その日の昼頃には、二度寝をしたせいか、まだ頭痛は残っているものの、動けないほどではなくなっていた。
めーちゃんには無茶をするなと怒られ、いつもは大人しくしているカイトも、今日に限ってはめーちゃんと一緒になって険しい表情をしていた。
正座で怒られるなんて体験は、久しぶりだ。
そう思ってつい笑ったら、笑っている場合ではないと、また怒られてしまった。




―Drop―
第十一話




「それはまぁ…お疲れさん」


隣に座った隼人が、苦笑しながらそう言う。
あれからもう数日たつ。
同窓会の分の埋め合わせのつもりで、隼人を誘って居酒屋に来たのだが…結局あの日の事を喋らされてしまった。
本当に昔からこいつには、隠し事はできない。
それとも、単に俺が解りやすい奴なのか?
…どちらでもいいか。


「後悔させたくない、か。悠のくせに、言うようになったな」

「なんでそんな上から目線なんだよ」

「いやー、大人になったなぁと思ってさ。あの初音ミクに告られて、迷わず断るとか…世の中の男どもが泣くぞ?」


茶化すような声に、俺は半分呆れて言葉を返した。


「そいつらはどうか知らんが、俺はどうせ恋をするなら本気でしたいから、相手が有名人だろうが誰だろうが、自分が中途半端なら断るぞ」

「悠…お前、そういう事を言ってるから婚期が遅れるんだろ。大丈夫か?」

「その俺に、女紹介してくれって頼んでる奴には言われたくないな」


絶対に紹介してやらないけどな。
別に、隼人の女癖が悪いわけではないし、8割は冗談だと知っている。
だが、もし俺が誰かを紹介して、そいつと隼人が付き合う事になったら、なんかムカつく。


「で?ミクちゃんとはどうなったんだよ」

「お前がうちのミクにちゃん付けするな。まぁ、そうだな、別に今までと変わらないけど」

「…冗談だよな?」

「いや、マジ」


もちろん、あの告白の直後は気まずかったが、その次の日になってから、ミクの方から俺に声をかけてきたのだ。


「よく考えたら、これでもう話せなくなるわけでもないし、自分のマスターだって事は変わらないんだから、これからも見守っている事にする。…だとさ」

「…それで、今まで通り?」

「俺の事を諦めたのか、諦めきれてないのかは解らんが、とりあえず今まで通り」


無理をしているんじゃないかとも思ったが、ミクは嘘を吐くのが下手だから、無理をしていればすぐに解る。
そんな様子はなかったし、仮に無理をしていたとしても、俺に向かって『そろそろ真剣に彼女の事、考えた方がいいと思いますよ』とは言えないだろう。
つまり、つい最近そう言われたのだ。


「最近、ミクのキャラが掴みきれないんだが…」

「うーん…確かに、よく解んないよなぁ…」

「あー、平気なフリしてるだけだったらどうしよう…」

「けど変に優しくしても逆に傷付けるだけじゃねえ?」

「隼人、お前恋愛小説の読みすぎだろ。…一理あるけど…!」


男2人で頭を抱えていると、ふと、店の戸が開くのが見えた。
何気なくそちらに目をやって、固まる。


「げ…」

「おい悠、どうし…って、美憂さんじゃん!」


隼人の声で、こちらに気付いたのか、美憂が寄ってくる。


「や、ぐうぜ~ん!隼人君は久しぶりだね~!元気そうで良かったよ~」

「お久しぶりっす」


声を交わす彼らに隠れて、俺はこっそり溜め息を吐いた。
美憂がいると、隼人がやけに調子付くから面倒なのだ。自然と自分のテンションが下がって、アホらしくなってくる。
しかも厄介な事に、今日の美憂は1人じゃなかった。


「…なんでハルちゃん先輩がここにいるんですか」


疲れたように…いや、実際、疲れているのだろう。
俺の隣に座った美憂の、さらに隣に腰を下ろして、アキラが気だるげな声をかけてきた。


「お前らこそ、なんでここに来たんだよ。バンドのメンバーで飲みに行ったんじゃなかったか?」

「今何時か解ってます?私は止めたんですけど、美憂先輩がどうしてもまだ飲みたいって言うから」

「え~、たまにはいいじゃ~ん」


そう言って、美憂はにへらっと笑う。
こいつ…完全に酔ってやがる。


「あーもう、解ったからこれ飲んどけ」

「む?…やだな~ハルちゃん、これ水じゃん!」

「…ちっ」

「まぁまぁ、舌打ちはしないでおけって、ハルちゃん…いでっ」


調子に乗った隼人に、拳で制裁を加える。
ハルちゃんという呼称は嫌いだ。それをこいつに言われるなんて…もっと嫌だ。
だが隼人も懲りない奴で、殴られた頭をさすりながらも、また目を上げた。


