ミクさんとの通話を切って、暦君はスマホをしまった。

「コヨミさん、すみませんね。追い出しちゃうみたいで」
恐縮顔で言うオーナーに、彼は首を振った。
「いえいえ、いいんですよ。また明後日、お邪魔させてください」
「喜んで。お待ちしてます」

オーナーに挨拶をして、暦君たちは、スタジオの扉を出た。

いままで、ライブハウスのスタジオで、今度おこなうライブの練習をしていた、彼とバンドの仲間たち。
スタジオを借りる時間は終わったが、次の練習のお客が来るまで、かなり時間があった。

そこで、なじみのオーナーに甘えて、その場所を借り、ミクさんと会おう、というつもりだった。
ところが、急にお客の申し込みが入って、場所を空けなければならなくなったのだ。

スタジオを出て、メンバーの一人が言う。
「サナギちゃんの行方、まだわからないの?気になるね」
「うん。まだ。ねえ、みんな、誰かに連絡とか、ないよね」
暦君の言葉に、みな、心配そうに首を振る。


●地下鉄の車内が...

「じゃ、とりあえず、また明後日、ここで会おう。僕はこれから、ミクさんたちに会ってくるよ」
「うん、さよなら」
「暦さん、気をつけてね」

バンドのメンバーは手を振り、バラバラに帰路につく。
暦君は、地下鉄の駅を目指した。
スタジオから、ミクさんたちのいる「ニコビレ」まで、地下鉄を使えば、おおよそ30分で着くはずだ。

電車の入口を入り、地下に降り、改札を抜ける。
そして、ホームに滑り込んできた、電車に乗った。

車内はさほど、混んではいなかった。でも、座席には大体、人が座っている。

彼は空いている席に座って、ポケットから、スマホを取り出した。
サナギちゃんの事が気になる。
やはり、スマホに連絡は、何も入っていなかった。

スマホをしまい、周りを見る。
「?」
彼は、思った。何か、周りの様子がヘンだ。

彼のいる車内で、座っている人たち、すべてが、眠っている。
それも皆、熟睡しているようだ。身動き一つ、する人はいない。


●誰からの着信?

ゴトン、ゴトン。
単調な響きを立てて、電車は走り続けている。

「うへぇ。みんな寝ちゃってるよ」
何となく変な感じを振り切るように、小声でひとり言を言ってみる。

ゴトン、ゴトン。
周りの人は電車の揺れに合わせて、深く眠り込んでいる。

次の駅が、近づいてくる。
彼は、また「あれ?」と思った。

駅名を知らせる、アナウンスがない。
車内の騒音で、聞こえないのかと思い、耳をそばだててみた。何も聞こえない。
「変だな」
彼は思った。

プルル...その時。
ポケットのスマホが振動した。メールの着信だ。

彼は着信を確かめる。発信者は...
“はっちゅーね”。

「なんだ、これ」
そんな名前は、登録していない。彼は、うろたえた。

「オイオイ、“はっちゅーね”って、誰だ?」(・・∂)

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玩具屋カイくんの販売日誌 地下鉄の着信(273) 

謎の着信は、いったい何?

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投稿日:2016/04/10 13:15:45

文字数:1,207文字

カテゴリ:小説

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