あの後神威さんは意識を失って倒れた。
補正が効いているにも関わらず、出血が多すぎるという理由で。


で。





『本っ当に、ごめんなさい!!!!!!』



現在、改造専門店『ネルネル・ネルネ』本店でございます。
簡潔に状況を述べますと、ルカさんが神威さんに土下座してます。

……え。


「私、何があっても二人を守れって頼まれたのに…先生に怪我をさせてしまった。ルカちゃんを怖い目に遭わせてしまった。これじゃゆるりーさんに顔向けができない…」
『我輩もだ。力を分散させてこちら側に気を回していなかった。猫又として最低なことをしたのだ』
「ごめんなさい」
『すまなかった』


ロシアンさんも少し申し訳なさそうに頭を下げる。
わずか一日の付き合いでもわかる。神獣であり相当高いプライドの持ち主であるあのロシアンさんが、別世界のたかが人間の私達に頭を下げるなんて。
ルカさんは顔を上げる気配がない。


「あ、あの、ルカさん、顔を上げてくだs」
「ごめんなさい」
「えーっと…」


ルカさんが平謝りである。
どうしよう、やばい。何がやばいって、このカオスな状況が。


「刑事さん。顔を上げてくれないか」


私よりもとても冷静な声で言う神威さん。
すんなりと頭を上げるルカさん。
本人の言葉だもんね。そりゃそうね。
ということは私はどうでもいいってことね。同じルカなのにどういうこと。


「俺は別に気にしていない。あれは俺の不注意だ、刑事さん達のせいじゃない」
「でも」
「俺が油断さえしてなければこんなことにはならなかったし、ルカを怖がらせることもなかったんだ。…悪いのは、俺だ」


そう言って顔を背ける神威さん。
凄く戦士みたいなこと言ってるけど、この人役者だよね。教師だよね。
別にそこまで自分を責めなくてもと思ったけど、こういう人だもんね。

でも私だって何もできなかった。
大切な人が、マスターの大切な友達の町を守るために戦ってくれた。
なのに私は何もできずに足を引っ張るだけだった。
ただ守られている分際で―――


「私…私のせいです…」


役立たずのくせに、傷つけた。
いつも守ってもらえると、幻想を見ていた。


「…皆、なんか勘違いしてないか?」


拳をぎゅっと握り締めたとき、神威さんの声がぽつんと響く。


「あの一撃で大怪我をしたって思ってないか?」
「え?だって、そうじゃないですか」
「えっとな。元々あったぞこれ」
「えっ!?」


ちょ、ちょ、はい!?
待って待って。


「えっとね、ヴォカロ町の補正は防御にも適用されるの。元々Turndogが死なないためにできたシステムだから、普通の人間が私達やどっぐちゃんに攻撃されても軽く意識を失う程度にまでダメージを落とすことができるの」
「そ、それで?」
「うん、本来ならあの程度の攻撃であの怪我はありえないの。そこに『元の世界でできた傷』さえない限り…ね」
「え?」


つまりそれって…。


「お察しの通り、俺はこの右脇腹を攻撃されれば…並大抵の出血では収まらない。最大級の弱点だろうな」
「でもそんな傷、いつの間に…」
「まあいろいろあるってことさ。それにおそらくこの傷は、もう一生治らない」


さらりととんでもないこと言ったよこの人。
でもそんな大怪我がある素振りなんて、彼は少しも見せなかった。
…どこに演技力を使ってるのよ。
あまり無理してほしくないよ。


「今回の件で、ヴォカロ町の補正システムの問題点がわかったわね…こんな形で見つかるなんて、本当はあってはならないのだけれど」
「いや、気にすんな。古傷程度だし、いつもの生活さえしてりゃ支障はないからな」


あ、つまり攻撃さえされなければ別になんてことないってことか。
でも…それならあの怪我は、いったいいつどこでしたものなの?


「湿っぽい話になっちまったな。まあなんだ、明るくいこうぜ。…ネルって言ったか、ありがとな」
「別にそんな凄いことはしてないわよ?『あの』ゆるりーさんとこの大事な家族なんだから当然でしょ」
「「(『あの』ってどういうことなの(なんだ)…)」」


うちのマスターどうしたの?
てか普段何してるの?
そんな変な事してないよね?


「最近のゆるりーさんは、こたつでぬくぬくしてるよ?」
「それってかなりあ荘の話ですか?」
「ええ、そうよ。あとさっきも言ったけど、スターシルルスコープを作らせてもらったわ。『清花ちゃんと掃除ができる!』って飛び跳ねて、扉に頭ごーんってぶつけてたわ」
「あ、なんだ通常運転じゃないですか」


あえてほとんど突っ込まないけどね。


「あとゆるりーさん、そろそろちびボカロ頼んでもいい頃なんだけどなあ…まだ誰もこないからなあ…」
「ちびボカロ?」
「俺達がいるのにか?」
「んー、でも『うちのがっくんやルカさんを増やすのは嫌ー』って言ってたわね。なんでかしら?」
「……多分、同じキャラクターに被らないようなキャラ設定が面倒だからでしょうね」
「おっとルカそれ以上は言ってはいけない」


あら口が滑った。


「まあともかく、私のいいお客さんよ。見てて…面白いわよね?彼女」
「それ聞いたら多分あいつへこむぞ」


面白いと言われる度に「やっべ、わたし人生の選択間違えてるわ」って思うマスターだもんねえ。


「さ、十分休憩したし…やるか」
「え?先生、何をするの?」
「何って…刑事さん、あんた今朝言ったよな、『今日一日刑事として動いてみないか』って」
「い、言ったけど怪我させちゃったし申し訳ないわよ!!」
「いや、しっかり働かせてもらうよ」





