1-3.
私が通っている塾は、最寄り駅から少しだけ離れている。
駅から塾まで徒歩でだいたい十五分。行きも帰りも、いつも独りだ。
暗い夜道を、女子高生が独りだなんて、危ないことくらい私にだってわかる。でも、パパとママの塾の基準は塾生の志望校合格率、ただそれだけだった。「危ないから気をつけて」の一言すらない。そんなこと、二人は思い付きすらしないんだろう。
「なぁなぁ、その制服、神崚でしょ? ちょっとさー、オレらと一緒に遊ばねー? たのしートコがあんだよ」
だから、塾の帰り道にそんな風に声をかけられることになったのも、ある意味では必然だったのかもしれない。
「なぁおい、無視すんなって」
二回目か三回目にそう言われて、その言葉が自分に向けられたものだったのだと、私はやっと気付いた。
私が振り返ると、そこには二人組の男がニヤニヤしながら立っていた。一人は五分刈りの金髪で、シルバーアクセサリーのたぐいをゴテゴテとつけている。もう一人はスーツだったけれど、どちらかといえば会社員というよりもホストみたいな人だった。
「私……ですか?」
少し距離をとって、警戒するようにそう訊くと、金髪の男のほうがニヤリと笑った。
「そーそー。あんだよ、聞こえてんじゃん。オレらと一緒に遊ぼって言ってんの」
そう言いながら、なれなれしく伸ばされてくる男の手が届かないように、私はもう一歩後ろに下がった。
「あの、結構ですから」
金髪の男は、そう言われることがわかっていたかのように、言葉を重ねてくる。
「まーまー、そんなつれないこと言わずにさ。ほら、毎日勉強ばっかりで疲れてるでしょ? オレらが気持ちいいことしてあげるよ」
いくら男性経験が無くたって、その言葉の意味するところくらい、私にもわかる。でも、本当にそういうつもりなら、こんなひと気の無いところで、私みたいな人を誘うだろうか?
「本当に、結構です」
そう告げて、走って逃げようかと思った。けれど、できなかった。彼らは二人組では無かったのだ。
「まぁまぁ、そんなこと言わずに楽しもうよ、な?」
いつの間にやってきていたのか、三人目の男が背後から私の肩をつかんで、脅すように、底冷えのする声音でそう言った。私の後ろにいるせいで姿はわからないけれど、その両手はかなりがっしりとしていて、つかまれた肩がすごく痛かった。
その三人組は、私にいったいなにをするつもりなのか。
考えるまでも無い。
彼らは私の意思なんか関係無く「そういうこと」をするつもりなのだ。
「や、めて……下さ、い」
そんな私の懇願など、聞き入れてくれるわけがなかった。
口をふさがれ、近くに停めていたらしい車に連れていかれそうになる間、私は恐怖で抵抗らしい抵抗すらできなかった。
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