「ねぇ、今ここに弟クン呼んじゃいなさいよ」

3本目のワインを開けた頃、カウンターの中でご機嫌な酔っぱらいと化したミサトちゃんは、名案を思い付いたというように手を叩いた。
あらそれいいじゃない、呼んじゃえ呼んじゃえと野太い声の賛同が続いて、慌てて首を振る。
「だめだめ、カイトお酒飲めないもん」
「あら、飲めなくったって構やしないわよぉ」
「そうよぉ、アタシたちメイコちゃんのご自慢が見たいだけだもん」
ピチピチのドレスを誇らしげに纏ったルミちゃんとゴマちゃんが身をくねらせる。顎の辺りがうっすらと青いことと体が分厚いことを除けばその仕草は完璧に女の子だ。

いつしか常連になった、新宿にあるバー。雑居ビルに入った、いわゆるオカマバーというジャンルにカテゴライズされる店だけれど、私はこのシックで落ち着いた内装と気のいい従業員たちが気に入っていた。
だめだって、いいじゃないの押し問答を繰り返している内に酔いが回る。今日だけ特別といって開けて貰ったワインは最早カラ。いつもより急ピッチで進んだお酒に三半規管がシェイクされ、世界がぐわんと回転する。
いつしか突っ伏した顔の横、飴色のカウンターに置いた携帯電話が震える。ライトが3回青く点滅するように設定してあるのは一人だけ。カイトだけだ。
「噂をすれば弟クン?」
「…うん」
かちかちとゆっくり文字キーを打つ。長時間体を水平に保てないので返信は最低限。けれど、そんなこと百も承知なのか手慣れた返信が返ってくる。
(どこにいるの、帰ってこれるの、終電間に合うの)
他人の世話ばかりして自分のことはいつだっておざなりで。やってくるトラブルを友達みたいに受け止めて仕方ないなと笑う。カイトはいい子だ。姉弟になったあの日から、それはずっと変わらない。
じゃあここにとまってかえる、とわざと思ってもいないことを文字にした。何を言ってるの、早く俺のところに帰ってきなさい。そんな風に叱ってほしくて。
彼の呆れた顔を想像すると幸せな笑みが漏れる。

「あらやだ」
「この子ったら」
「寝たまま笑ってるわ」

遠くなる思考の向こう側でミサトちゃんたちの声。
ああ、いい気持ち。次に目覚めた時はきっとカイトが側に居てくれる。そう思うと、安心して意識を手放すことができた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【カイメイ】ニセモノシスター

こちら(http://piapro.jp/t/b95e)の、めーちゃん視点のお話になります。

!ご注意!
・現代パラレルです
・めーちゃん25歳(社会人3年目)カイト21歳(大学4年生)。二人は血の繋がっていない姉弟です。

カイトは自覚あり、めーちゃんは自覚なしの両片想い。
彼女はあくまで姉弟として、カイトに独占欲を感じている…と、本人は思っているようです。
オカマ書いてる時すげぇ楽しかったです。

※前のバージョンで進みます

閲覧数:1,639

投稿日:2012/02/03 00:11:37

文字数:950文字

カテゴリ:小説

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  • くらびー

    くらびー

    ご意見・ご感想

    ステップブラザーステップも併せて読ませていただきました!
    キョン子さんのカイメイを楽しみに生きてます~♪ 素敵なパラレルありがとうございました!!

    2012/02/03 00:01:50

    • キョン子

      キョン子

      >鎖骨☆様
      わわわわありがとうございます?!///
      また新しい現代パラレルでなんていうかもう…原型なくてすみませ…
      けれど愛だけは!カイメイへの愛だけは詰まっておりますので!
      鎖骨様に喜んで頂けるようなカイメイを書けるよう、これからも頑張ります!///

      2012/02/05 20:40:48

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