7
ミクから別れて、その日一日は妹さん探しに精を出した。普段はあまり行かないサイトに足を伸ばし、ジウワサ キミカを探した。初めて行く場所にはボーカロイドもいくつかいて、そこで世間話になど花を咲かせながら妹探しの協力を依頼した。容姿や特徴を訊かれて困った場面もあったが、アタナとそっくりだということでアタナの特徴をそのまま言っておいた。
胸があって、髪が長い。そんで女性だ。
ボーカロイドたちは口を揃えて、それとなぜか苦笑いで「善処する」と言ってくれた。誰も絶対見つけるとは返事をくれなかったが、それも仕方ないだろう。本名で活動していないのだから。
今日話をしたボーカロイドの中には人間と関わりを持つボーカロイドもして「一応、マスターにも話してみるよ」とも言ってくれた。話してどうするのかと訊くと、「ブログとか、ツイッターとか、そういうので話題になるかも」
「んー。でも、あまり依頼者は自分が探してることを公にしたくないみたいだったからな」
「そうかい? まあ、それでも一応話しておく。万が一の確率でも、マスターとその妹が知り合いという可能性もありえるわけだし」
なるほど。その可能性もあるわけか。キミカが音楽活動をしているわけなら、こうやってボーカロイドを使って音楽活動をしている人となんらかの交流があってもおかしくない。俺は是非とお願いした。
できるだけ多くのサイトを回り、依頼し、アタナのパソコンの戻ったころはもう夜だった。いつもはとっくに帰っているはずだが、今日はまだ帰ってきていない。アタナの仕事がなにをしているか、俺は知らない。知られたくないのか、単に無職なのかわからないが、サイトに登録してある個人情報の『お仕事』はみんなバラバラだった。偏りもなく、ブログも日記も書いていないので判断材料がない。
俺が見るアタナの格好を見る限り、スーツを着ていたことはないが、だからと言って絞れるものでもない。
アタナが帰って来るまでまた電子の海をフラっとしていようかと考えたが、今日はもうパソコン内に留まることにした。ゴロンと寝転がり、帰宅を待つ。アタナのパソコンに詞や曲は極々少数しか残っていなかったが、それを熟読して時間を潰した。
しかし、俺も相当数の人に会ってきたが、まだまだだと改めて思う。アタナのパソコンの中に入っている作品を全て読んでも、その人となりが全くわからなかった。複数人で制作したのだろうか。ここまでばらけるのは見事と思うほど、一貫性がない。それも個性、と切り捨てるのは楽だが、少し、気持ち悪い。
結局、人の姿が見えたのは、俺が戻ってきてからさらに数時間経ったころだった。
「おかえりなさい」俺が声をかけると、「え?」という顔で固まる。まさかいるとは思ってなかったらしい。確かに、向こうからこちらを見ることはできないので、居るか居ないかの判断はできないのだ。
「今日は随分遅かったんですね。なにかあったんですか?」俺が訊くと、なぜか首を二回、縦に振った。質問の答えというよりは、なにか納得したような首肯だった。ようやく俺のことに気付いたのだろうか。
疲れたのか、ため息を吐きながら、ドカッと座る。そこに女性らしさは微塵もなく、仕草はまるで男性のようだった。人は疲れるとここまで変わるものなのだろうか。
「今日は、アタナさんが言っていたように多くのサイトを回って妹を探すように言って回りました。まだ収穫はありませんが、まだ3日目なので。ああ、あと、ちょっと話しておきたいことが」
俺はボーカロイドと関わりのある人間に協力を求めることを提案した。ネットと現実の二方向から探そうとしたわけだ。「もちろん、アナタさんの名前は出さないようにしますので」
「ああ、いや」
なぜか、気味の悪い笑みを浮かべている。
「はい?」
「それは撤回する。じゃんじゃん名前をだしてくれてかまわない」
「……でも、それじゃあ、妹さんにバレますよ?」
「事情が変わった」
それだけ言った。有無を言わさずの口調だったので、俺は素直に頷いておいた。実際のその方が探しやすい。だが、
「だったら、妹さんに直接きけばいいんじゃないですか? もう隠す必要はないんでしょう?」
返事は、なかった。
8
次の日、俺はアタナの名前もだして、妹探しを行った。マスターの協力も得られるよう、人と関わりがあるボーカロイドにも積極的に声をかけた。答えは「是」だった。それくらいなら、ということらしい。実際に探してもらうわけでもなく、名前を知っているか訊くだけの作業になるので、手間も少ない。
「今日は、もういいかな」
昨日より少し多くのサイトを回り協力を得られたあと、俺はまたアタナのパソコンに戻った。
「どうだった?」
俺が戻ったことを告げると、開口一番にそう聞いてくる。俺はまだ見つかってないことを告げ、だが協力者の数は確実に増えていることを話した。
「もっと協力者を増やすんだ」
「…………」
「もっとたくさんの、ボーカロイド、人間に話して協力者を増やすんだ。まだやめるな」
「…………まあ、言われた通りにはしますが」
――その鏡音レンは、奮闘する その3――
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