晴れていたと思った空が暗く翳り始めた。ぽつり、ぽつりと地面が鳴り、にわかに雨が降り始めた。

「な、何をしてるんですか!啓輔さん!」
「着替えてんだよ、見れば判るだろ。」
「幾ら貴方がBSでも肋骨が折れてるんですよ?!出歩くなんて無茶です!まだ
 寝てないと…!」
「これ以上世話になる訳には行かない。憐梨も今はBSじゃないし敵襲にでもあったら
 危険過ぎる。」
「それは貴方も同じです!その身体でどう戦うつもりですか!」

俺を助けてくれた男、律は青い顔で押し止めた。だけど巻き込みたくないのと同時に、皆に、騎士に会いたい思いもあった。あいつの事だからきっとまた一人抱え込んでる。治療薬を作る為に無茶をしてる。下手な笑顔を作って…。

「啓輔…。」
「…判った…。ちゃんと休むから、憐梨までそんな顔するな。」
「…貴方にもしもの事があれば騎士様がどれだけ悲しむか…貴方も騎士様も、
 もう少し自分の身を労わって下さい。」

本気で心配してくれるんだろうか?傷のせいで熱があった数日間、2人はまるで母親の様に介抱してくれた。憐梨はともかくこの律って奴はどうして助けてくれたんだ?騎士様って呼んでたし、騎士に付いてくれているんだろうか?

「ああ、右手の包帯が緩んでますね、じっとして下さい。」
「…ぷっ!…クククク…!」
「な、何ですか…?」
「いや…ちょっとガキの頃怪我した事思い出した。全然大した怪我じゃないのに
 騎士が『大変だ~!』ってスッゲー大袈裟に包帯巻いて…それがまたガキだから
 ぐっしゃぐしゃで…。」
「それだけ大切だったんですよ、貴方の事が。」

普段はクールっぽくて、テキパキしてて冷静なのに、実はすっごく心配性で、母親みたいに甲斐甲斐しくて。ああ、そっか、誰かに似てると思った。

「お前騎士に似てるな。」
「え…?」
「あいつも俺が怪我したり風邪引いたりすると、真っ先に来てくれた。ま、ウチの
 両親は俺の事ほったらかしだったからな。」

急に色んな事を思い出した。ガキの頃からずっとずっと騎士は俺を助けてくれた。自分の事よりいつも俺を優先して、2人一緒に転んで怪我したのに俺の手当てしようとしたり。進路で悩んでたらわざわざ志望校変えてまで俺を応援してくれて、好きになった子すら…。

「…そうだよな…あいつ…電話出た時だってスッゲー心配してくれて…10年も
 経つってのに俺の事当然の様に…。」
「啓輔?」
「あいつを先に裏切ったのは俺の方なのに…あんな酷い事したのに…なのに…!」
「啓輔、啓輔泣かないで…傷に響いちゃうから…ね?泣かないで…泣かないで…。」
「…ぉして…どうしてあいつに『死ね』なんて言えたんだろう…。」

会いたいよ…会って謝りたい…お礼が言いたい…そして出来るならもう一度…親友に戻りたい…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

BeastSyndrome -81.啓輔-

泣かないで

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投稿日:2010/06/28 18:59:40

文字数:1,173文字

カテゴリ:小説

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