「いってきまーす!」
「いってらっしゃーい」
マスターはどたばたと支度して出勤していった。
いつもどおりの朝が過ぎた。ひと時の静かな時間が訪れる。
「きゃいとーしぇいとーおちゃがはいったれしゅ~」
ショコがティーセットの乗ったトレイをテーブルに置いた。
最近マスターから譲り受けたものだ。ショコが散々ねだっていたからなぁw
おかげでマスターを送り出した後はショコ主催のティータイムになっている。
「ありがとう、今日は何?」
「りんごのフレーバーティーれしゅ」
ショコはいい香りの漂う紅茶をカップに注ぎながら言った。
「美句は起きてたか?」
星疾はそう言ってカップを受け取る。
「まだねてるでしゅ」
「そっか、しばらくはのんびりお茶が楽しめそうだね」
僕も湯気の立ち上るカップを受け取った。


「星疾、何持ってるの?」
星疾は何かを書かれた紙を真剣に読んでいる。
「あぁ、これか?買い物メモだ」
「え?」
「マスターに買い物を頼まれたんだよ」
「な、なんだってー!!」
驚きすぎだって思われそうだけど僕らにとっては驚天動地ものだ。
信じられない。マスターの企みか何かなのか。
今まで外に出たことがない訳じゃないけど必ずマスターの目の届く範囲だったし。
しかも何で星疾だけ?
「めんどくせーな」
「しぇいとうれしそうれしゅ」
「べ、べつに嬉しくなんかないぞ。俺は乗り気じゃないんだから」
星疾・・・あせってツンデレ口調になっているよwww
「マスターはなぜ星疾に買い物なんか頼んだの?」
「よくわからんが俺と海疾はそれぞれ一人で外出できるようにしたいんだそうだ」
え、じゃあ僕も?・・・しかしマスターはやっぱり何か企んでるのか。
「みゅ~ぼくはまだダメなんらね・・・」
「しかたないよ。ショコは体格的に一人はやばいから」
「こりぇでもおおきくなったれしゅよ」
「それでもまだ小さいぞ。滑舌も悪い」
「みゅむ~」
ショコは落ち込んでしまった。その頭をぽんぽんと叩く
「今度僕が頼んであげるから」
「あい、ありがとれしゅ。おちゃのおかわりいりましゅ?」
「あ、うん、もらうね」
空になったカップを差し出す。ショコがおかわりをついでくれた。
湯気の立つカップに口をつけようとした、そのとき
「おーにいちゃあぁぁぁん!!!」
僕は気を抜いていたことに後悔した。
美句が抱きついてきたことも。その反動でカップが重力から逃げ出したことも。
そして、今まさに僕の頭上で重力につかまったカップが抵抗を試みて体をひねったことも。
全てがコマ送りのように・・・


美句の紹介はまだだったですね。
3月中頃からうちにいる初音ミクです。我が家名は空音美句(ソラネミク)
今でこそ完全に打ち解けているけれど、来たばかりの頃は大変でした。
その話は長くなるからまた今度にします。
美句がうちの中で一番アホの子になったのはたぶん僕のせいだろうなぁ・・・


現実逃避・・・なのかもしれない。飛んでいく思考を引きとめながら僕は思った。
どう考えたってこの後に起こることは最悪な事態だって分かるから。
今が無限のように感じる。それならば逃げ出せればいいものを。
逆さまになったカップから零れ落ちる液体を僕は取り留めのないことを考えながら見つめていた。

バッシャアァァ

「うあづつつつつ、あつあつあつ!!!」
見事に頭にクリーンヒット、熱いしぬー!
「きゃああああぁぁぁぁぁ!おにいちゃん!」
あぁ美句、マフラーで拭かないで。それ下ろし立て;;
「みきゅ!なんてことするんれしゅか!」
ショコがいきり立って言った。美句も負けじと言い返す。
「ショコ兄には関係ないでしょ!」
「かんけいなくないれしゅ!せっかくのおちゃのじかんをだいなしにされたんでしゅよ」
ショコ・・・紅茶じゃなくて僕の心配をしてほしいんだけど。
「ふん、男3人でティータイムなんて変、べーだ」
美句もすでに僕の事忘れてないか?
「ほらよ」
星疾がバスタオルと着替えを渡してくれた。
「早く着替えて来い。シミになるぞ」
「星疾・・・」
「なんだよ、当然のことをしただけだろ。そんな目で見るな」
はは、お湯ぶっかけられた上に関係ないところで口げんかされてナーバスになってみたいだ。
「着替えて来るから2人のことを頼むよ」
「あぁ」
段々とヒートアップしている2人の口げんかを横目で見やり、僕は脱衣所へと向かった。


戻ってくると、2人ともおとなしくなっていた。
「あれ?もう仲直りしたの」
「え、あ、うん」
「ぼくたち~なかよし~でしゅよ」
なんだろう、心なしか震えているような・・・
「じゃ、行ってくるな」
星疾は平然とした顔でエコバッグを手に玄関へ向かっていった。
「いってらっしゃい、アイス頼むね」
「へいへい」

「さて、星疾もいないことだし、今から何を・・・」
戻ってみると、そこには
「なんでミクの邪魔ばかりするのよーこのぉ!」
「ふん、じゃましてるのはみきゅのほうれしゅ!」
2人が物を投げ合ってめちゃくちゃになっている光景があった。
「・・・仲直りはどうしたんだよ」
「しぇいとがこわいからいちじきゅうせんしてただけでしゅ」
居なくなったから再開ってわけか。
「うわ~ん、お兄ちゃん、ショコ兄がいじめるよ~」
あ、美句抱きつかないで。
「みきゅのほうがいじめてるんでしゅ」
ショコも負けじとしがみついてくる。
うーん、とりあえず2人を仲直りさせないとなぁ。
そうでないと僕の身動きがw
「ほら、2人とも落ち着いて。何かして遊ぼう」
「でも~」
「みゅ~」
この場合先にどちらかを引き剥がすとまた喧嘩が再発する。
だから説得というか気を逸らせないといけない訳だが。
「ほら、マスターが作ったクッキーがまだあるから食べながら遊ぼ・・・」
「海疾お兄ちゃんは悪いのはミクじゃないって思うよね?」
「きゃいと、ぼくはわるくないれしゅ」
「あーえー」
どっちが悪いのかなんて言われても。
美句が抱きついてきたのはいつもの癖みたいな物だし、ショコがお茶の時間を大切にしてるのは知ってるし。
強いて言えば注意してなかった僕のせい?でも一番被害にあっているのは僕な気がするけど・・・
「まぁまぁ、2人とも悪くないよ。悪いのは僕だから」
こう言っておくのが無難かな。
『ちがう!』
2人はそろって全力否定した。
「お兄ちゃんは悪くないの!悪いのは頑固なショコ兄なの!」
「きゃいとはわりゅくないれしゅ!みきゅがわがままなのがわりゅいんれしゅ」
こんな時だけ揃って同じことを考えますか。その後に自分が悪いとか思わないで相手に押し付けますか、そうですか。
「はー・・・」
思わず溜め息がついて出た。この二人の喧嘩は日常茶飯事とまでは行かないまでも何度か起こしたことがある。
でもいつもはすぐ仲直りするのになぁ。そして気がつく。星疾か、今は星疾が居ないせいで仲直りしないのか。僕は一人で2人の面倒を見ていたと思っていた。でも星疾が陰ながらサポートしてくれていたのかもしれない。あいつは説得というか論破するのが上手いし。
あー星疾早く帰ってこないかなぁ・・・なんて弱音言っている場合じゃないか。一人でなんとかしなきゃ。

