episode1-2
「…お車の用意が整いました。どうぞ、お乗り下さい。」半兵衛の丁寧な案内で、車に乗り込む濃巳と信崇。「それでは、お嬢様…。どちらまで参りましょうか?」「そ、そんな!…お嬢様、なんて…。申し遅れました…。私は及川濃巳と言います。この度は、お世話に…」「はい!…堅苦しい挨拶は、抜きにしましょう…濃巳さん。さてさて、流石の私でも…行き先を教えて頂かないと、車を出せませんよ。」バックミラー越しに、半兵衛の笑顔が零(こぼ)れる…。「すみません!…あ、あの…八幡神社って分かりますか…?そこから、家は2~3分ほどであるので…。」「はい。存じ上げておりますよ。…それでは、出発致します。」車がゆっくりと動き出す…。「聞いてもいいかな…。あの長い物は、弓なの…?」「はい…。実は、私は弓道をやっておりまして…沖田様の屋敷の近くにある、弓道場に出稽古(でげいこ)に行った帰りだったのです…。」「そっか…。あの道場主(どうじょうぬし)は、確か…」「岡田将子(おかだまさこ)様です。全国弓道連盟の理事長を納めていらっしゃる方です。」半兵衛が信崇の手助けをする。「良くご存知で…。調子を崩した…所謂(いわゆる)、スランプに陥った人を丁寧に、根気良く手伝って頂ける…凄い先生なんです。時たま、私も通う事もありまして…。バスの時間に焦ってしまい、時刻表を見間違えて…この様な事態になったと言う訳でした…。」「…まぁまぁ、出会った人が信崇様で、本当によろしゅうございました。」半兵衛が宥(なだ)める様に話す。「…世の中は誰かのお陰で、成り立っているものだと思うよ。「お互い様」って言葉あるのも…そんな事を指しているのかもね…。持ちつ持たれつで、いいんじゃない?」ニッコリ笑う信崇の笑顔に…また固まってしまう濃巳。『見れば見るほど…似てるよねぇ~。』「あの~…濃巳さん…?大丈夫ですか…?」「はいっ!…大丈夫です。」顔を覗き込む信崇に、慌てる濃巳。「…信崇は、良い事を言われる様に成長なされましたな…。60年以上、生きて来た私でさえ、納得させられました。いやいや…驚かれされました。」「い、いや…あの~っ…何かの本で書いてあった、受け売りだよ!」慌てて、照れてる信崇。「…そんな風には思っても見なかったです。誰かのお陰かぁ~…。なんか、いいですね。」にこやかに笑う濃巳の笑顔が、眩しく感じる信崇であった…。「…到着致しますが、本当に、ここでよろしいのでしょうか…?」「はい。家まで2~3分ですから。今日は、本当にありがとうございました。何か、お礼をと思いますが…今は思い付きません。後日改めてお伺い致します。」ペコリと頭を下げる濃巳。「…そんな事は気にしなくていいですからね。「お互い様」だ.か.ら.…ねっ。」笑顔で見送る信崇と半兵衛。濃巳も小さく手を振る…。
「…春風のような、お嬢様でしたな…。また、お逢いしたいと想わせるお方ですね。」しみじみと話す半兵衛。「…うん。」濃巳の座った場所に、何気なく眼をやる信崇…。『んっ…?これは…濃巳さんの忘れ物だろうか…?』細かい作業の元に造られた、矢と的(まと)のキーホルダーを手にする。的の裏には、家紋の様なものが記されている。「…その家紋は『二頭立浪(にとうたつなみ)』と言われる斎藤家の独自のものでございます…。及川様は、斎藤家と縁(えにし)が在るのやも、知れませんなぁ。…これは、あくまでも私の推測に過ぎませんが…。」頷く信崇…。『これで又、濃巳さんに逢える。』少し微笑む信崇を…バックミラー越しに見て、信崇の遅い春を祝福する半兵衛であった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

歴史を変える、平和への戦い

閲覧数:10

投稿日:2024/03/17 17:04:28

文字数:1,493文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました