王子様ちっくな爆弾発言と、花一匁みたいなパートナー選び、そして人間関係のゴタゴタ…実に実にペンが進む状況に思わず顔がにやけてしまいそうだった。新しいメモ帳とスケッチブックが必要かも、なんて通路を歩きつつ頭の中で計算していると、傷だらけの拓十君が横切った。
「不本意且つ屈辱~って所かな?ウサギさんは。」
「またアンタかよ…つか、皆どうな訳?こんなふざけた遊び正気じゃねぇだろ、倉式は相変わらず俺の事目の敵だし。」
ぶつぶつと文句を言いながら苛立たしげに自販機のスイッチ連打。なかなか理想的な天然っぷりはキャラとしては美味しいのかも知れないけど…。
「君確かに不快だね、緋織ちゃんが目の敵にするのも解る気がする。」
「なっ…?!俺が何したって言うんだよ?!」
手帳に一挙一動をメモしつつ話し掛ける。くるくると判り易く変わる態度は私のペンを飽きさせない。手にした缶珈琲を開けもせず、矛先が変わったと言わんばかりに不機嫌そうな顔と声を向けた。
「緋織ちゃん可愛いでしょう?スタイルも良いし、それに成績も良くて、でも悪びれてなくて。」
「何が言いたい訳?見習えとでも?」
当然の様に怒る、そして考えようとはしていない。無神経且つ単純、怒るのも無理は無い。緋織ちゃんも、そして私も。だからかな?私のペンも言葉も止まらない。
「女の子がふわふわのんびりしてる生き物だとでも思ってる?何でも揃ってる子が平穏無事に暮らせると?現実なんて残酷でしか無いの、ちょっと可愛ければ僻まれて、何をやっても出る釘さながら叩かれて、否応無しに宝物を粉々に砕かれて孤独の真ん中に放り投げられて、でも誰も助けてくれず、強くなるしか生きていく方法は無いの。」
苛立っていたであろう拓十君はどんどん視線を泳がせた。何か言おうとしてるけど言葉が出て来ない感じが見て取れる。16歳に解れって言うのは酷かしら?でも子供だからって何かあってからじゃ遅い。
「そんな地獄みたいな中で友達が居るのは奇跡みたいな物よ、あの子の場合はそれがしふぉんちゃん。解る?うさぎさん。君がふがいないとしふぉんちゃんが危険な目に遭うかも知れないって事。悪いけど私だって大事な大事な宝物を今の君に預けたくはないかなぁ?君弱いもん、心身共にね。」
飲む気配が無い缶珈琲を取り上げて、俯いて唇を噛み締める拓十君を背にラウンジに向かって歩いた。不意を突く様に斜め後ろから声がした。
「坊や相手に容赦無いな、鶴村。」
「変態さんに言われたくないかも。正直君のやり方も微妙に萌えないのよね…天城会長。」
「面倒な相手に声高に好かれてる女はいじめる気にならないだろうと言ったのはお前だぞ?鶴村。」
面倒な相手って言うのは敵に回したくない有能なタイプ、ってつもりで言ったんだけど、こんな一直線なボケだって知ってたら考えたかも。盛大に人選ミスッた感。
「君違う意味でも面倒だからねぇ…出来れば眼鏡クイッな生徒会長タイプが個人的には…。」
「眼鏡?よし、帰りに眼鏡を見立ててくれ、鶴村。」
「だが、断るー。」
だってこの人勉強以外バカなんだもん。
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「...いちごいちえとひめしあい-80.蚊帳の外-
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