ガシャン

何かの割れる音を聞いて僕は我に帰った。
僕がボーっとしてる合間に美句とショコは投げあい合戦を再開していた。
そして音の正体はというと・・・
「ガラス製オルゴール」
マスターがとても大事にしていた物だった。ばれたら泣かれるどころじゃ済まないかも。
それなのに2人ともまったくおかまいなしで投げあいを続けている。
さらに物が壊れる前に早くやめさせないと。
「ストップ、ストップ、2人とももっと穏便な方法でやってくれないか?」
「穏便な方法って・・・?」
「これでもおんびんだとおもうれしゅよ」
どこが穏便なんだよ。
「ほら、話し合いとか」
「無理」
「むだでしゅ」
とりつくしまもない。何かいいものがないかとあたりを見回し、ちょうどいい物が目に入った。
「これならどうかな?」
僕は見つけたものを二人に示す。
「○iiリモコン」
「ゲームでしゅか」
「そう、これで勝負して負けた方が謝る。これなら分かりやすいだろ?」
2人は少しだけ考えるそぶりをみせたがすぐに了解してくれた。
「じゃあ何のゲームにするかは僕が決めるからね」
取り出したゲームはマ○オカート。これならすぐに勝負がつくはずだ。
「ミクがハンドルつかうー」
「ぼくがつかうれしゅ!」
予想通りハンドル争いがはじまった。僕はヒョイと取り上げる。
「はい、これは無しだよ」
以外にも文句は言われなかった。公平な勝負をした方がいいと考えたのだろう。
「ミクのスピードに敵うわけないわ」
「ふん、ぼくのほうがうまいれしゅ」
早速ゲームを始める。おとなしくなってくれてよかった。
今のうちにマスターのオルゴールをなんとかしなくては。
「ふぅ、どうしようかな」
もともと脆かったのだろうか、装飾部分は粉々になっている。オルゴール部分は残っているものの見るに耐えられる代物ではなくなっていた。
「しかたない、隠しておこう」
ガラス片をビニール袋に集めてタンスの奥に隠しておいた。
「これでよし。さて、2人ともどうなったかな?」
そっと2人の様子を見てみる。2人とも夢中になっていた。
なんだかんだ言っても仲がいいから心配するほどでも無かったかな。
キッチンからクッキーを持ち出して2人の間に座る。
ちょうどゴールしたとこだった。順位は・・・
「11位と12位か・・・ぷ」
下から一番と二番w大口叩いたわりになんというwww
「お兄ちゃん笑わないでよ」
「はじめてのステージだったからしかたないのれしゅ~」
どっちが上だったかは訊かないでおこう。というかこの順位で上も下も無いわけだが。
2人ともどっちが悪かったかは忘れているみたいだし、思い出させることもない。
「じゃあ今度は僕も入れてもらおうかな」
「お兄ちゃんには負けないんだから!」
「きゃいとはうまかったっけ?」
「星疾には勝てないけどマスターよりは上手いよ」
ショコが溜め息をついた。ゲームといえども勝負、負ける気は無い。
ステージを決め、スタートした。


しばらくして星疾が帰ってきた。
「ただいま。お前らゲームやってんのかよ」
「星疾兄さんおかえりなさーい」
「しぇいとおかえりー」
「・・・・・・・・」
「ほう、どうだ勝率は?」
通算25レース、結果は・・・僕の惨敗
「って何で、何で勝てないんだよー!」
「お前下手だしな。マスターに手加減されるくらい」
「やっぱりでしゅね」
え、やっぱりって?
「マスターはあれでもゲームは上手いぞ。弱い奴相手だと手加減しすぎてボロボロになるけどな」
ええ、マスターに手加減されていたって事?
「マスターにかってるってきいてまさかとはおもってたでしゅ」
「でも、お前たちだって最初は最下位だったじゃないか」
「あれね、通信対戦だったの。普通にやってもつまらないから」
「つよいひとばっかりだったでしゅよ。ステージもむずかしいのになったれしゅ」
だから初めてのステージだったのか。おかしいとは思ってたけど。
「じゃあお兄ちゃんの負けね。謝らなくていいから・・・う~んと、罰ゲーム!」
おい、忘れてたんじゃないのかよ。
「ミクねーお兄ちゃんに今歌ってる歌を一緒に歌ってもらうの♪」
まぁそれならかまわないけど
「ぼくもー」
「ショコは歌もらってないだろ」
「みゅ~じゃあしんさくハーブティのしいんしてもらうでしゅ」
ショコのハーブティ・・・調合間違えて死にかけたことあるんだが(汗
「受けてやれよ」
「わかったよ。でも明日だよ、マスター帰ってくるから」
『はーい』
美句もショコも嬉しそうだ。まぁ喧嘩されるよりマシだよね。
ふと見ると星疾が苦笑していた。
「星疾?」
「お前好かれてるよな」
「そうかな?」
好かれてるというよりバカにされてるような気がするけど
「にぶいところも長所かw」


