私たちの日常も、今日で最後になるらしい。
私たちの頭上には、
星よりも明るい光が幾つも見える。
それらは、私たちの方へと近づいているようだ。
どの報道番組も、その光の事しか話さない。
あれはきっと隕石だ。
光の正体が隕石群であると、
誰もが信じて疑わない。
「上空からアンノウン反応、
緊急警報発令、緊急警報発令」
世界中で避難勧告が出され、
あちらこちらでサイレンと、
端末に搭載された緊急アラート音が鳴り響く。
窓から外の様子を見る限り、
外出は控えた方が良さそうだ。
殺し合いをする者、泣きじゃくりながら祈る者、
訳も分からず逃げ惑う者、気絶する者、喜ぶ者、
みんな、自我を失っている。
「あぁ、これが世界の終わりか」
上空からは、徐々に光が近づいて来ている。
あれが私たちの所に来るまで、残り三時間。
それじゃ、これからどうしようか?
ここで静かに終わりを待つのも悪くない。
専門家が公言している通り、
何処へ向かってもアレからは逃れられない。
政府の人間が自分たちの為に用意していた地下シェルターも、マトモに機能してないそうだ。
家の中で出来ること。
私にとって、最後に相応しいこと。
思い出諸共消えるなら、
最後くらいは笑顔で過ごそう。
私は、携帯とテレビを消して、
外部からの情報を完全に遮断する。
これ以上知ったところで意味は無い。
それから、コーヒーミルを食器棚から取り出す。
食卓には、先ほど焼いたばかりのトーストと、
愛読している一番お気に入りの本が置いてある。
ワイヤレスイヤホンから聴こえる緩やかな音楽。
ピアノの音が、憂鬱な今の私を癒してくれる。
後片付けも欠かさない。
いつも通りでいい。
私の最後は、これでいいんだ。
これが、私の生き方なのだから。
「それじゃ、またいつか」
私は、出来立てのコーヒーを一口飲んで、
そのまま眠りに落ちた。

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旅人書房と名無しの本(またいつか)

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投稿日:2023/09/15 23:14:09

文字数:785文字

カテゴリ:小説

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