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結果を言ってしまうと鞄の中身に本人確認につながるものは何もでてこなかった。
中にあったものといえば劇中で出てくる小物、植栽、点在するキャラクターの人形。
人形はフランス式で言えばマリオネット。つまりは糸で吊るタイプのものが多い。
ただ、気がかりなことが一つ。
それは僕やMeちゃんが鞄を開ける前から知り得て、無くてはならないもの。
つまりはピエロの人形がその鞄には存在していなかったのだった。

「ピエロがいないのに『ピエロのお話』なんて・・・。一体どういう事なのかしら。」
「鞄の中には存在してないってだけでもっとよく探せばその辺に落ちてるかも。もしくは持ち主(仮)が持ち去ったかだけど。」

「さっき散策したって言ったでしょ?目ぼしい所にそんなものはなかった。それに持ち去ったんならさっきの雪に足跡が残ってなきゃおかしい訳だけど、それはミステリー的にトリックでなんとかしたんだとしても、どうしてそんなトリックを仕掛けたのかが謎よね。」

「ミステリー的にトリックで何とかって・・・・。」

それを言ってしまうと世にあるミステリー小説の大抵は「トリックでなんとか」で話が終わってしまうが、そこはMeちゃんらしいと言えばMeちゃんらしい。

・・・・・

しばらく考え込む2人。
「じゃぁ、こんなのはどうだ?」
と言葉を発したのは僕のほうだ。
なんせもう1時間もこの寒空だ。
そろそろ僕もお家に帰りたいのだ。

「あら、乗ってきたじゃない。推理タイムってわけ?」
水を得た魚の目をしたMeちゃん。
やる気になったのは確かだが、ベクトルが少々違う。
・・・とは感付かれないようにしなくてはならない。

「まぁ・・・うん。近い近い。」
押し寄せる彼女は若干いいにおいがした。
・・・・って、いやいや、そうじゃないだろ。落ち着け僕。

「えぇ・・・うぉほん。まず、爺さんが入れ替わった理由について。まぁ、まず前提として人間が蝋人形になるなんて事はありえないとして考えてみる。」
「まぁ、そうでしょうね。」

一々なんかトゲがあるんだよなと思いつつも僕は気を取り直す。
「もし、呼び込みをしていた時の爺さんと蝋人形。
この2つが存在していたとしたらどこかのタイミングでかならず入れ替わりが発生したことになる。
問題はいつ入れ替わったのか。どうやって入れ替わったのかが焦点だ。
動機は・・・状況から見て『壊れてしまったピエロの人形を直しに行きたかった。』ってところだろう。それなら消えてしまったピエロの説明もつく。
結局のところ、爺さんはプロ志向のエンターテイナーで自分のミスを見せたくなかった。
人形劇を見たいという僕らが近づいた段階で事実に気付いた。だからちょっとしたギミックを使って姿を消すことにしたんだ。
実際に入れ替わったのは僕が爺さんに触れる前の10分間。
知ってるか?蝋人形の蝋ってのは着色した蝋を型に流し込んで作るそうだよ。」

僕は得意げに考え出した結論を熱弁してみせる。
あくまでMeちゃんが納得することが重要なのだ。
この辺は嘘でも見栄を重視しなくてはならない。

「you君・・・まさか。」

驚いたように目を点にする彼女。
透かさず、僕は推察を続けた。

「そう。つまり雪の役割は1つじゃなかったって事。
蝋人形はその場で作られたんだよ。凝固も早い。
あとは僕らが話している隙に蝋人形と入れ替わり、湖の中に入って対岸まで泳ぎ切れば足跡も残らない。」

どうだ。と言わんばかりに彼女に推理ショーを見せつけると、僕は鼻高々に胸を張った。
問題は無い。よし、帰ろう!
そんな感じで話を切り出せば万事解決だ。
これで晴れてこたつでみかんが食べられるというものだろう。
「まさか・・・ここまで・・・。」
ぐうの音も出なそうな彼女。


