ミラーズ・アー・シェアリング・ザ・ペイン 第一話「十月の夜」

 十月の夜。半月の日。冷たい風が、壁にもたれる少女の金髪と紺のブレザーをなびかせる。少女は、暗い路地裏を見つめていた。
 少女の視線の先、金属音や打撃音が騒々しい暗闇に立つのは、彼女とよく似た金髪の少年。その周りには、体や顔に痣や傷を作った男達が転がっている。派手な服にシルバーやピアスで飾った、闇社会に生きる人間たちだ。
 一対複数の喧嘩である。リンチとでも言うのか。それも、一人に対する袋叩きではない。一人の少年が他の男たちを、一方的になぶっているのだ。
「野郎ッ…ぐあ!」
 リーダー格らしい男が起き上がろうとした。刹那、少年は男の右顔面を遠慮容赦なく、膝蹴りで蹴り飛ばす。男の口内から、多量の血が噴出した。
「っ強え…」
 男が呻いた。少年は、倒れた男の髪を掴み、立ち上がらせた。そのまま、壁に打ち付ける。
「痛っ。…何なんだ、オマエ」
 少年は何も言わない。ただ、凶悪に口元を歪めるだけだった。
 男を床に投げ、何度も踏みつける。
「ぐあっ、や、止めろ…うあぁ!」
 最後に一発蹴り飛ばされ、男は何も言わなくなった。
 少年は男達を見下ろした。
「クズども」
 少年が言い放った。声質は意外と高めだった。
「これが“世直し”だ。てめぇらクズに生きてる意味はねェ。命があることに感謝しな」
 少年が一方的に、だが淡々と言う。男たちに意識があるのか無いのかは関係ないようだった。
「この、鏡音レンにな」
 少年、レンは男たちから踵を返し、暗闇を歩き去った。

 レンは、表通りに出た。
 街灯が道を照らしている。そこに、金髪の少女―― 一部始終を見ていたレンの双子、リン ――が立っていた。
「レン」
 リンが呼んだ。レンは視線すら向けなかった。
 リンの前を通り過ぎようとした、そのとき、
「…待てよ」
 リンがレンの腕を掴んだ。レンは正面を向いたまま足を止めた。
 振り払おうとすれば、そうすることもできた。だが、そうしなかった。
 静寂を破ったのはレンだった。
「いつから居た」
「最初から。ずっと、ついて来た」
 リンが即座に答える。
 レンは表情一つ変えず、言う。
「危ねぇぞ。こんな所、お前はもう来るんじゃない」
「ふざけないで」
 レンを掴む力が強くなった。
「レン、お前、いつまでこんな下らないことするつもり?あたしは全部知ってんだよ」
 リンが淡々と言う。レンは、掴まれた腕に横目を向けた。
「痛ぇよ」
「目的を言って」
 リンの目つきが鋭くなった。
 レンは首を動かし、リンを見据えて、言った。
「決まってるだろ。“世直し”だよ」
 浮かんだ表情は、凶悪な笑みだった。

「世直しだ?ヤクザにケンカ売って廻ることが!?」
 リンがレンを突き放した。反動で後ろに下がると、顔がちょうど陰になり、見えなくなった。
「そうだ」
 レンが言う。
「あの連中はクソの掃き溜めみてぇなクズどもだ。野放しにしていたらどうなる?誰かが餌食になる。被害者になって傷つく。ここは、それが許されてる街、ルール。そんな世界なんだよ」
 語るレンの声は、悲しそうですらあった。
 レンは、転がっていたアルミ缶を足で転がり寄せた。
「それでいいのか?オレは考えた。どうすれば、弱い者を守れるのか?答えは簡単、やられる前に、人間のクズどもが潰れればいいんだよ」
 くしゃり。レンの足元でアルミ缶が潰れる音がした。
「甘えてはいけない。誰かが潰さなきゃいけない。力のある者が、神の裁きを下す」
 レンは右手を受け皿のように半月にかざし、空を掴み、言い放った。
「オレが、この街のルールに、…神になる」
 ズドン。リンが、鉄柱を殴りつけた。
「レン!ふざけるのもたいがいにしろ!!」
 空気ががびりびりと震えた。レンの表情は見えなかったが、驚いているようだった。
「よくそんなキレイごとが言える!神になるだって?違う。お前は、ただ悦に浸りたいだけだろうが!!お前のやっている事は理不尽な暴力、他でもない悪だ!!!」
 少年は凍りついた。
 再びの静寂。
「…リンなら、オレの気持ちわかってると思ったのに」
 レンは悲しそうだった。
「もう、オレの後つけたりするんじゃねぇ。次は、容赦しねえぞ」
「寝ぼけるな。遠慮しねえのは、あたしの方だ」
 レンは何も言い返さず、闇の中へ溶け込んでいった。
 街灯の下、リンはそんな少年の背中を見送った。
「…レン」
 遠慮しない、と言ったときのレンは、今にも泣き出しそうに見えた。

ライセンス

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小説 ミラーズ・アー・シェアリング・ザ・ペイン 第一話「十月の夜」

 うp主です。
 少しルカ小説を脱線しましたが、新シリーズを始めました。リンレンです。
 うp主的には、この小説は「より楽しく」を意識して書いていこうと思っています。それが小説としては一番なことなのかもしれませんね^^
 少年誌的なノリを意識していますので、そういう視点で楽しめるかと。
 
 ルカ小説にもモチーフはありますが、この小説にもモチーフはあります。これまた神曲をリスペクトさせていただきました。
 「悪ノ召使」です。
 ウソだ!と思ったでしょう^^
 今回は「勝手に解釈」ではなく「俺流アレンジ」ですので(何
 そこまでパクリパクリしてませんので、深い関係とかはナシですよ。期待しないようにw
 
 また話が長くww
 では、しばしのお付き合いよろしくお願いします。

閲覧数:553

投稿日:2009/07/13 21:31:00

文字数:1,888文字

カテゴリ:小説

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    ご意見・ご感想

    始めましてさざくろ。さん。FOX2です。

    なんだか凄いことになりそうな小説です。
    リンレン強いですね。カッコイイですね。この二人天下取りでもするつもりなんでしょうか。
    悪ノ召使のアレンジだそうですが、自分では下克上を連想しました。

    次回の更新楽しみにしています。

    2009/07/13 21:43:42

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