その後。
バイクで逃げるひったくり犯に向かって矢を放ち、見事エンジン部分を撃ち抜いて捕まえたり。
迷子の子猫を木に登って助け、猫じゃらしで手懐けながら無事飼い主の元へ届けたり。
マルチ商法を勧めてくる悪質で有名だった詐欺師をマシンガントークで捻じ伏せ、無事その悪事に幕を下ろさせたり。
偶然出会ったスリに財布をすられ、後ろも見ずにチョークを投げて激突させ財布を取り返して捕獲したり。
その他ちょっとした事件を次々と解決し、『通りすがりの白衣刑事(名付け親:マスター)』の名が広まったとさ。



「…何伝説残してるんですか」
「俺はいつも通りに動いたけどな」
「普通はあんな装備で動く刑事なんていません!」
「鞭で動く刑事もいるはずだけどな」
「むむむ…」


ああ、ちょっと調子に乗ってる。
持っていたチョークを手に思いっきり握って、


「もう!少しは自分を労わってください!」


神威さんに投げつけた。





《ぺちっ》




可愛らしい音が響く。



「おい、俺の顔に投げつけたってその下手くそな腕じゃ意味が…」


そこまで言いかけた神威さんの表情が、段々と固まっていく。
沈黙が降りたなんともいえない空気を、悠々と泳いでいく違和感。


「お、おかしいわよこれ。今のルカちゃんがあんなに全力で投げつけたら、いくら補正の効いた先生でもちょっとは痛がるわよ」
『なのにあの気の抜けた音、それに神威の反応…』
「待てよ、まずいぞ…まさか」

「私にだけ、補正が効いていない?」


そういえば。
この街に来たとき、神威さんのほうは通り魔を倒したときに確認できたけど。
私のほうは一切確認できてない――否、確認をする必要もないと思い込んでいた。


これ―――とんでもないことになってるんじゃ?









《ガッシャアアアアアアアアン!!!》





シリアスな空気を切り裂く破壊音。
まるでガラスを内側からぶち抜いたかのようなその音は―――

待 て よ ?




「あ、あれ?ここどこ?しかもなんか叩きつけられたショックで体中痛いし…んー?」


それは私達ボーカロイドにとって聞き覚えのある声。
昨日センターステージでも聞いたけど、どこか質とトーンの違う歌姫の声。
この声は――



「しかも変な力ついちゃったし…ここがどこかもわからないし、本当どうしたらいいの?」


「は!?」
『なっ!?』
「なんで!?」
「どうしてお前が…」



『『ミク(ちゃん)っ!?』』



そう。

そこに空気を読まずに現れたのは、電子の歌姫。
最強のドジっ娘スキルを持ったみかんゼリーを心から愛する少女。

ゆるりー家―――我が家の初音ミク。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

ヴォカロ町へ遊びに行こう 11【コラボ・ゆ】

テストの馬鹿ああああああああああああああああ!!!!!!!!
どうもゆるりーです蚊に指されて超かゆいです!!!!!

前回からかなり間が空いたのはだいたいテストのせいです。
そしてネタがもうこれしか思いつきませんでした。

時期的には三月末から四月上旬の設定です。
ミクさん?あれはこの時期に収録した設定です。
謎のSEと共に現れたミクさん。
一部の方には、彼女がどんな『人間離れした力』を持っているかおわかりですね?

あと伝説を残した先生。何してんだ。


第10話:http://piapro.jp/t/RS_a
第12話:http://piapro.jp/t/CYWD

投稿:2014/05/26

閲覧数:216

投稿日:2014/05/26 22:29:23

文字数:3,478文字

カテゴリ:小説

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  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    『おいあのルカさんが土下座してんぞ!』
    『あのロシアンが頭下げてやがんぞ!』
    『何者だあの紫髪!』
    『俺もルカさんを平伏させたい……(´Д`)』
    店の外が騒がしいのでチョークを投げつけておきましょう←
    そしてさりげなくゆるりーさんをいじるネルちゃん。
    ゆるりーさんが泣いちゃうだろこのバカネル!(ただしやめろとは言っていない←)

    なんという伝説……w
    だがそれ以前にちょっと流石に事件置きすぎだよルカさん以外の皆さん何やってんの!!www
    そうそう、空気製のミサイルや爆弾を駆使して動く刑事もいるしな←
    (だがお気づきだろうか……そのワンマンアーミーな刑事が、一般人のはずの白衣に悉く先を越されているという事実に……!!)

    ぺちっwwwww
    どんな非力な腕で投げても流石に『こんっ』ぐらいはいくんじゃwww
    それにしても怪物級である先生に効いてその辺の少女を強化しただけ位のルカちゃんに効かないって……
    どう理由づけすればいいのだろう(考えなきゃいけないのはあたい)

    ドジっ子はその身一つで時空を超える。

    2014/05/27 03:15:44

    • ゆるりー

      ゆるりー

      きっと騒然ですね←
      やめさせないあたりさすがターンドッグさんです←

      そしてまた新たな伝説が生まれるのであった。
      偶然が重なりすぎたんですよw
      最早軍人←
      というかもうこの白衣は一般人じゃないと思います。

      普通逆ですよねw(考えたのはミー)
      ただのエラーとか。

      さらっと時空越えちゃうあたりドジっ娘はすごい。

      2014/05/29 21:04:49

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