孤独な科学者に 作られたロボット

 ―――「良いかいリン。一つだけ、覚えておいてほしい言葉があるんだ」

 出来栄えを言うなら

 ―――「はい、ハカセ」

 …奇跡

 ―――「リア充爆発しろ」



<私の理解を越えている>



 「ハカセ。意味がわかりません。リアジュウとは爆発物なのですか。不安定な物質なのですか」

 私は首を傾げる。これはハカセから教わった、「理解不能」の仕種だ。だからハカセに私の意志を伝えるのには最適だと判断してのことだった。
 そしてハカセは、私の思考が出した結論の通りに私の意志を理解したらしく、真剣な表情で何度か頷いた。
 人間の男性としては長い髪が肩の上を滑る。最も、滑るといっても勿論そこには摩擦が存在する訳だが。

「いや、奴らは安定している。オクテットを満たした原子核の様にね。しかし我々は奴らを爆破しなければならない。…リン、分かってくれ。これは戦争なんだ」
「戦い。ではリアジュウとは敵国なのですか。しかし、そのように安定した国が存在したでしょうか」
「国ではなく、個人対個人の話なんだ。戦争というのは比喩だよ」

 眼鏡を掛けた青い瞳が私をじっと見ている。ハカセの身長は私よりも40.68cm高い為、私は少し見上げる形で会話をすることになる。
 しかし、比喩とは。幾つか覚えはしたものの、未だにその適用範囲の広さについては驚きを覚える。今回も「戦争」が個人間に適用されるとは。

「しかしハカセ、個人を爆発させると殺人罪に問われます。それでも良いのでしょうか」
「いや、リン。死なない程度に上手くやるのさ」
「成る程」

 答えを受け、即座に頭の中で計算をしてみる。
 爆発させるのはあくまで「リアジュウ」という人間であることを考えると、爆弾は手先足先に埋め込むのが順当だと考えられる。しかしそれでも血管に走った衝撃が心停止を起こす可能性は捨て切れない。肌の下に埋め込んだ場合、誤作動も不安だ。
 なかなか難しい。
 そこで私は、今度は違う切り口からハカセに質問をしてみた。

「ハカセ。ところで、そのリアジュウというのはどんな方達を示すのでしょうか」

 具体的な姿が分かれば何か工夫の余地が見付かるかもしれない…そう考えての質問だった。
 ハカセは少し考え込み、今度は苦々しい顔で口を開いた。彼がこのような顔をするというのは珍しい。

「現実が充実した、アニメやマンガの主人公じみた新人類の事さ。そして我々の敵だ」

 新人類。恐らくこれも比喩なのだろう。
 マンガやアニメは私も幾つか知っているが、大体の作品が現実では有り得ない展開を辿る。例えば、庭球王子の技とか。稲妻11の技とか。
 そして、その中でも主人公級ならば…

「我々、というと」

 私はハカセを改めて見詰め、その特性を検討した。個人対個人の敵、というと、ハカセが博士であることや男性であることではなく、もっとパーソナルな部分を考えなければならないのだろうか。
 と、すると…

・引きこもり
・運動音痴
・ニート
・ロリコン
・ニ●厨
・中二病
・●ちゃんねらー
・彼女いない歴●●年、独身
・友人ほぼ0

 などのステータスと関わりがあるのだろうか。
 分析の結果私はそう結論を出し、ハカセに告げた。
 途端にハカセは部屋の角に向かって体育座りをし、何やらぶつぶつと呟き始めた。背中には淋しげな雰囲気が漂っている。男は背中で語る、という格言があるようだが、つまりこういうことなのか。初めて実物を見た。
 しかし見たところ背骨がかなり丸くなっている…私はこのままではハカセの姿勢が悪くなってしまうという危惧に衝き動かされ、その真後ろに立った。つむじが見える。
 機械の私にはどうも気配というものが薄いらしく、かなり近寄ってみてもハカセが振り向くことはなかった。完全に自分の世界に入り込んでいる。

「いや確かにロリコンだけど、だからリンの外見ちっさくしたけど、バカイトやネギッ娘には関係ないじゃんか…なのに変態変態って罵ったあげく、『危険だからリンはうちで引き取る!』なんて…それじゃあ、僕が全力でリンを作った意味がないじゃないか…!うっかり人間通り成長させる機能付けちゃったからロリンなのもここ数年だし、時間がないんだよ時間がっ!早く僕も覚悟を決めて一歩踏み出さないと…あああリン可愛いハスハスリン萌えー」
「ハカセ」
「うぎゃあッ!?」

 まるで鳩が散弾銃でも喰らったような悲痛な叫びが私の鼓膜を叩いた。

「あ、リン…いたんだ」
「先程会話していたときからずっといますが」
「…ですよねー。でもうん、良いんだ、リンは僕の側にいてくれるんだしね」
「はい、います」

 私はハカセに作り出された。
 だからハカセの所有物、ハカセが望むのなら側を離れるようなことはするまい。
 何故私が作られたのか、それは未だに分からない。ハカセも、その話になると慌てたように話題を変えてしまう。
 敢えて追求はしない。
 代わりに、私は首を傾げた。何故なら。

「ハカセ。ハカセはリアジュウではないのですか」
「…うん」
「ハカセはリアジュウになりたいのですか」
「…まあね」
「恋人がいればリアジュウになれるのですか」
「絶対ではないけど、大体はそう」

 私は小さく笑顔を作った。
 笑顔は肯定、時に許容を示す。

「もしもハカセがお望みなら、私はハカセの恋人になっても構いませんが」
「!?」

 ハカセの目が真ん丸になった。
 そして何やら胸と鼻を手で覆い、そわそわとした様子で呟き始めた。今に始まった事ではないが、ハカセは独り言が多い方ではないだろうか。最も、同居しているのが私のような無口な存在では仕方ないのかもしれない。

「い、いや落ち着け僕…ここはフラグを折らないように慎重に。とりあえずリン」
「はい」
「『お兄ちゃんになら…いいよ』ってくれる?」

 ハカセが何を言っているのか分からない。

 いいといっても、何が良いのだろうか?前後の文章や会話がなければ何の意味もない気がするのだけれど…いや、先程の私の言葉の言い換え形なのかもしれない。しかし何故言い換える必要があるのだろうか。

「お兄ちゃんになら…いいよ?」

「うわああああああキタ―――――!ktkr!」

 博士の目が何故か怖い。
 息を荒くしてこちらに近づいてくるその姿に、何故か背筋を悪寒が走った。風邪だろうか、私は機械だというのに。
 とりあえず予防線を張っておく事にした。

「ですが私は未だに性的同意年齢に達していませんので、性的意味を持った接触は、これを拒否します」
「リンに完全な知能と倫理感を搭載した僕の馬鹿野郎――――っ!!」

 号泣。

 …いや、寧ろそれはハカセの腕の良さを示していると思うのだけれど…何故泣くのだろう。犯罪願望でもあったりするのだろうか。
 それは危険だ。早めに予防しておかなければ。
 予防策を…と考えたところで、私はふとおかしなことに気付いた。

「博士」
「ぐす…何…」
「リアジュウとはもしかして『現実が充実している』ということですか」
「うん…」
「ハカセは私と一緒の生活ではご不満なのでしょうか」
「いやいやいや、むしろ天国です」

 それなら。

「ハカセ。では、ハカセも元からリアジュウなのではないでしょうか」

 ぱちぱち、とハカセが瞬く。
 目が見開かれ、彼は非常に衝撃を受けた顔になった。

「その発想は………なかったっ!!」

 やはり人というのは難しい。
 私が人間を、その感情を理解出来る日というのは、果たして訪れるのだろうか。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

私の理解を超えている

書きたかったのは出オチの部分です
何か別のものが憑依…混ざっているような気がしますが気のせいです


最近はスティーブン・キングの「N」が頭から離れません!悪夢に近いな、大好きだ

閲覧数:1,580

投稿日:2011/03/02 14:06:55

文字数:3,157文字

カテゴリ:小説

  • コメント5

  • 関連動画0

  • なのこ

    なのこ

    ご意見・ご感想

    リンちゃんwwリアルに爆発考えてるしwww                                    

    いやwwまぁww私の理解も超えてますけどwwwwこwwれwwはww             

    あ!でも博士!一歩間違えれば死亡フラグだからねー!!                           
    2chでミクシィなんて・・・とか言ってそうですね・・・いや・・・ミクシィはリア充コンテンツだ!!                                                   

    ブクマもらいます

    2011/06/13 07:25:19

    • 翔破

      翔破

      コメントありがとうございます!
      よく「リア充爆発しろ」と言いますが、実際爆発させたらどうなるかを考えてみました。
      ロボリンちゃんが冷静な判断していたらとても萌える。
      多分ハカセは2chで「リア充プギャーm9、寧ろ俺勝ち組!…あれ、目から塩水が…」なんてこと書き込んでいるんだと思います。ハカセ…

      ブクマありがとうございます!

      2011/06/13 22:24:32

  • 紅華116@たまに活動。

    始めまして。紅華116です^^

    パソコンの前で爆笑して、家族に変な目で見られました…orz
    イケレンもスキですが、変態なレンもスキなのでうれしかったです!!

    ブクマいただきます♪

    2011/03/14 20:44:14

    • 翔破

      翔破

      はじめまして、コメントありがとうございます!
      爆笑していただけましたか!ありがとうございます!
      でも周囲にはご注意ください…私も良くパソコンの前でニヤニヤして親や妹に非常に冷たい目を向けられます。

      私もレンではイケレンかマセレンが好きですね!
      しかし私の中でのレンは大体変態かロリコン…どうしてこうなった…

      ブクマありがとうございます、今後も精進します!

      2011/03/14 20:57:33

  • 碧黄‐aoki‐

    碧黄‐aoki‐

    ご意見・ご感想

    全力でつられましたwww
    【リア充爆発しろ】って何言ってんのw博士!!
    貴方は、シリアスでもギャグにとばす事が出来る神様なんですね。分かります←

    ブクマさせていただきました!!
    良い笑いを有難うございました!

    2011/03/11 22:56:43

    • 翔破

      翔破

      メッセージありがとうございます!
      なんだか海老で鯛が釣れてしまいましたね…ナイス自分
      正確に言うと、私の頭はシリアス展開が勝手にギャグになってしまう残念な作りになっています。

      私の作品で笑って頂けたなら幸いです。
      ブクマもありがとうございます、今後も精進していきます!

      2011/03/11 23:56:42

  • 秋来

    秋来

    ご意見・ご感想

    ロリコンのレンもいいですね^^
    しかも元からリア充の発想が無かったって(笑)
    初めは純粋にココロだと思ったら
    このオチwww
    はまりました^^
    これからもがんばってください!

    2011/03/04 01:00:07

    • 翔破

      翔破

      コメントありがとうございます!
      いろいろと小説は書いていますが、大御所ともいえるココロ系統に一切手を付けていないのに気付き…どうしてこうなった?
      ありがとうございます、これからも精進します。
      今後とも是非よろしくお願いします!

      2011/03/04 05:10:15

ブクマつながり

もっと見る

クリップボードにコピーしました