八月の雨が地を濡らし 熱く揺れる陽炎を連れてきた
青い空を往く鳥を眺めて
そう、僕らは遠い昔確かに空を飛んでいた

天気輪の柱に昇り そこから見える青に手を浸した
“宇宙(そら)から見るこの星も青いって”
そうしてさかさまの地球を仰ぎ見る夢を見た

駄菓子屋で買った模型飛行機 飽きもせず暮れるまで飛ばした
歪んだ軸ですぐに地に落ちる それを拾ってはまた飛ばして
あの日僕らは疑いもせず いつかあの空の向こうまで飛べると信じてた
だけどいつしか荷物は増え 気付けば羽はちぎれてた

青い朝風に吹かれて 遠くなる空だけが綺麗
涙、泥にまみれて這いつくばる僕はまだ惨めに地の上で足掻いている
もしもあのとき出会わなければ
きっとこうして迷わずに空を飛べたのに
あの日の夢を乗せた翼が折れた後には 何も残らない


土煙上げる車の音に 蝉の声が掻き消されていく
揺れる向日葵に思い馳せて
そう、僕らは確かに昔空を飛べたはずなんだ

終わらない夏が迫り来て 僕のあの青い夢は潰えた
もう一度自由に空を飛びたくて
もがいてみても黒いバラ線に引っかかるばかり

宵闇をつんざく鋼鉄の咆哮(うた) 一つまた消えてく散り散りの星
歪んだ線が世界捻じ曲げて 僕ら地上でも引き裂かれて
この瞳は今も疑いもせず 開かれてるはずなのにあの宙(そら)が見えない
見つけたあの模型飛行機 歪んだその羽も破れていた

白い朝日に照らされて きらり光る翼が綺麗
突き放された空が血煙で閉ざされる、あの雨の降らない宙天はどこ?
もしも愛なんて知らなければ
きっと今も苦しまずに空を飛べたのに
あの空の虹が雨で掻き消された後には 何も残らない


すべて崩れ去った焼け跡で 夕空にあの日の僕らを見ていた
何も疑わない天使の心のまま
そのまま時間を止めていられたなら・・・

代わりに手に入れた翼は 置き去りの夢が乗るのを待っている
すべて失くしてしまった今でも
まだこの胸に隠したものがあるよ――――”Lift off”

陽炎に揺らめいて 消えゆく空だけが綺麗
あの日の空には戻れないまま研ぎ澄まされすぎた感覚だけが今も痛む
だけどあのとき出会えたから
何処よりも美しい空を見られたんだ
たとえそれが誰の記憶にも残らなくても もう迷わない、“それでいいんだ”

朝風が羽を包んで 遠くなるこの世界の鼓動
傷ついて汚れた魂は今、負った罪を超え生まれた空へ還って行く
長い刻(とき)の宙(そら)に咲いた刹那に
ほんの一瞬だけの夢を見ていたのです
オレンジに褪せた世界が過ぎ去ったあとには 何も残らなくていい


君以外―――――

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

ロスト・エンジェル

――――何も残らなくていい。

60作目を完成させて投稿したその日にまさかの61作目を投稿。自分には珍しい、スピード作詞となりました。
内容としては以前投稿した「Indigo Fine Sky」の改訂版…というか別解釈ものです。八月は過ぎましたが、去りゆく夏が惜しいので書きました。

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投稿日:2013/07/28 22:42:30

文字数:1,095文字

カテゴリ:歌詞

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