五月十二日
その日もいつもと変わらぬ退屈な朝を迎えるはずだった……はずだったのだ。ソレが俺の目の前に現れるまでは…………。ソレは俺をまじまじと見つめていた。まるで品定めでもするようにして……。
そして、ソレはゆっくりと口を開く。
「貴方の寿命はあと半年です。半年間、もがき苦しむか、今ここでその生を終えるか。貴方が選択してください。」
もちろん、質の悪い嫌がらせか何かかと思っていた。けれど、鋭利な刃を持つ何か。例えば…………そう、普段の生活でみる雑草などを刈る鎌よりも何倍をも。何十倍をも大きく鋭い…………少しでもその刃に触れようものなら容易く切れてしまうであろう程のものを首に突きつけられている。俗に言うと脅迫ってやつだ。怖ぇなぁ。
「お…………おーけー、わかった。あんた、名前は? 種族は……死神か」
そう俺が言うとソレは暫し沈黙し、口を開いた。
「いえ、私は死神などではありません。私は天使です。…………間違えました。ちょ〜ぷりてぃ〜えんじぇるでした。名前? ナマエ…………あ〜天使です。」
と、天使を名乗るソレは俺の首元に鎌を突きつけたまま。天使らしい笑顔も、悪魔らしい微笑みもない。無表情なままで、俺を見つめている。その瞳には何も映らない。そして、俺の頭もそろそろオーバーヒートしそうだ。死神っぽい行動をしておきながら、天使を名乗るソレが目の前に居るんだぜ…………。頭の一つや二つ、可笑しくなるぜ
「はぁ…………なら、さ。なんで、俺に鎌を突きつけてんの? 天使だったら、天使らしく寿命とか、延ばしてくれよ…………」
そう言った俺に自称天使はあまりにも酷い言葉を吐いた。
「はい? 何を言ってるのですか? 今後、貴方が苦しむことを私は知ってます。苦しむことなく今、この場で終わらせるって言ってますの…………。すっごく天使らしいでしょう?」
絶句。もうこの言葉以上に似合う言葉はないと思える程に今の俺にとっては酷い言葉だったのだ。
これが、俺と天使の物語の始まり。そして、半年で終わる短い物語の幕開け。
あまりにも悲しい出逢いだ。
ん? 選択? あぁ、もちろん………………ーーーーーを選んださ。
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