アイ・ストーリー
第二話「以心伝心」 続きの続き

 さて、朝になりました。
 僕とレンはめーちゃん達に置き手紙を残して夏瑠さんの学校に
行こうとしていました。
「レン、みんなを起こすといけないから、そーっとね。」
「う、うん。」
「……KAITO兄さん。」
「ひぇっ!?」
「あ、兄貴っ!しぃ~~~……!」
 僕は後ろから突然ルカに声をかけられて飛び上がった。
「す、すみません。そんなに驚くとは……。」
「ル……ルカ?どうしたの、こんな朝早く……。」
「……昨日の夜……。兄さんとレンの会話を聞いてしまって……。
あの、その……わ、私も一緒に行っても、いいですか……?」
 ルカが珍しく必死だ。何で一緒に行きたいのか理由を
聞きたい所だけど……。
「レン、どうする?僕はいいんだけど……。」
「俺もいいよ。ルカ姉も行こうよ!」
「あ……ありがとう。」
 夏瑠さんの学校へは、僕とレンとルカの三人で行く事になった。

 そして、僕達はレンの案内で二時間近く電車に乗って
夏瑠さんの学校に着いた。夏瑠さんはほぼ毎日こんな長い
時間をかけて学校に通っているんですね。大変だなぁ……。
 夏瑠さんの学校は名門校というだけあって、すごく広い。
「……レン。夏瑠さんが何処に居るか、分かる?」
「う~ん……。俺、前に一回来ただけだからなぁ……。
詳しい間取りとかまでは分かんない。ごめん、兄貴。」
「そっか……。どうしようか……。誰か他に
知ってる人とか居ないかな?」
「う~ん……。」
「……困りましたね……。」
 僕達は、ただ立ち尽くしているしかなかった。
 あぁ、どうしよう。この中じゃ僕が一番上なのに……。
何も出来ないなんて……。情けないなぁ……。
「……ん?ルカ?ルカじゃない!
どうしたの、こんな所で!」
「え?……あ、桃香(とうか)さん……?」
「あら、KAITO君にレン君まで!わぁ、久しぶり!
みんな元気だった?」
 僕達に声をかけて来た女性。この人の名前は
藤崎桃香(ふじさき とうか)さん。彼女は奏さんと同じ
研究所に勤める研究員の一人です。
「桃香さん、お久しぶりです。」
「桃香、久しぶり!数ヶ月見ない間にまた
化粧が濃くなったんじゃないか?」
「んなっ!?言ったわねぇ~!この、チビレン!」
「うわぁっ!?痛い痛いっ!チビって言うなぁ~!」
 レンは桃香さんに頭をぐりぐりと撫で回されている。

「……ちょっと~!桃香~!何処行ったの~!?」
「あ、いけない。テト~!こっち、こっち~!」
 僕達の方向へ近づいてきた女の子。彼女の名前はテト。
僕達VOCALOIDの歌のサポートをする事を目的として製作された
UTAU(ウタウ)と呼ばれるアンドロイド。呼び名は違うけど
僕達と同じで感情とかもちゃんとあります。ちなみに
桃香さんはUTAU専門の研究を行っています。
「もう~、桃香はすぐどっか行っちゃうんだから~。
探すこっちの身にもなってよぅ……。」
「あはは、ごめんね。」
「やぁ、テト。久しぶりだね。」
「えっ?あ~!KAITOだ!ルカも!久しぶりぃ~!」
 テトは笑顔で挨拶してくれた。
「……俺も居るんだけど。」
「あらぁ~?そこに居たの~?チビだから気がつかなかったわ。」
「なっ……!!どいつもこいつも……チビって言うな~!!」
 あぁ……。そうだった、レンとテトは顔を合わせると
いつもこんな感じになってしまうんだった。
「所で……珍しいスリーショットね。何かあったの?」
「あ……えっと。僕達、夏瑠さんに会いに来たんですけど……。」
「夏瑠君に?夏瑠君なら、講堂で今度行われる演奏会の
練習をしてるわよ。」
「え、本当ですか?桃香さん、詳しいですね。」
「そりゃあ。一応この学校のOBだし、今もたまにこうして
後輩達に教えに来てくれって頼まれてるからね。」
「えぇっ!?そうだったんですか!?初耳ですよ!?」
「私も……。」
「当たり前じゃない。研究所に勤めてからほとんど
誰にも言った事無いもの。聞かれなかったし。」
「そ……そうですか。」
 う~ん……相変わらずだなぁ、桃香さん。研究所に勤めている人は
何で頭はいいけど変わった性格の持ち主が多いんだろう……。
「あ!桃香!その講堂で練習してる生徒達が桃香の事、探してたよ!」
「え、そうなの?じゃあ、みんなも一緒に行きましょう。
講堂に案内するわ。」
「ありがとうございます、桃香さん。」

