌唱と詩文による物理現象の創発が、」
「もういいよ先生。つまり『VOCALOID』が歌うと爆発する仕組はこうだって意味だよ」
「ひどい」
「要は、人間が言葉で頼めば仕事してくれる便利な素粒子を発見した、それを使ってるのが「VOCALOID」って事だよ」
「今更驚かぬな。ならば、そう言えばいいではないか。政府が軍と共謀して何か隠してるなどと陰口を叩かれる筋合いもあるまい」
「でも、それは嘘ですから」
「嘘?」
「そう、使い方の説明をする前の枕ならそれで十分だが、そんな素粒子はないんだ中将」
「せやな。真実は『半物理的な緩衝領域を発見して、その法則を人間で書き換えられるらしい』ってところやろ」
「……なん……だと?」
ネルは話が大きくなり過ぎて混乱しているがくぽに、止めを差した。
「な。そこまで聞くと鏡音の話なんかどうでも良くなりませんか。あいつは中将が聞きたい内容だけを説明しようとしていたと思いますよ」
神威は左手を口に当てて俯いている。
「……私が理解できないと思ったから、隠したのか、氷山は」
「氷山少将は市長に当選した私に祝辞を送ってくださいました。『真実を述べる人間は、確実に真実を突き止めていなければならない』、と。だから、氷山少将からは『分かりやすい例え話』はできなかったのでしょう」
「あー、あいつならありえる。自分だけは汚れ役やりたくないって魂胆透けて見えた今」
「ええ、『誰かがやりそうな話はいつか誰かが話してくれるのを信じなさい』とも、同じ祝辞にありました」
「やるじゃねえか氷山の奴」
自分の祝辞に切り返す芸当に軽く舌を巻く。ネルの中では、ハクの次にゴミクズなのがキヨテルである。つまりネルランキングでワースト3を争う宿敵がキヨテルなのだ。
「その祝辞覚えてるわ。氷山という人物はどんな奴かって、うちん所に問い合わせきまくったんやで?」
「確かに正気の沙汰ではないとは思いますが、信じろという言葉を氷山少将が使うのですから、真実味はありました」
「せやな。氷山が『信じろ』とか芝不可避やで」
神威が深刻な顔で考え込んでいる間に、兜煮の身はどんどん削られていった。策士いろはががくぽの取り皿を勝手に盛っているので目立たないが、他の連中は小刻みに結構な量を頂いている。今、神威の皿に乗っているのは良い部分を取るのに邪魔な『普通のマグロみたいな味』の部分だけである。
「つまり、今関係ない話はどんだけ高級品でもいらんねや。それより、焼けとるアラでも煮えてない肉よりは食えるっておもわへんか?」
その時、がくぽがハッと気付いた顔をした。
「なんや。『良い所』残しとっといてるやろうが」
「……かたじけないな」
流石のいろはさんである。誰かが気付いた時にはケリを付けている。氷山と会話が出きる人は格が違った。
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