-爆弾-
教会の玄関で靴についた泥を落とし、両手に抱えたビニール袋を一旦下ろすと、辺りを見回した。
「カイコ――?買ってきた物ってどこに置けばいいんだ?」
呼びかけても返事がない。仕方なく、メイトは荷物をリビングのテーブルの上に置き、カイコを探し始めた。毎回、毎回、買い物に行くのはカイコの方で、メイトは買い物になどあまり行かないものだから、どこにもって行けばいいのか、よくわからないのだ。
とりあえずはリビングを一度見てまわり、キッチンとバスルームを確認してから、メイトは首をかしげた。一体どこに行ったのだろう。
そうかんがえてから、部屋を見ていなかったな、と思い、カイコの部屋へと歩いていく。
「…カイコ?」
何度かノックをしてみたが、返事はない。ダメもとでドアノブをまわすと、「ガチャッ」と音が鳴り、ドアが開いた。中を覗き込むと、カイコはいないようだった。中に勝手に入るのは少し気が引けたが、いつもはカイコの方がメイトの部屋に押し入ってくるほうなのだから、別にかまわないだろうと思い、そっと中に入った。
部屋の真ん中にある四角のテーブルには、雑誌程度の厚さの本が置かれていた。
「…暇ぁ――!」
ベッドから頭をだらんとたらし、リンは言った。そちらを睨みつけ、レンが聞く。
「…で?」
「何か無いの?」
「しらん」
「ケーチー」
「ケチな奴に頼むな」
そういってレンは本棚からめぼしい本を取り出すと、ぱらぱらとめくりだした。それを見たリンもベッドから降りてきて興味深げに本を覗き込むと、その本はボカリア教について書かれた本だった。
ボカリア教の教えでは、
『人は醜い心を持ち、自然の摂理に背くもの。動物は自然の摂理を変えるもの。植物は自然の摂理を作り出すもの。人間がいる限り、自然はなく、混沌のままに世界は堕ちる。人間は動物を敬い、従うべきである。人間は道を踏み外し、動物を壊す、不届きものである。そんな人間は全て抹消すべきである。』
と、いうものらしい。
随分と物騒な宗教だな、などと思いながら、レンはページをめくった。
『この教えに反するものは何者であろうと神より天罰が下る。この教えを信じるものは神のかわりとなり、罪人に罰をかせることができる。神の代行として世界を掃除する権利を得る』
この記述には、二人は言葉を失った。
これが、まともな人間の考えることだろうか。しかも、それを信じる人間が少数であろうともいるというのが、どうも信じられなかった。と、いうか、あのカイコはよくわからないが、メイトは人間嫌いという風には見えなかったし、芽衣子たちとも普通に話をして笑顔も見せていたし、第一、正義感も強そうな印象を受けた。ならば、カイコの方が信者で、メイトはこの宗教の教えを知らずにここに住んでいるのだろうか。それは考えにくいだろう。こんな客人用の部屋にこの本が置いてあるということは、メイトは一度はこの本に目を通しているはずである。
「…何、これ」
「まともじゃねぇな」
しばらくしてカイコが自分の部屋に戻ってくると、そこではメイトがテーブルの上にあった本を片手に呆然としていた。
「…あれ、どうしたの、めーくん?」
「…だよ…これ…」
「え?」
「何だよ、これ!?この間のリビア教の教会がやられたのってまさか…っ!?」
その手にあった本は、爆弾を作るための本だったのである。
それを見たメイトはしばらく静止していたが、カイコガ来たことに気づくと、本を突きつけてカイコを問い詰めたのだ。本を見られたことに気づいたカイコは仕方がないというようにため息をつき、顔を上げた。
「…説明、する。…来て」
そういったカイコはあまりにも冷静で、メイト悪寒に似た何かを感じた。
いきなりドアが開き、メイコが顔を出した。
それに気づいてリンとレンが振り返ると、メイコは少し困ったような顔をして部屋を見渡した。
「どうしたの、母さん?」
「メイトがいないのよ。来てない?」
