今日も、いいお天気。
友達のさっちゃんとお買いものに来た、ショップの中で思った。
「ねむこー、ねむ…大丈夫?」
だいじょうぶ。わたしの眠気は最大で5段階の変身を残している。
「らいじょーう。わたぁ…5だんかい」
「あと10段階もダメになるのかぁ…」
なかなかに失礼なことを言われてしまった。その言い方だと、今もダメみたいじゃない。
そう思いながら『5』を表現するために突き出した手を見た。
――突き出していたのは両手だった。これは10段階ある。
「とりあえず、ここでは寝ちゃダメだからね? 戦意を喪失した戦士みたいに膝から崩れ落ちたら、写メ撮るからね?」
それは嫌だ。以前さっちゃんに送られたメール添付画像を思い出して、わたしは目を見開いた。
「『目を見開いた』と思ってるかもしれないけど、完全に半目だったね。怖いよソレ」
的確なツッコミが痛い。
――二人とも特に、欲しいものは無かった。結果的にはウィンドウショッピングになったのである。
「クレープ食べたい。食べよう」
キリッとした表情で、完全に目が覚めたわたし。言葉もどことなく凛々しくてグッド。
「口が片端だけつり上がってるけど、クレープを使って何を企んでるのかな」
うわあああ外見バッド。すっごくバッド。
「いちごクレープおねがいします」
わたしの注文を聞いた店員さんが、笑顔でこちらを見る。
タイムラグ3秒。
「クレープ屋さんはあちらです」
言い切った店員さんの顔は、明らかにドヤ顔だった。
「もー、ねむねむしながら注文しに行っちゃだめでしょー」
ベンチでうつらうつらと舟をこぐわたしに、さっちゃんが少し怒ったような表情で言う。ごめんなさい。
「ご、ごめんなはい…」
彼女の両手にはクレープ。わたしの分まで買ってきてくれたみたい。
「……まったくもう、変な人についていかないようにね」
しょうがないなあ、といった表情でクレープをくれる。
「きをつけます!」
と言うものの、もうクレープしか目に入ってないんだ。ごめんねさっちゃん。
「ねむこ、クレープとかケーキとか食べる時は目をちゃんと開くんだよね…」
美味しい…このまろやかな生クリームと甘酸っぱいイチゴが、お互いを助け合って生まれるハーモニー…まさに極上…
「聞いてないかなー。まあいっか…そうやって起きてる時はどこから見ても可愛い子なのになぁ」
クレープ万歳!
「……」
パシャッ
「んむ?」
カメラのシャッター音が聞こえたような気が…。
気のせいかな。
「まったく…ほら、ここにクリーム付いてる」
唇の端っこを、さっちゃんの細い指が拭っていく。
「むう」
ありがたいけど、ちょっと恥ずかしい。
「あ、いちごクリームの味」
なぜ舐めた。
甘いものタイムが終わり、またショップをぶらつく私たち。
こののんびりとした空気に、わたしは再び眠気を覚えてしまう。
いつからだろう。
わたしが『ねむこ』と呼ばれるようになったのは。
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