「で…そっちの人は?悠の知り合い?」

「え、ええ、まぁ…」

「アキラ、相手しなくていいぞ、こいつ馬鹿だから」

「うっわー、厳しいな悠は」

「あはは、まあ、当然かもね~」


美憂の言う通りだ、これは当然の事。
この馬鹿のペースに、アキラまで巻き込んでたまるか。


「ハルちゃんの彼女だもんね~」


そう、かの…彼女?!
危うくグラスを落としそうになったのはアキラも同じで、瞬時に固まった俺とは対照的に、さっと美憂さんに目を向けた。
だが何を言うべきかあれこれ考えているようで、結局、一番最初に口をきいたのは隼人だった。


「え、彼女って…嘘っすよね?!」

「やだな~、嘘だなんて人聞きの悪い。軽い冗談だよ~。あ、もしかして本気にした?」

「…ちょっとだけっすけど。でも美憂さん、世間ではそういう物を嘘というのでは…?」

「ん~、そうとも言うかな…ま、細かい事は気にしない、気にしない!」


少しは気にしてほしい。今ので結構寿命が縮んだ。
…いや待て、俺は何を考えている?
酔っ払いが吐いたくだらない冗談なのに、何も言えなくなって…俺は一体、どうしたというんだ?
俺の困惑をよそに、鼓動だけがうるさく響いていた。
それを懐かしい感覚だと感じたのは、気のせいなのか、そうじゃないのか…。
はっきりした答えはまだ解らないが、これだけはなんとなく解った。


あの日の雨は、やっと止んでくれそうだ。

…なんでだろうな。根拠もないのに。



fin.

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【自作マスターで】―Drop― 最終話【捏造注意】

わっふー!
どうも、桜宮です。

最終話です。
なんか…後半ごめんなさい。
ちょっとね、我慢できなくなったのです。
アキラさん大好きです。はい。

あと37℃の雨ですが…モチーフにしてたつもりが、なんだか脱線してしまった気がします…(滝汗
すみません猫背Pさん!でも大好きです!←


さて、次回の予定をば…。
あの…ですね。
案があるにはあるんですけど、設定とか展開とか色々ぶっ飛んでるので…しかもまたErrorシリーズで…。
なんで思いついたんだろうと思ってます。
…まぁ…今回がすごくシリアスだったので、これくらいお馬鹿な文を書いても、いい、かな…?
また考えときます。


では、素敵な曲を作られた猫背Pさん、今回もキャラクターの使用を快諾して下さったつんばるさん。
そしてここまで読んで下さった皆様。
ありがとうございました!


今回のシリーズでモチーフとさせていただいた曲は、こちらです。
→『37℃の雨』
http://www.nicovideo.jp/watch/sm4103304


このシリーズのゲストキャラ、東雲晶さんの生みの親、つんばるさんのページはこちらです。
http://piapro.jp/thmbal

閲覧数:292

投稿日:2009/08/26 20:40:51

文字数:2,558文字

カテゴリ:小説

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  • 桜宮 小春

    桜宮 小春

    ご意見・ご感想

    つんばるさん>
    こちらこそ、前回に引き続きアキラさんを出演させて下さってありがとうございました!
    また機会があったらよろしくお願いします!

    おやばかでいいじゃないですか!
    私だって、本当はもうちょっと曲の雰囲気に合わせて落ち込ませようかとも思ってましたけど、無理でしたから。
    救い成分多めなのは、多分そのせいかと←
    悠に対して優しくなれてるのかはわかりませんけど、愛はあります(こいつもおやばかか)!!!

    雰囲気が出てましたか? よかった……。
    いつも以上に不安だったので、嬉しいです^^

    ブクマありがとうございます!
    読んで下さってありがとうございました!
    期待ですか……が、頑張ります(笑

    2009/08/27 21:50:32

  • つんばる

    つんばる

    ご意見・ご感想

    完結おめでとうございますー!

    まずは、うちの子登場させてくれてありがとうございましたー!
    ハルちゃん先輩セツナス、と思いながら読んでたのですが、ちょっとうちの子出てくるとこで
    によっとしてしまいました! おやばかですみません(笑
    37℃の雨の雰囲気も、よく出ていたと思います、原曲より救い成分が多めな感じがしますが、
    そこはあれですよね、桜宮さんのハルちゃん先輩への優しさ!

    ……あ、いまさらですが、シリーズ通してブクマいただきました!
    それでは、素敵なお話ありがとうございましたー! 次回作……期待してます(笑

    2009/08/27 14:08:54

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