研究資料、報告書、過去のデータ、観察記録、そして言葉…。それは私のこれ迄の考えを崩すには充分でした。

「これは…。」
「納得して貰えた?菖蒲博士。」
「ノアが治っている以上、信じるしか無いでしょう。以前の私なら疑いも
 しましたが。しかし8年間こんな事をずっと?」
「まぁ、そう言う事になるな。」
「笑い事では無いでしょう!侵蝕率92%!発狂するまでも無く本来なら痛みだけで
 とっくにショック死していてもおかしくない数値ですよ?!」
「幸いまだ生きてる。」

研究所に居た頃を否応無しに思い出しました。私の目の前で苦しんでいた人達、私が助けられなかった人達、何もしようとしなかった私、何も知ろうと思わなかった私。

「貴方は啓輔さんを助けてくれますか?リヌさんを…【TABOO】も【Yggdrasil】も
 【MEM】研究所も!!私が苦しめた人達を…その身を刻まれながら救ってくれると
 言うんですか!!」
「助けるよ。俺は誓ったんだ…あいつを泣かせたあの時に。どんな事をしても必ず
 救ってみせると。」
「どうして…。」
「好きだから、かな。」
「…貴方は強い人ですね。私は何も出来なかったのに。」
「ノアに色々聞いた。貴方が啓輔を助けてくれた。貴方があいつを守ってくれた。
 貴方が抑制剤で大勢を救った。貴方が冰音リヌを救った。」
「救った…?私が?」
「ありがとう…啓輔を…俺の大事な友達助けてくれて。それだけ言いたかった。」

真っ直ぐな瞳で彼は言いました。身を刻む痛みも、忘れられた苦しみも、私には到底想像出来ない程辛い物で、今まで幾度と無く絶望を味わっただろうに。本当に真っ直ぐ澄んだ瞳で。

「どうしてそんな瞳が出来るんですか…。」
「遅くなってごめんなさい…あ…えっと…。」
「スズミが居てくれるから。」
「え?え?私が何か…?」
「貴方もリヌの側に行ってあげて、大丈夫、彼女はきっと貴方の側に居てくれる。」
「…ですが…私は…!…化け物ですから…。」
「好きなんだろ?」
「――っ?!」

少し笑うと2人は部屋を出て行ってしまった。

「私が…リヌさんを好…き…?」

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BeastSyndrome -66.無力じゃないよ-

無自覚だったんかい

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投稿日:2010/06/22 11:50:05

文字数:895文字

カテゴリ:小説

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