「ここまで、馬鹿だったなんて。」
・・・・・。
・・・・あれ?
ジトっとした目で不貞腐れている彼女の姿がそこにはあった。

「あのね。ツッコミどころが多すぎて、反論する気にもなれないんですけど。まあ、最初の推理としてはこういうのがあってもいいかもしれないとおもって聞いていたけれど、それにしてもひどすぎるわ。」

失敬な。
見事な推理ショーだと自負していたつもりが、彼女の機嫌は芳しくない。
「まず第一に、質量保存の法則って知ってるわよね。蝋人形を作るには相当量の蝋が必要になるわ。どんなに少なく見積もっても20キロは必要になる。その蝋は一体どこにあったの?」
「・・・うっ。」
「第二に蝋を溶かすには70度以上の熱が必要になる。これはどう説明するつもり?私たちが近づくまでの数秒で20キロの蝋をどうやって一瞬で温めたの?」
「そ、それはほら、焼石を水の入った鍋に入れるとすぐ沸騰するだろ?同じ原理で、爆弾とか入れれば・・。」
「爆死しろ。」
「・・・ですよね。」
「第三に蝋人形の服。その服は?それも私たちが話している隙に着せた?人が人に服を着せるのって結構時間のかかるものなのに。しかも関節をまげられないのよ?その間見られないなんて保証もない。剰え、湖に入るなんて到底人の動きとは思えない。」
「・・・・あの、そろそろ・・・。」
「第四に池。壊れたとはいえ、大事な商売道具をもって寒中水泳ってどういうことよ。そこは1万歩譲っていいとしても、そもそも凍った池にどうっやって入んのよ!」
「勘弁してください。僕が間違ってました!」

どうやら、僕の推理は彼女の納得まで斜め四五度にかすりもしていないらしかった。
なんだよ。さっきはトリックで何とかなんて言ってたくせに。
トリック自体もやっぱり気になるんじゃないか。
確かに僕も正しいと思って出した推理ではなかったが、即興にしてはいい出来だとは思ってはいたのに。

いや、待てよ。
そこで僕は天才的な閃きが頭をよぎる。
僕としてはMeちゃんが納得さえできれば家に帰れるんだよな。
今までMeちゃんに納得させる解答を考えてきたけど、今思えばMeちゃん自身に納得した答えを言わせてしまったほうが早くないか?
それで早いところ僕が折れてしまえばそれでMeちゃんの中に納得した答えが残るじゃないか。
正直なところ、爺さんが入れ替わった理由だの気持ち悪い蝋人形だのどうだっていい。
うん、それがいい。そうしよう。
優柔不断と日々ののしられてきた僕だけど、結構決断力あるじゃないか。

「じゃぁMeちゃんは何か推理を立てられるのかよ?」
「あぁ?」
しまった。Meちゃんは禁句だった。
Meちゃんの目が見る見るうちにヤクザ漫画見たくなってるので、早々に言い直すことにした。
「・・・じゃぁ、名探偵の推理とやらを聞かせてもらおうか。」
あぁ、このセリフ。
結構犯人役がよくいうやつだよな。
とは思いつつも僕は彼女の解答をもとめることにした。

「それ、聞いちゃうんだ。ふーん。」
そんなMeちゃんの顔は僕を見透かしているようで少したじろぐ。
よもや、僕の思考回路を覗き込まれてる?いや、そんなはずはない。
計画はすでに走り出してしまっているんだ。
いまさら引くことはできない。
「ほ、ほら、名探偵。推理推理。」
「ま、いいけどね。」
なんだろう。今なんか諦められた気がしてならない。
だが、これでMeちゃんの推理が始まる。
あとは寛大な心でその推理に納得すれば、試合に負けて勝負に勝つことができるんだ。
がんばれ。
主に僕!

「まず、you君がお爺さんを殺したことを前提として考えてみます。」

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【小説】キミと僕と道化師と4

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投稿日:2018/05/08 22:26:01

文字数:3,088文字

カテゴリ:小説

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