少佐からの無線だ・・・・・・。
 少々タイミングが悪い気もするが。
 俺は背後で男を待たせたまま少佐との無線を繋いだ。
 少佐とヤミの声が、俺を出迎えた。
 『倉庫練が爆発しただと?』
 『少佐。こちらでも衛星で確認できたよ。見事に吹っ飛んでる。』
 「原因は分からないが、技術研究練手前に差し掛かったときに、突然火の手が迫ってきた。うまく技術研究練に逃げ込んだが。」
 『・・・・・・もしかしたら貴方の潜入がばれているかもよ。』
 突然ヤミが無線に割り込んだ。 
 ばれているだと・・・・・・。
 「どういう意味だ。」 
 『だから、貴方が倉庫練にいる所を見計らって、テロリストが爆発物を起爆させた可能性があるってこと。』 
 どうも信じがたい・・・・・・このヤミの言うことはどこか奇抜だ。
 「少佐。テロリストが施設に爆発物を仕掛けているという情報は?」
 『いや、ない。』
 「・・・・・・ヤミ。いくら奴等でも仲間を巻き込んでまでそんなことをすると思っているのか?」
 『あくまで可能性だよ。でも、そうでなければあんな大爆発は起こらない。これ以外では、倉庫内に可燃性の高いものが大量に保管してあって、偶然それに発火して、爆発に至ったという可能性よ。』
 「・・・・・・。」
 ヤミの説明に、俺は反論の言葉を失っていた。
 何故そこまで推測できるのか・・・・・・という疑問が、まず第一に。 
 そして、その説明に余りにも信憑性を感じたからだ。
 そのとき、ようやく俺は少佐に伝えるべきことを思い出した。
 「そうだ、少佐。ここに逃げ込んだときに、例の特殊部隊の隊員と遭遇した。」
 『そうか、では今後は彼との協力になるな。』
 「ああ・・・・・だが、この男どうも信用が置けない。色々と協力してくれるかもしれないが、会話してみてどうも怪しい部分がある。」
 『どうした?』
 「少し言葉を交わしてみてわかったんだが、軍の内情を知りすぎている。あのVRFTのことまで口にしていたんだ。まだ軍内部でも機密情報のあれをだ。」
 『あくまで政府直属の部隊だそうじゃないか。ならそれくらいの情報ぐらい知っていてもおかしくないんじゃないか?』
 「しかし・・・・・・。」
 『デル。お前はどうも人見知りだな。折角の協力者なんだぞ。それにそんなことを言っていられる場合じゃないだろう。』
 少佐の言うことも間違ってはいないが、それでも俺は背後の男のことを信用できずにいる。
 軍の機密を知っているという以前に、頭部全体を覆うマスクにスモーク加工が施されたゴーグルで完全に顔を隠しているのが不審に思えてならない。
 しかし、顔を見せろと言えばなんと言われるだろうか。
 「それと少佐、敵の銃を奪ってみたんだが、引き金が引けなかった。どういうことだ?」
 俺は少佐に第二の疑問を打ち明けた。
 『銃の故障じゃないのか?』
 「いや、そうには思えない。明らかにロックが掛かったように動かない。」
 『分かった。ではテロリストの武器についての情報が判明しだい、連絡する。』
 『デルさん。技術研究練に到着したようだから、PLGからそこの構造データを送信させるよ。』
 ヤミは相変わらず、冷淡な口調だ。
 「ああ。頼む。」
 『PLGです。レーダーに、構造データのダウンロードしています・・・・・・完了しました。』
 レーダーを見ると、この施設の形状が明確に図面で現れていた。
 『デル。今からはその隊員と協力して、技術研究所内部にいる人質、それと、可能であれば他の研究員も全て救出せよ。』
 「・・・・・・了解した。」
 少佐達との無線を終えると男の方に振り返った。
 男は腕組みをして俺の様子を伺っていたらしい。やはりこの男はナノマシン無線のことを知っているようだ。
 「今無線で仲間との連絡を取った。これからあんたと協力してこのエリアにいる人質達を救出しろとの命令だ。」
 「・・・・・・分かった。そうだ、お前装備は現地調達といっていたな。」
 「ああ。」
 すると男は大腿のホルスターから銀色に光る拳銃を取り出し、俺に差し出した。
 「さっきはすまなかった。これは挨拶がてらの気持ちだ。」
 「・・・・・・いいのか?」
 「いや、構わん。俺にはこいつがある。」
 男は自慢げに手にしているライフルを構えて見せた。
 「XM8か。」
 しかし・・・・・・何故日本の部隊がこんな銃を使用しているだろうか。
 とにかく、俺は差し出された拳銃を受け取り、まじまじと眺めた。
 その銃身は細く、そして軽く、通路の蛍光灯の光を反射し、銀色の輝きを放っている。
 今まで手にしてきたものと違い、その拳銃にはスライドがない。
 これは、まだ俺が資料でしか見たことの無い最新式のものだ。
 「この銃は・・・・・・。」
 「特殊9ミリ拳銃Ⅳ型だ。」
 そう、確かそういった名称だ。
 「従来のハンドガンとは全く異なる発射機構を用いた、日本独自の最新式ハンドガン。コストの関係でおそらく陸軍には採用されない特殊モデルだ。反動は小さくジャムも滅多に起こらないから、使い勝手がいい。マガジン装弾数は二十発だ。使い方は分かるな?」
 「ああ・・・。」
 この銃の操作法も、VR訓練で練習したことがある。
 あの時は、まだ今後登場する架空の銃という設定だった。
 しかしこの銃、見ているだけでかなりの高性能だと分かる。
 「フィンガーレスト付きグリップに、ナイトサイト、マズルにはサイレンサー用の溝、アンダーマウントレイルにはフラッシュライトとレーザーサイトモジュールか・・・・・・。」
 俺はその銃をレッグホルスターに納めた。
 「それと、一応こいつも取っておけ。」
 男が次に差し出したのは、一見銃とは思えないものだった。
 「ボルトガン?」
 そう、アーク放電によって相手を感電させ気絶させる、非殺傷兵器だ。
 もしかしたらアンドロイドにも効果があるかもしれない。
 しかし赤とオレンジ色という派手なカラーリングに、細いグリップと太い銃身は武器と言うよりも電動ドライバー辺りを髣髴とさせる。   
 俺は一応それも受け取り、スニーキングスーツのバックパックに収納した。
 「よし・・・・・・それじゃあ、これからどうするかだが・・・・・・。」
 「二人でこの施設内を調査しろとの命令だ。しかしこの施設内には既にあんたの仲間が潜入しているんだろう?」
 「そうだ。今この施設の地下一階と地下二階を調査しているようだが、未だに連絡が来ない。だから俺とお前とで一緒に行動するのは困難だと思うが。」
 男の言うことは最もだ。
 本来ならば、これは単独潜入任務だ。一緒に行動するものがいれば足手まといにもなりかねない。
 「なら、二手に分かれるのか?」 
 「その方がいい。俺は通信練に向かおうと思う。」
 「通信練?」
 「この技術研究練から通路があるんだ。そにに向かうにはここのキーカードが必要だが、お前は持っているのか?」
 キーカード・・・・・・そんな情報は耳にしてないが。
 「いや・・・無い・・・。」 
 「そうか、ではお前はキーカードが不要なこの技術研究練を捜索してくれ。」
 「・・・・・・分かった。」 
 肯いたものの、俺は男に上手く乗せられた気がしてどこか納得しきれない。
 だが、男の提案も悪くないように思える。
 「決まりだな。さぁ行くぞ。」
 俺は黙って男と共に通路の扉に歩み寄っていった。
 一瞬、先程破壊した戦闘用アンドロイドを見やったが、やはりアンドロイドは沈黙したままだ。
 俺と男は、内部に続く扉の両側に張り付き、男はアイコンタクトで開放の合図を送った。
 「・・・・・・?」
 そのとき、背後で何かのアラーム音が鳴り響いた。
 俺は思わずホルスターから拳銃を抜き、音のする方向へ突きつけた。
 見ると、その音は頭部を破壊されて完全に機能停止したはずのアンドロイドからであると分かった。
 「なんだ・・・・・・この音は・・・・・・。」
 その瞬間、施設内部にまで轟くけたたましい警報が鳴り響いた。
 『侵入者発見!侵入者発見!!応援部隊は直ちに信号発進地点へ向かえ!!』
 その音声と共に、レーダーに表示されていた施設の図形は一瞬でノイズに塗りつぶされていった。
 何が起こったのか、たった今、その全てを理解した。
 俺と男は、顔を見合わせた。
 言葉は出てこない。
 どういう訳か、自分でも不思議に感じるほど俺は落ち着いていた。
 再び男とアイコンタクトをとり、扉を開けるタイミングを見計らう。
 男は扉のノブに手をかけた。
 俺は拳銃のマガジン弾数を確認すると、グリップに戻し、親指の位置にあるコックボルトを押し込んだ。装弾完了だ。
 男が指で合図を送る。 
 3・・・2・・・1・・・。 
 次の瞬間、男が扉を蹴破り内部に突入すると、その先の空間では銃撃による歓迎が俺達を出迎えようとしていた。
 「準備はいいな?」
 「当然だ。」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