「買い物に行ったんじゃないんですか」
「帰ってきてるみたいなのよ。靴もあるし、買った物も玄関に置かれてたしね」
どうしたものかと困っているメイコに、リンが応えた。
「来てないよ。カイコさんの部屋じゃないの?」
「ああ、そうね。わかったわ。ありがとう。メイトが来たら、私が探していたって伝えておいて」
「わかった」
そういうと、メイコは部屋を出て行った。おそらく、これからカイコの部屋へ向かうのだろうが、あんな宗教本を読んでしまった後だと、どうも用心深くなってしまう。
一度、メイコが入ってきたことによって遮断されたリンとレンの会話は、これから持ち直そうと思えるものではなく、どちらかというと一刻も早くこの状況をどうにかしたいものだった。この無言の状況を脱するべく、レンは自分の荷物の中に入っているスポーツドリンクに手を伸ばした。
「あ、私のもとって」
リンの分を手渡し、ペットボトルのふたを閉めてバックに戻すと、レンは立ち上がってドアを開いた。
「レン、どこ行くの?」
「トイレ」
「ああ。いってらっしゃい」
「…ん」
わざわざトイレに行くだけのために言ってらっしゃいを言われるようになるとは思っていなかったが、取り敢えずレンは否定せずに部屋を出て行った。
トイレを済ませ、レンが部屋に戻ろうとしていると、ふとカイコが壁の大きなこげ茶色の本棚に向かって何かをしているのが目に入り、レンはそっと近づいた。本の整理をしているのか、カイコはいくつかの本を並べ替えているが、その並びはばらばらで、逆にとりにくくなってしまいそうだ。それを見ていて我慢できなくなり、レンはそっと手を出した。
「ここはこうしたほうが本、見つけやすくなりますよ」
「えっ?」
驚いているカイコの手から本をさっさと抜き取り、本を並べていく。既に並んでいた本もきれいに並べなおし、レンが少し満足しかけたとき、本棚が少し動いたように見えた。
「…ん?」
「あ、ありがとうございます。も、もういいですから、部屋に戻って…」
「動く…な…っ?」
本棚は、ちゃんと本を並べると動く仕組みになっていたらしい。
本棚を両手でよけると、底からは地下になっていて、いくつかの棚と埃しか見えなかったが、よく見ると何かが――。
「あれは…っ!?」
後ろから押されたかと思うと、レンは一気にバランスを崩し、本棚の向こうへと飛び込んでしまった。頭をさすりつつ戻ろうとすると、いきなりカイコが本棚を元の位置に戻してしまった。光が途絶える。
「な…!おい、何するんだ!聞いてんのか!おい!!」
閉ざされた本棚はただの木の壁でしかなくなり、レンがドンドンと手で叩いても相手からの応答はなく。
「…聞いていたって、開けちゃくれねぇよ」
後ろから声がしたかと思うと、棚の一つがガタガタと音を立てた。その物音のするほうへレンが恐る恐る近づいていくと、そこにはメイトの姿があった。しかし、メイトは両手を手錠で棚につながれ、自由が奪われていた。
「…それと、今、ここ、密閉されてるからあまり騒ぐと空気、減るぞ」
「…何があった?」
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リオン
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こんにちは、Ж周Жさん。
犯人はカイコだったんですね、私も驚きました(?)。
空気なくなってお陀仏とか、そういうラストでもなんか面白いかなぁ…。とか思ってますよ(笑)
別にメイトがMなわけではありませんが、油断しているといつもカイコが遅いに来るだけです。
カイコはいたずらこそしないものの、メイトがいるとつい…っていう子かと思いますね。
メイトはそういうのわからないけど、カイコはそういうこと凄くわかってそうじゃないですか(笑
メイト君はそんな子でいいと思います!!
2009/11/08 14:16:33