 僕達は桃香さんとテトに案内されて講堂に着いた。
「あっ!藤崎先輩!何処行ってたんですか、もう~!」
「そうですよ、みんな先輩のアドバイス待ちなんですよ!」
「あはは~、ごめんなさいね。」
 何て言うか……すごい人望だ。やっぱり、桃香さんって
凄いんだなぁ~……変わってるけど。
「……えっ?レン!?何してるの!?」
 桃香さんの周りに集まった生徒の中に、夏瑠さんが居た。
「あ、夏瑠!」
「何でレンが……えっ?KAITOさん!?ルカさん!?
いったい、どうして……!?」
 夏瑠さんはすごく混乱してるみたい。
「ん?早乙女、その三人……誰?」
「あっ!もしかして、早乙女君のVOCALOID!?」
「えっ!!本当!?うわぁ、かっこいい!美人!
こっちの男の子は可愛い~!!」
 ど、どうしよう。あっというまに囲まれてしまった……。
「はいはい!みんな!休憩は終わりっ!練習に戻る!」
 桃香さんが急に真剣な声になった。それを聞いた生徒達は
素早く練習を再開した。な、何か凄い……。
「……みんな、今のうちに。夏瑠君に用があるんでしょ?」
「あ……はい!すみません、桃香さん。」
 桃香さんのおかげで助かった。
「え?え?何が何だか……。」
「いいから!夏瑠、ちょっと来い!」
 レンがまだ混乱している夏瑠さんをズルズル引っ張って行った。
僕とルカもその後に続いた。

 僕達は校舎の中庭へ移動した。本当に広いなぁ、この学校。
「レ、レン……。どうしたの?突然、学校に来るなんて……。」
「……リンの事、なんだけど。」
「あ……まさか、まだ部屋に……?」
「うん……。今、マスターと美冬が説得してくれてる。」
「え、美冬ちゃんまで?そんな大事になってるの!?」
「あー……まぁ。」
「……そうなんだ……。ごめんなさい、KAITOさん。ルカさんも。
元はと言えば、僕がリン達と新曲を歌う練習の約束を
破ったから……。」
「だから、夏瑠は悪くないって!リンが駄々をこねてるだけだって!」
「…………。」
「そ、そうですよ。演奏会の練習だって、夏瑠さんにとって
大切な事でしょう?今回はたまたまタイミングが悪かっただけで……。」
「でも……。僕は、リンを傷つけてしまいました……。
僕はリンのマスターじゃないけど、だからと言って
約束を破っていい理由にはならないと思うんです!」

 夏瑠さんの瞳は真剣だった。夏瑠さんは本当にリンの事を
心配してくれている。
 『VOCALOIDはマスターの為だけに存在する』とか
そんな当たり前の事が霞んでしまっている。これって……。

「…………。」

 僕達は、何も言えなくなった。いや、分からなくなった。
VOCALOIDとマスターに『絆』が存在するのは、普通。
 でも、マスター以外の人とは?VOCALOIDが歌を歌うのは
本当にマスターの為だけなのだろうか……?


 おまえ達は人間と同じように、何かを見たり聞いたりして
 学んでいく力を持っている。
 その経験が『表現力』となって
 はじめて人々の心に響く歌声を届ける事が出来る。

 それが『VOCALOID』だ……。


 奏さんの言葉が何故か思い浮かぶ。
 人々の心に響く歌声を届ける事……
 それが……『VOCALOID』……

 ……あ……そう……か……

 何だろう、何か分かった気がした。
 僕は奏さんの言葉の意味を少し勘違いしていた。

 確かに、VOCALOIDにとってマスターは絶対の存在。
 でも、それと誰かを大切に思う気持ちとは別なんだ。
 マスターの為だけに歌うのがVOCALOIDの存在価値じゃない。

 『大切な人』の為に『存在』するのが……
 ……『VOCALOID』……


「リンに……伝えなきゃ。」
「……兄貴?どうしたの?」
「……ごめん!みんな!僕、先に帰る!」
「えっ!?ちょっ……兄貴!?」

 僕は自然と駆け出していた。早くリンに伝えたい事があったから。

 僕が千夏さんの家の前まで来ると、ちょうどマスターが居た。
「あ……!KAITO!」
 マスターは僕の姿をみつけると、慌てた様子で駆け寄って来た。

「マスター……?どうかしたんですか?」

「リンちゃんが……リンちゃんが、居なくなったの!!」

「……えっ……!?」

……続く。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

アイ・ストーリー 第二話の続きの続き

第二話の続きの続きです。
まさかのテト登場。UTAUの設定も超個人的。

何て言うか……どんどん長文になってしまって
まだ続くんですよ……。
後半はもう自分でも訳が分からずで
失敗した感が……すごくある。

追記:第一話本編・番外編→完成。
   第二話本編・番外編→完成。
   Lied→一応、完成。

閲覧数:231

投稿日:2009/04/07 04:19:35

文字数:3,635文字

カテゴリ:小説

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