SUCCESSORs OF JIHAD 第十七話「アラートフェイズ」

テンポが悪すぎる・・・・・・しかもこの変な人と共闘かよ。
でも次から大分進むんじゃないかと思います。
そういや「あの人」が出てこないってどゆコト?


「特殊9ミリ拳銃Ⅳ型」【架空】
 防衛省や警察、そして軍の特殊部隊または工作部隊のために、各重機工業が協力して開発した国産のオートマチック拳銃。
 新機軸の技術で開発されたが、何より特徴的なのがその発射機構である。
 従来のオートマチック拳銃の「撃針が弾薬の雷管を叩き、発射と同時に発生するガス圧によってスライドが後退し、次弾を装填する」という発射プロセスを完全に廃し、独自の装弾、発射方式を用いている。
 マガジンをグリップ内に納める、というところまで従来と同じであるが、次に、他の銃ならばハンマーの位置にあるコックボルトを親指で押し込むことによってマガジンからチャンバーへ初弾が装填される。
 引き金を引くと同時にボルトに内蔵された撃針が弾薬の雷管に衝撃を与え、発射された時生じたガス圧によってボルトに内蔵されたピストンが後退、薬莢の排出と同時に次弾の装填が完了するという方式となっている。
 この方式の長所は、他のオートマチック拳銃におけるブローバックのプロセスが全て銃内部で行われるためスライド移動による重心変化が無く、反動も小さいため素早い照準、連射が可能となっている。
 スライドを引いてコッキングする必要は無く、親指で押し込むだけなので素早いリロードが可能である。
 この他にも高い精度を持ち、スライドが無いため剛性が高く不発や装弾不良も少ないという特徴を持つ。
 さらにマウントレイルを銃身上下に装備し、様々なオプションが装着できる。
 こうした高い性能と汎用性を併せ持つこの銃だが89式小銃と同じく国産故にかなり高額なので陸軍の一般部隊には配備されず、警察の特殊部隊、または防衛省内部の参謀局等に採用される予定である。

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投稿日:2010/01/16 01:00:20

文字数:3,713文字

カテゴリ:小説

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