乾いた風が一瞬だけ、ひゅっと僕の後ろを通っていった。
「若干の規模の縮小はあるようだけど、計画は継続するみたいだよ。これも君の活躍のおかげかな。英雄くん」
彼の墓標を見下ろして、淡々と報告をする。
「と言っても君は嬉しい顔なんてしないか。ただまあ、流石に今のハイリスクな状態は嫌なようだから、もう少し装備者への負担を減らす方向に舵取りされるかな。ある程度デチューンして安定性を高めたモデルが開発されるだろうね」
僕が調整を担当していた彼が殉職してから早二月。事後処理を終えて一息つけるようになるまで、それなりに時間がかかってしまった。
僕は鞄から一通の封筒を取り出す。白く飾り気のないデザインだ。
「これから行ってくるよ」
彼を初めて見たときのことは正直ほとんど覚えていない。他の実験体と印象はさほど変わらなかったのだろう。顔と識別ナンバーを一致させるためだけの会合に、感情を動かされた記憶はなかった。
興味を感じたのは、実験開始から一年ほど経った頃だろうか。実験によるネガティブな影響が出始め、対象たちはほとんどが暗い目をしていた。実戦にも駆り出されることが増え、死者もわずかだが出ていた。
その中で一人だけ、色の違う瞳をしていたのが彼だ。僕はそれを不思議に思い、調整の担当を変更してもらった。結局、その源は特別なことなど何もない、とても有りふれたものだったけれど、人が希望を感じるにはそういうもので十分だということなのだろう。
僕はこれから彼の希望に会ってくる。彼の最初で最後の頼みを叶えるためだ。封筒にそっと触れ、呟いた。
「今どき紙の手紙だなんてね」
何か文句でも?という彼の台詞が頭に浮かぶ。いいや、文句なんてないさ。実に君らしい選択だよ。気持ちはよく分かる。
心の中で答えながら、封筒を鞄にしまう。墓に背を向け、車を止めてある道路に向けて歩き出した。もうすぐ日が落ち始める。
車のドアを開け、乗り込む前に、彼の墓を眺めた。
「……本当に予想外だったんだよ」
それは言い訳なのか驚きなのか、自分でも分からない。
席に着き、声に出さずに呟いた。
君と友人になれなかったことを悔やむ日が来るなんて、思ってもみなかったんだ。
コメント0
関連動画1
オススメ作品
それは、月の綺麗な夜。
深い森の奥。
それは、暗闇に包まれている。
その森は、道が入り組んでいる。
道に迷いやすいのだ。
その森に入った者は、どういうことか帰ってくることはない。
その理由は、さだかではない。
その森の奥に、ある村の娘が迷い込んだ。
「どうすれば、いいんだろう」
その娘の手には、色あ...Bad ∞ End ∞ Night 1【自己解釈】
ゆるりー
私の声が届くなら
私の歌が響くなら
この広い世界できっと
それが私の生まれた意味になる
辛いことがあったら
私の歌を聴いてよ
そして少しでも笑えたら
こんな嬉しいことはないよ
上手くいかないことばかり
それでも諦めたくない...アイの歌
sis
灼熱の太陽が消え 辺りが暗くなる頃に
打ち上がる真夏の花火
甚平姿の貴方の 背中に寄り添う私は
涙こらえきれず
この夏が過ぎ去る時
手が届かない場所に離れてゆく
楽しい時はいつまでも 続いてほしいと願った
打ち上げ花火上がるように 期待膨らませ
光と喧騒が 闇と静けさへと変わる前に
心に秘める声聞い...Last Summer
けんち
水浸しの靴の中
冷えた足で朝を迎える
昨日に置いてきたお別れで
鳴り止まぬ腹も諦め気味だ
どうして街はまた
ずかずかと笑顔取り戻せるのか
それって君達が何も感じれなくなったみたいでしょ?
遠吠えにしたって
最後には笑えるよう願って吠えてる
その時の想いはどこにある...嗤うマネキン歌詞
みやけ
A1
幼馴染みの彼女が最近綺麗になってきたから
恋してるのと聞いたら
恥ずかしそうに笑いながら
うんと答えた
その時
胸がズキンと痛んだ
心では聞きたくないと思いながらも
どんな人なのと聞いていた
その人は僕とは真反対のタイプだった...幼なじみ
けんはる
夕方の 瀬戸内を 君と僕 歩きたい
人生初の ビキニを 着てた 姿は とても 素敵な人と伝えたい
顔を真っ赤に してしまったね ほんとに 真っ正直だねと 思ったよ
可愛いくて 可愛いくて これからも 過ごしたい
泊りがけ 旅行に 同じ部屋 同士だった
浴衣姿の 君見て 心 おどっては とても 弾んで...高校生ラブストーリー
cl17
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想