風が吹いた。春らしい柔らかな風だった。桜の花びらがチラチラと舞って地面の上でダンスを踊っている。私はそれを横目に見ながらまだ慣れないスーツで桜並木をぎこちなく歩いている。
この桜並木は駅へと向かう途中にあり、高校、大学と何年も通い慣れた道だった。花びらのダンスももちろん数えるほど見たし、その間を通り抜けて遊んだりもした。だけど、さっき吹いた風はどこかいつもと違う感じがした。いつも吹く少し寒さの残る冷たい風とは違った。暖かく温い優しげな風だった。そんな気がする。花びらのダンスは私を祝福してくれているんだ。社会人となり、新しいステップを一つ駆け上がった私を。自分が毎日何年も見届けきた一人の人間が新しい道を歩いていく晴れ舞台を最高の演出で応援してくれている。ぎこちなく緊張で張り詰めた体を桜は地面から感じ取り私の緊張を解してくれている。
風が吹いた。暖かい空気を含んだ風だった。不意に声が聞こえた気がした
「いってらっしゃい」
花びらは相変わらず地面でダンスを踊っている。物言わずそこでクルクルと舞っている。私はそれに応えるようにダンスを踊る花びらの間を通り抜けた。
「行ってきます」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

花びらとダンスを踊れば

作詞用のストーリー

風という単語を取り入れつつ主人公は新社会人でかつノスタルジックにならないように書いたものです。

花びらを桜にするか迷い中です。

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投稿日:2020/12/12 19:50:05

文字数:494文字

カテゴリ:小説

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