「ただいまですよーあら、美句?」
「マスター、ミクのレッスン海疾お兄ちゃんも一緒にいい?」
「いいけど、どうしたの?」
「あのね・・・」
美句が今日あったことを説明する。マスターは真剣に聞いてあげていた。
「ふーん罰ゲームねぇ・・・私も挑戦していい?」
「いいですよ、ただし手加減無しですからね」
マスターに負けるなど信じられない。本当なら証明してもらおう。
「手加減無しね。した覚えないけど」
なんてことを言ってる。とりあえず簡単なステージにしてスタートした。
そして、僕は負けた。言われたとおりマスター上手すぎ。
「なんで今まで手加減してたんですか?」
「なんでって・・・う~んわかんない。無意識?」
無意識で手加減されてたってなんか屈辱。
「とにかく負けたんだし何でもしますよ、マスター」
「んじゃあ、はい、これ着て海疾」
マスターに衣装らしきものを渡された。
「なんですか?これ?」
「罰ゲームでしょ、今度それ着て歌ってもらうからw」
広げてみた。・・・ワンピースってこれは
「KAIKOの衣装じゃないですか!」
「うん、KAIKOだよ。着てみて」
うぅ、女装なんて;;マスターが一番罰ゲームっぽいですよ。
「じゃあ着替えてきますよ」
とほほ、この衣装いつ用意したんだろう。
「着替えてきましたよ。これでいいですか」
「似合ってるよ。よかった」
「わ~お兄ちゃんかわいい!」
「きゃいとほんとのおんなのこみたいれしゅ」
「ほう・・・」
皆それぞれ賛辞してくれる。でもなぁ・・・
「ふーん、大丈夫よもう一着あるから」
「何言ってんだよ!マスター」
マスターと星疾がなにやら訳のわからない会話をしている。もう脱いでもいいかなぁ。
「さて、夕食にしましょう。海疾も着替えてきて」
「やっと脱げる」
よかった、このまま解放されなかったらどうしようかと思った。
マスターはオルゴールが無い事に気がついてないみたいだし、気を逸らすことができたということにしておこう。


その日の夜中、僕は衝撃的なものを見てしまった。
薄暗い部屋の中で星疾がKAIKOの衣装をきてポーズをとっているところを。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

KAITOの種、観察記録テキスト版4

テーマは「ゲーム」だったはずなのに思いっきり横道にそれまくってしまいましたw
美句初登場回です。
KAITOの種に初音ミクを出すなんてもう何でもありなぐちゃぐちゃ状態ですね。なんかおもしろくもないし・・・

次回は特別編、人気種KAITOが登場する予定です。

種をくださった本家さま
http://piapro.jp/content/aa6z5yee9omge6m2

霜降り五葉さまの大人気種KAITO
http://piapro.jp/content/0mfsdg3gfb2xdrzi

閲覧数:185

投稿日:2009/06/20 10:47:51

文字数:5,842文字

カテゴリ:小説

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    霜降り五葉さま
    読んでくださってありがとうございます^^

    友人の前で読まれたって、えええ!
    こんな時に限ってだらだらと長くしちゃってすみません。

    いいんでしょうかね。賑やかというよりはただ単に騒がしいだけな気がしますよw
    ほのぼのと言われたの初めてかもしれないです。どつき漫才には今回ならなかったです。
    KAIKOの衣装は通販で型紙を買って夜なべして作ったんでしょうwww
    オルゴール・・・ばれたらやばいですね。いずれはばれそうですが。

    人気種KAITOはお楽しみにということで

    2009/06/23 01:14:11

  • 霜降り五葉

    霜降り五葉

    ご意見・ご感想

    友人の前で読むという拷問に堪えた自分GJwww

    なんかホント……いいなぁ………。
    賑やかでほのぼので和みます。
    それにしてもKAIKOの服を何処で手に入れたのか、謎です。
    そしてオルゴール…!大丈夫何ですかあれ。
    ばれたらきついですよ。

    ところで、人気種KAITOって…………。

    2009/06/20 17:44:36

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